脂-①
「…それで、勇者様の本当の要件はなんだい?
まさか、こんなショックな話をしに来て終わりってわけじゃないだろう。」
「はい。 要件はですね、料理長には脂の注意点や利用点をお伝えに、大臣には商売の話です。」
「まあ確かに、1から調べるには時間がかかるからな、教えてもらえるならありがたいけど。」
「私の方は商売ですか。 勇者様方しか需要がなさそうなので、難しいかもしれませんね。」
「私もそう思うのですが、なにぶんこの世界の事は女神様よりお伺いした内容しか知りませんので、自分では判断できないのです。 ですので、お手数をかけますが、料理長との話を側で聞いて頂きたいのです。」
「そういう事でしたら、承りました。」
「ありがとうございます。」
「それでは料理長、脂に関する私の知る情報ですが、1つめは〔火を入れても固まらない〕です。」
「何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、先程の私の国の高級肉がどんな肉かを思い出していただけたら、そして、私の国の肉の標準がどんな肉かを予想していただいたら、その意味がわかると思います。」
「どうやら料理長と、数人の料理人は気づいたようですね。
では、判らなかった人にヒントです。
この世界では、先代勇者様方の知識により様々な私の世界の技術を再現してきたと思います。
ですが、肉料理においてはいくつか再現できなかったと思われます。
例えば〔鳥の唐揚げ以外の揚物〕〔煮込み系〕料理とか。」
「どうやら全員理解していただけたようですね。
そうです、赤身はどうしても熱すると硬くなりますが、赤身の中に脂身があると硬くなりにくくなるのです。」
「それと体験談ですが、狩猟で獲った猪を食べた事があるのですが、死んだ後の下処理で肉の硬さが変わりましたが、総じて家畜より硬めでしたね。
後、その肉を揚げた事もあるのですが、硬すぎて、何回棄てようとしたかわかりません。」
「で、その時知ったのです、私達の普段使ってる肉の有難み、調理のしやすさと、脂の多さに。」
「ここまで差が出た一番の理由は、やはり家畜だからでしょうね。
わかりやすく言いますと、運動量と、餌の質と量と、多分ストレスが関係してくると思います。」
「運動量は、天敵がいない中のんびりすごすか、狭い中で過ごすかの違いはありますが、野生より少ない。」
「餌は、こちらの世界の人達には生命の冒涜に聞こえると思いますが、人が調整できる、つまり、野生なら食べない物を毎日食べさせることがてきます。
その結果、肉質/匂い/味を人の都合の良いものにできます。」
「信じられないという顔の人が多いですが、そうですね、私達の世界で有名なのは、ビールという酒ですね。
私は食べことが無いのですが、肉質が柔らかくなるようですね。
ちなみにこれは、数十年前から伝わる方法ですよ。」
「後はストレスですが、これはわかりません。
質や柔らかくするのに必要と聞いたことがあります。」
「それともう一つ、脂を全身にいきわたらせ、肉質を柔らかくさせる方法に、全身マッサージをしてる牧場もあるそうです。」
「これは人体にも関係のあることで、胸を揉んだら大きくなるという迷信を受けて実現して、将来垂れたりするようです。」
何人かの女性スタッフが顔を青くした。
「まあ、こちらは聴いた話なので、確証性はわかりませんがね。」
「とりあえず、ただ肉と言ってもこれだけ違うのです。
ですから、今から異世界人に合う肉を手に入れるのは、多分無理です、よね。」
「………いや、ある」
「…料理長、それはもしかして、」
「〔害魔物 怠惰種〕、集団の中で殆ど寝ていて動かず、起きたら周りにある餌を全て食べて又寝る、集団から追い出されても(実際は置いてけぼり)寝続けている魔物。
あいつ等なら全身脂だから、多分使える。」
「それに、その素材に利用価値がほとんど無いため、駆除以外で討伐されないから、仕入れも安くなりますね。」
「うむ。 早速仕入れてみるか。」
「無ければ、勇者様達の訓練として、討伐させに向かわせてもいいですね。」
「待ってください。 まだ話は終わってません。」
「お二人の言う肉ですが、多分そのままだと使えないと思います。」
「なぜですかい、勇者様。」
「脂にはもう1つ、厄介な性質があるからです。」
「それは、〔匂いが付きやすい〕です。」