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都市伝説シリーズ

私は何者だろうか。

作者: 紅蓮グレン

 私は一体何者なのだろうか。それは私自身にもわからない。


 私は田んぼや畑の多い田舎町に住んでいる。田舎町は良いところだ。空気は澄んでいるし、自然の風景は心を落ち着かせてくれる。私には到底不可能なことだが、できることなら双眼鏡でも覗きながら、のんびりと景色を楽しんだりしたいものだ。しかし、繰り返すがそんなことは私には到底不可能だ。


 私はダンスを踊るのが好きだ。田んぼや畑の中でダンスを踊る。私が田んぼや畑に入っても、そこの持ち主の方たちは私に気付くとサッと目を逸らす。見て見ぬふりをしてくれているのだろう。いくら黙認してくれているとはいっても、いい気分ではないだろうから私はその方たちに近付いたり、話しかけたりすることはない。顔もよく見たことはない。だが、優しい方々だというのはわかる。こんな私でも受け入れてくれる上、自分たちの土地でどれだけ踊られても、怒ることも私を追い出そうとすることもないのだから。おかげで私は、いつも心ゆくまでダンスを楽しむことができる。


 ここまでは満足である。不満はない。のどかな風景の広がる田舎で好きなだけダンスを踊っていられる。それは幸せなことだろう。だが、私は1つの悩みがあるのだ。それは、自分がなんなのか分からないということである。恐らくだが、人間ではないだろう。それだけははっきりとわかる。だが、それ以外は何も分からないのだ。そして、私の正体を知る者は、私を含め、誰一人としていない。


 いや、正確に言えば知っている者は何人かいるかもしれない。それは、私のことを直近で見る、あるいは双眼鏡などで私を拡大視するなどをした者たちだ。私のことを近くから見る、あるいは拡大視してみれば正体が分かるのかもしれない。だが、その者たちに私の正体は何なのか、聞くことはできないのだ。いや、聞くことができないというのは語弊がある。聞くことはできるが、答えてはもらえないのだ。何せ、その者たちは例外なく青ざめ、正気を失う。即ち、発狂してしまうから。発狂した者から答えを聞くことは不可能。せいぜい、発狂寸前に不気味な発音で「わカらナいホうガいイ」と言われるのが関の山である。私は正体を知りたいだけだというのに、理不尽なものだ。


 私は寂しい者だ。友と呼べる存在などいない。ただ不定期に、人様の持ち物である畑や田んぼに無断で立ち入り、1人でダンスを踊るだけだ。私のダンスを見て、評価してくれる者もいない。畑や田んぼの持ち主の方々は私から目を逸らすし、私をじっくりと見た者は発狂するからだ。踊ることは好きだが、観賞してくれる方が誰1人としていない状況では気合いもそれ程入らない。それに、もし観賞してくれる方がいたとしても、その全てが、1人の例外もなく発狂してしまうという事実は、私の心を深く突き刺して抉ってくる。もしかしたら私は見た者が発狂する程醜い姿をしているのだろうか、あるいは私のダンスは見た者が発狂するほど酷くコンマ1秒も見ていられないものなのだろうか、そのようなネガティブな感情が湧き上がってきてしまうからだ。


 ああ、私が何者なのか、私は何ゆえダンスが好きなのか。それさえ分かれば私の悩みは解決するというのに、それを知る術はない。私の悩みは解決できない。私と同じように、人間ではない類いの方々に聞いてみたいとも思うが、それも不可能である。不満などこの1点、私が何者なのか分からないという点を除けば全くないというのに、それを知ることが不可能であるなんて、これ程の苦痛はない。結局のところ、私はずっと、その悩みを抱えたままだ。


 私の創造主が何を考えて私を生み出したのか。それはわからない。そのあたりのことは何一つとしてわからないのだ。私はただひたすらに、自分のことを考え続けるが、答えは決して出ない。自己完結できるものでもない。考えれば考えるだけ、思考の袋小路へと追い詰められてしまい、更に悩むことになるだけだ。だが、私だってバカではない。そんな事は百も承知なのだ。しかし、それをわかっていながら考えることをやめられない。そもそも、私が私自身を知りたいと思うのは大しておかしなことでもないだろう。いくら考えても答えは出ないが、もとより私は踊ること以外に時間を使わないから、考える時間はいくらでもある。いつも気が済むまで思考しようと思うが、残念ながら今まで気が済んだことはない。


 ずっと、私は何者なのか、と言い続けているが、私は正体が分からないだけで、私の名前そのものが分からない訳じゃない。もっとも、その名前も創造主が付けたのか、それとも他の人が付けたのかはよく知らない。それに、その名前、私はあんまり好きじゃない。なぜなら、フニャフニャしてるみたいでかっこよくも可愛くもないからだ。どうせ名付けられるのなら、もっとちゃんとした名前が欲しかった。しっかり芯が通っているような、そして正体の予測が少しでもつくような。でも、もうインターネットなどを通してこの名前が広まってしまった今、この名前を拒絶し続けることもできない。


 ああ、正体が知りたい。誰でもいいから正体を教えて欲しい。そして、できることなら名前も変えたい。そんなことを考えながら、今日も私は畑の中で”くねくね”と踊る。

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