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運命の人選

 アトラスたちは民衆から隔離された王宮を出て、森の川と呼ばれるせせらぎの畔で生活するようになった。

「秋の女神リルシネの息吹が……」

 エリュティアは息子のために新鮮な空気と生き物の気配を求め、天幕の外の椅子で寛いで過ごす事も多い。そんな母子を秋の涼やかな風が撫で、様々な生き物の声や香りを運んでくる。ローホムスの首には、父アトラスと母エリュティアの愛情の証として、ローホミルの種の入った守り袋が首から提げられて揺れていた。


 そんな光景はエリュティアが寝起きする天幕の近くを通る民の目に触れる。民衆はローホムスを抱いたエリュティアの姿を眺め、忘れていた安らぎを思いだして微笑んだ。

「まぁ、なんと愛らしいお姿」

民との距離が近い。事実、ローホムスを抱いたエリュティアの姿に気づいてぺこりとお玉を下げて挨拶をして行く者たちも多いのである。

 ローホムスは生まれて初めて、王宮の外の空気を民と共に呼吸した。首の守り袋が揺れる度に溢れる笑顔で民の心を癒す重責も果たしていた。


 この日の朝、アトラスはローホムスを抱いたエリュティアと並んでベンチに座って、散策に出る前の一時を過ごした。彼は行き交う人々を微笑ましく眺めていた。過酷な運命を背負いながら力強く生きようとする人々だった。

 エリュティアはアトラスが興味を向けた人々を指さして教えた。

「シュレーブ国ではたきぎを集めて売る者を火屋ルタカバル、井戸や川から水を汲んで売り歩く者たちを水屋ナーナバルと呼んでいました」

 彼女はそう言う事を聖都シリャードで人々と触れあって知っていた。多くの人々がこの地で生活している事を象徴する仕事である。夫アトラスが知らなかった事を教えてやれるのは心地良い。アトラスは妻の言葉を聞きながら満足そうに頷いていた。

 そんな合間にも大地が揺れる日々が続いて、人々の不安を煽っていた。


 アトラスたちの日々の散策は変わらず続いていた。ただ、民との距離は近くなり、アトラスの姿を眺めた民が声を掛けてくる。

 今日も、一人の若い女がアトラスに声を掛けた。

「アトラス様。リデントースが海に沈んだというのは本当ですか」

 そうはっきりと尋ねられて、話を逸らす事は出来ない。

「本当だ。深い森の中だ。何処も逃げる場もなく、神官や信者たちも苦しむ間もなく静寂の混沌に旅立った事だろう」

 民はそんな返答に納得していない。別の男が尋ねた。

「私たちは何を信じればいいのでしょう」

「ロッデルススたち神官はお前たちに教えただろう。死は別れや消滅ではなく、静寂の混沌ヒュリシアンで溶け合う事だと」

「しかし、それは死の世界の事です。我等は未だ生きているのです」

 生ある者は何をすればいいのかと言う。アトラスは少し考えて尋ねた。

「お前たちは、生ある我等を見守る神を信じているか?」

「大地を人々と共に海に沈めるなど、神々にしか出来ぬ事。そんな神が我等を見守っていると仰るのですか?」

「それは見当違いだ」

「何が違うのです?」

「もし、この災厄が冥界のエトンの仕業だとするならどうだ。他の神々は力を合わせても、たった一柱の冥界のエトンに太刀打ちできぬと言う事か。それとも、他の神々も我等を見捨てて破滅に追いやろうとしているとでも?」

 そう問われると、人々は神々の解釈に迷う。アトラスは言葉を続けた。

「我等の運命は我等のもの。神々を恨むな。神は信じるが良い。真理の女神ルミリアのように公明正大。月の女神リカケーのような寛容性、神々は母が子を見守るように我等を受け入れてくれる」

 アトラスの言葉に聞き入っていた若い女が尋ねた。

「では、私たちは何をすればいいのです?」

「我等を見守る神々に微笑んでもらえる事を。静寂の混沌ヒュリシアンで神々と相まみえる時、我等は幼子に戻って母なる神々に優しく髪を撫でてもらえるように」

 別の男が尋ねた。

「神々に微笑んでもらえる事とは?」

 アトラスは自分に言い聞かせるように言った。

「我等の生きた証を、自らの心に刻んで残せ」

 アトラスに言えるのはそれだけだった。彼もまた民と共に災厄の渦中にあり、生き延びる手段を探し求めていた。ただ、興味深い事は、アトランティスの人々が目の前で運ばれていく船を眺めながら、船に乗ってこの危険な地を脱出しようと思い至らない事だった。この大地の上で死ねば、その魂は静寂の混沌ヒュリシアンに溶け込むだけ。彼等はそうやって、多かれ少なかれ神々を信じ、信仰に囚われていた。


 同じ頃、エキュネウスがクセノフォンの天幕を訪ねていた。

【深刻そうな顔をしてどうした】

 クセノフォンの問いに、エキュネウスは用件を告げた。

【船旅に詳しい者を交えて相談がある】

【ちょうど、その相談がしたかったところだ。デミトリアスたち船乗りだった者を集めていたが、年寄りばかりだ。お前たちの仲間に船乗りが居るなら呼んでくれ】

 クセノフォンの言葉にエキュネウスは首を横に振った。彼の仲間で生き残った者たちは兵士ばかりで船乗りの経験者は居ない。

 エキュネウスが招き入れられた天幕には、十人ほどの老境の男たちが居た。奴隷としてアトランティスに連れてこられて久しいが、未だに海の荒波を乗り越えた船乗りの雰囲気を残す男たち。

 エキュネウスは素直に尋ねた。

【正確に、何人があの船で旅立つ事が出来るのだろう?】

 今まで真剣に考える事を先送りにしていた問題だった。王宮の工房でも見かけたデミトリアスが言った。

【人数だけを問われるなら六十人。しかし、それでは水や食糧を積む事は無理だ。東の陸地にたどり着くには、風向きと漕ぎ手の体力にも寄るが、少なくとも五十日以上はかかる旅になる。その間の食糧や水を積むとなれば乗れる者は三十名ほどかと】

 そんな言葉にエキュネウスはため息をついて言った。

【たった三十人か。私の仲間は私を入れて十二人。それにユリスラナを加えれば十三人。対してクセノフォンたちの仲間は千人を超えよう。十三対千。数の上では、貴方たちの仲間だけが乗る資格があるとうことだろうか?】

 彼の沈痛な声音に、クセノフォンが励ますように言った。

【友よ。こう考えろ。船を見つけたのが妻のユリスラナさん、その船を与えてくれと交渉しもらい受けたのが夫のお前。とすれば、お前たち夫婦には自分が所有する船に乗る資格がある】

 クセノフォンはもう一つ、夫婦の人柄を考えていた。

(この夫婦でなければ駄目だ)

 長い船旅には、嵐もあれば飢えや渇きで悩まされるだろう。絶望の縁に立っても船に乗る者をまとめ上げ、為すべき事、進むべき方向を示す事の出来る者が必要だった。何より仲間を従えるためには、仲間にも自分にも公平でいられる男。エキュネウスは若くともそう言う資質がある。

 そして、そう言う指揮官は得てして孤独だが、ユリスラナという女性は彼に寄り添って支える事が出来るだろう。


 クセノフォンは帰って行くエキュネウスの後ろ姿を眺めながら、肩をすくめて考えていた。

(ついでに、その船の所有者が、誰を乗せるのか決めてくれれば、良いのだが)

 もしも、運命をくじで決める事が出来るなら、どれ程、気分が楽だろう。しかし、クセノフォンは旅立つ仲間たちが生き延びさせる責任を感じていた。年寄りや病人、自分で自分を守れない子どもは、旅立つ者たちの中から除外せねばならない。そういう冷酷な判断が必要だった。

 彼は厄介な責任を背負ったと考えながら、船を曳く仲間たちを眺めて、無意識に体力のある者を選別していたりする。選別に漏れた者たちに心の中で謝罪していもいた。


 そんな彼等の元にも、リデントースとそれを囲む森が消失した事実が届いていた。ギリシャ人たちの間にも不安が広がっていた。彼等の村はリデントースの森の隣の森の中にある。リデントースが森と共に消滅したのなら、彼等の村とそこに残っている老人や女や子どもも危ない。

(死ぬ時は一緒に)

 そんな思いも広がって、森の村に残っていた者たちが家財道具を背負って、船を運んでいる仲間たちの元へやって来た。ギリシャ人たちの天幕村が一気に広がった。

 それがクセノフォンに話す機会が来た事を決断させた。

 この日、船を運び終わった後、彼は夕日に照らされた天幕村の中央に仲間を集めて話し始めた。

【聞いてくれ。この中から船に乗る者を選びださなきゃならねぇ】

 ギリシャ人たちの視線がクセノフォンに集中した。全ての人が船に乗る事など出来ないのは、誰もが分かっている。しかし、誰が選抜されるのか、誰もが密かに気に掛けていた事だった

 クセノフォンは言葉を続けた。

【故郷からこの地に来た者は経験があるはず。嵐に遭えば船は簡単に沈む。生き残っても長い航海で飢えや渇きにも悩まされながら、陸にたどり着けるかどうかも分からない絶望と背中合わせの日々を過ごすことになる】

 若者たちは恐怖と労苦の船旅を経験した事のある年寄りを眺め、年老いた者たちはその通りだと頷いて見せた。彼らは言葉を続けるクセノフォンに視線を戻してその言葉に聞き入った。

【一方、この大地もこの有様だ。残れば海に沈むかも知れない。しかし、幸運にしてこの災厄が止むなら、俺たちはここで生き続ける事も出来る】

 ギリシャ人たちは頷いた。たしかにそれが一番良い。 クセノフォンは言葉を締めくくろうとした。

【どちらも、困難な運命だ。家族や仲間とよく相談して自らの運命を決めてくれ】

 しかし、一人の男が幼い子どもを抱いて言った。

【もし、俺が船出すれば、女房と子どもは捨てていく事になるのかい】

【そうなるだろうな。船に乗れるのは三十人足らず。家族まで乗せる事は出来まい】

 船出は、生と死の運命の分岐点であるばかりではなく、親しい者たちとの永遠の別れも意味した。クセノフォンは今度こそ、この日の言葉を締めくくった。

【今夜、自分と家族の運命をよく考えてくれ。明日の朝、もう一度ここに集まって欲しい】

 いつの間にか姿を見せていたアトラスと近習たちが同情を隠さずねぎらった。

「苦労しているな」

 ギリシャ人たちの言葉は分らないが、雰囲気を察することが出来る。クセノフォンは苦笑いを浮かべて言った。

「こんな時は、アイネアスが生きていればと、心底思いますな」

「彼に責任を背負ってもらう事が出来たと?」

 テウススが微笑んで言ったことばにクセノフォンも笑顔を返した。

「そのとおりで」

 クセノフォンはそんな冗談を言いながらもその視線には力強さがあって指導者としての責務を放棄した様子はない。

 彼自ら船を曳きながら、腕力のある者、持久力がある者、真面目な者と何かにつけて上手に立ち回って楽をしようとする者など、様々な資質や性格を観察していた。そんな彼の頭の中には、既に何人かの候補者を絞られていた。後は仲間と話し合って最後の調整をする。


 天幕の一つ。闇の中、天幕から漏れる僅かな灯りに浮かび上がる二つの人影がある。

 マカリオスの声がした。

【デルフィネ。やはり、俺と行くのは嫌なのか】

【クセノフォンも言ってた。体力のある者が優先だと。それなら私は駄目よ。体力はない。それに……】

【どうしたんだ? 他に何か】

【私は母や父を置いていけないわ】

【俺が説得する】

【何を言ってるか分かってるの。命がけの旅と言うだけじゃない。船に乗る人たちが協力して力を尽くして初めて、皆が生き延びる事も出来る旅。私が乗れば皆の足を引っ張ってしまう。私のように小娘じゃなく、女でも男みたいな人。あのユリスラナさんのような人でないと】

 デルフィネはそれだけ言うと、マカリオスの頬にキスしたかと思うと身を翻して闇の中に消えた。


 男みたいな女。ユリスラナが子どもの頃から一番気にしている表現だった。そう表現された事を知れば、ユリスラナはどんな反応をしただろう。

 その彼女は今日の乳母の役も果たしてエキュネウスと共に、その仲間と同じ天幕の中にいた。

「どうした? 機嫌が悪いようだが」

 首を傾げたエキュネウスにユリスラナが眉をひそめて訴えた。

「何故か鼻がぴくぴくするの。こんな時って、どこかで悪口を言われてたりするのよ」

 ユリスラナの言葉と表情をエキュネウスの部下たちは笑い飛ばした。彼女の素直で裏表のない性格は、エキュネウス配下のギリシャ兵たちからも好かれている。

 その兵士の数は十一人。王宮の警護を任されていたが、その王宮が廃墟になった。彼等はアトラスたちにつきあうように、王宮の人々が宿営する天幕にも、船を運ぶクセノフォンたちの天幕にも近い場所にいる。

 エキュネウスも、誰が船に乗るのかを仲間と相談しなければならない。

【いよいよ、船出も間近になった。ただ、船に乗れるのは、森のギリシャ人たちも含めて30人ほどだ。船に乗りたい者は申し出てくれ】

 仲間は黙ったままで声を挙げる者が居ない。エキュネウスは重ねて尋ねた。

【どうした、誰もいないのか?】

 一人の老兵士が話題を変えて尋ねた。

【指揮官殿とユリスラナさんが乗る事になっているのではないのですか?】

【私も船を運んでいる者たちに無理は言えない。私たちの中から船に乗れる者は二人が限度だ。もし、お前たちの中に船に乗りたいという者が居るなら、私とユリスラナはその者と代わってこの地に残ろう】

 指揮官の言葉に、一人の兵士が考え方変えて見ろと提案した。

【逆に、ここに留まりたい者を尋ねてみたどうです?】

【では、この地に留まりたい者は?】

 エキュウネスの問いかけに、仲間の兵士たちは次々に答えた。

【俺は残る】

【俺もだ】

 そうやって頷く兵士たちの最後に、老兵が締めくくるように言った。

【指揮官殿。貴方が誰より公正な指揮官だとよく分かった。我等の中から、我等を代表する二人を選び出すなら、指揮官殿とユリスラナさんしかいませんや】

 自分たちはこの地に残っても二人を旅立たせる。そんな仲間の配慮にエキュネウスとユリスラナは頭を下げて謝意を表すしかなかった。


 この夜。ギリシャ人たちが夜を明かす天幕の数だけ様々な議論が行われ、ギリシャ人の数だけ感情がぶつかり合った。そして明くる朝、クセノフォンの天幕の前にギリシャ人たちが集まった。

 いつになく早朝からアトラスも姿を見せていた。その意図は理解できる。話し合いは紛糾し、大きな騒動になることもあるだろう。その時に第三者の調停も必要になる。そんな配慮である。

 ただ、ギリシャ人たちは昨夜の熱い議論の後、意外にも静かだった。故郷に郷愁を感じる者は老境に達し、奴隷として連れてこられた頃の船旅の苦しさが記憶に刻まれている。若者や子どもは、この地で生まれて遠い故郷に郷愁も淡い。運命の人選はクセノフォンに委ねられた。

 アトラスは傍らにいたテウススがため息をつくのに気づいた。テウススがアトラスの視線に気づいて理由を語った。

「静かに運命と向き合う勇者のようです」

 生と死。希望と絶望。そんな運命と向き合って生き続ける勇敢さを感じるという。仲間を前にクセノフォンは、彼が選び出した者の名を挙げていた。

【まずは、船乗りの経験のある者が必要だ。星で方向を見定め、潮の流れを読み、帆を操るもの。デミトリアス、ゼウクシス、ソフォクレス……】

 彼はそうやって、船乗り、体力のある者など二十八人の名を呼んだ。その淀みの無い口調に、クセノフォンが迷って悩みながらも繰り返し考え続けた名だと知れた。

 もちろん、名を挙げられた者たち以外にも乗船を希望する者たちも居た。一人の若い男が叫ぶように言った。

【マカリオスが船に乗るのに、どうして俺は乗れないんだ? 誰か教えてくれ】

 名前を呼ばれたマカリオスはその声に聞き覚えがある。

【クラトス……】

 マカリオスが目を伏せて呟いた名は、彼の幼なじみの親友である。彼は親友を捨てて旅立つ罪悪感に、友と視線を合わせる事が出来ない。そんなマカリオスの傍らにデルフィネが寄り添っていた。

 別の中年女が言った。

【私が船を曳く男たちの世話を手伝っていたのは、私の娘を乗せて欲しかったからだよ。私の娘は乗せてくれないのかい。まだ子どもなんだ】

 そんな悲痛な声が次々に上がって、クセノフォンを包んだ。彼は切なげに、しかしきっぱりと言った。

【不満のある者も居るだろう。しかし、どうか、今は諦めてくれ】

 そして思いついたように説得の言葉を続けた。

【そうだ。残る者も俺と共に船を作ろう。嵐でも壊れない大きく頑丈な船だ。女や子ども連れて旅立とう】

【そんな船が造れるのか?】

【ああっ、その通り。俺たちはあの船をここまで運んだのだ。次の船は海辺で作ろう。そうすれば運ばなくても済むぞ】

【本当だね? 約束だよ】

【ああっ、約束する。帰りたい者はみんな一緒に帰ろう】

 クセノフォンの言葉を聞きながら、デルフィネはそっと周囲を見回した。残される人々は笑顔を浮かべては居ても半信半疑。クセノフォンの言葉を信じる事で、取り残される不安と不満を紛らわせようとしているように見えた。


 冥界のエトンが、そんな彼等をあざ笑ったのだろうか。突然にフライパンの上でられる豆のように、彼等の体は大地の上で揺さぶられた。彼等は悲鳴を上げながら抱き合っても体を支える事は出来ず、四つんばいになったり尻餅をついた姿勢で大地の上を転がった。

 デルフィネはマカリオスと抱き合いながら考えていた。

(これが、私たちの最後なの?)

 とうとう、その時が来たのかと覚悟したのだが、死の恐怖ではなく、愛する人と共に最後を迎えると言う安らぎに近い思いを感じていた。しかし、この揺れも収まるといつもと同じ。大地が叫ぶ声も途絶えた短い静寂の後、立ち上がった人々が仲間の安否を問う声が響き始めた。

(今は未だその時ではなかったの?)

 天幕は倒壊しても、その柱が倒れるだけ。せいぜい柱に頭をぶつけるか、老人が尻餅をついたときに腰を痛めたか、被害はその程度に思えた。


 しかし、明くる朝、彼等の行く手に崖が生じたという知らせがもたらされた。切り立った崖は、その縁に立てば人の背丈の倍ほど下に海面が見えた。

(もう、船出は出来ない)

 彼等にはこんな崖から船を下ろして海に浮かべる手段はないように思える。絶望が人々を包んだ。


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