初戦闘?
「駄目だよ、聖女ちゃん。」(柔らかい声で)
「勇者様?」
「こういう生肉は、慣れてなかったり、丈夫じゃないと、お腹を壊すよ。」
「そうですか。」
「うん。 私の国のような徹底管理なら、確率低いと思うけど、この世界は狩猟でしょ。
聖女ちゃんは栄養が足りないようだから、確実に壊すよ。」
「そんなに食べたかったの?」
「・・・その」
「向こうのしっかり火が入っているのは?」
「柔らかすぎて、あと脂が多くて。」
「あれ僕ら用?
うーん、殺菌さえ出来れば食べれると思うけど。 最悪、焼いてもらうか。」
「さっきん?」
「どう説明しようかな?
こう、目に見えないあちらこちらにいるやつがいて、そいつらは、酒とかの発酵食品を作ったり、生物を病気にしたりする悪いやつがいるんだけど、殺菌はその悪いやつを殺す意味なんだけど。」
「勇者魔法、」
「?」
「勇者魔法の中の【清潔】は、酒造所などの特定の場所で禁止になっているから、多分、これがそうだと思う。」
「そっか、ありがとう。」 聖女ちゃんの頭を撫でる。
………いきなり人の頭を撫でるなんて、どういう事?
私、そんなに子供に見えるのかな?
「それじゃあ、えっと、どう使えばいいのかな?」
「対象に向けて【クリーン】と唱えると、魔法陣が出てくると、習いました。」
「ありがとう。
それじゃあ、対象、目の前の肉料理に付いてる食中毒菌全て、【クリーン】」
魔法陣が勇者澪の目の前に出てきて光りだす、これが発動のサインらしい。
「後はギフトスキルを使って」
《ギフトスキル【鑑定(食材)】を発動します。》
(今度は、ありふれたスキル名と似てる。)
「うん、問題ないようだね。」
「ありがとうございます、勇者様。」
「どういたしまして。 それに、」
聖女カーミラの耳元で、
「せっかくの上質な肉が目の前にあるのに食べれないのは、辛いよね。」
「!(もしかして)勇者様も!?」
勇者様が、笑顔で軽くうなずく。
勇者澪と聖女カーミラの距離が少し縮まったとき、大声で、
「おい、そこのお前、」
「? あなたは…服装からして、私と同じ勇者ですか。」
「そうだ。」
「それで、要件はなんですか?」
「その娘を私に譲れ。」
「無理ですね。 神様により、私の相方は彼女と決まってますので、不可能です。」
「ふん。 あんなやつの言う事なんか知ったことか。」
ザワつく会場。
「あなたも神様に御逢いしたのでしょ? なのに、よくそんなことが言えますね。」
「ふん。 確かに神々しくて威圧感もあったが、自分達では無く、僕達に世界を救済させるような奴らだぞ、威張っているだけで何もできやしない。」
「そうですか。 私は自分より上位の存在というだけで、十分に驚異を感じましたよ。」
「軟弱者め。 なら、力づくで奪い取ってやる。」
・side勇者澪
言い終わると、百キロはありそうな脂肪の塊が、素人丸出しの大ぶりで殴りかかってくる。
それをあっさりかわし、
「喧嘩したこと無いでしょ。 そんな大ぶり、当たりませんよ。」
「うるさい。 お前は黙って当たればいいんだ。」
もう一度、大ぶりがくるので、かわそうとして、
「[ニヤリ]スキル発動【加速】」
急に早くなった攻撃をギリギリかわし、
「なるほど、ただの馬鹿じゃなかったんですね。」
「っち、うまくかわしやがって。」
今度は始めからスキルを発動して、殴りかかってくる。
なので、こちらはテーブルナイフを胸めがけて投げる。
デブは避けきれず、ナイフが刺さり悲鳴を上げた。
「? 先がちょっとだけ刺さっただけなのに、何でそんなに騒ぐんですか?」
返事は悲鳴のみ。
「うるさいな。 これ以上何もしないなら、終わりていいですか?」
デブはこちらを睨み、再度スキルを発動して突っ込んでくる。
こちらはテーブルナイフをしっかり握り、今度は深く刺すぞと威嚇する。
それだけで、デブは逃げ腰になる。 スキル発動中に。
突っ込んでくるデブの、前に出てる左足の太腿を、全力で踏みつける。
太腿は知られてないだけで、実は脆い。
直立ならともかく、腰を落としたりして斜めになっていると、上から力をかけるだけで簡単に折れる。
骨粗鬆症のご老人がベットから立ち上がるときに、膝に手を置いて立ち上がろうとしたら、折れてしまうぐらいに脆い。
デブは折れた足を抱え悲鳴を上げて、倒れ込んだ。
「これで動けなくなりましたね。」
近くにいた騎士に向けて、
「すいませんが、後はおまかせしてよろしいですか?」
騎士が頷き、デブをどこかに連れて行った。
私は辺りを見渡し、
「皆様、この度は同郷の者が御迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。 心から謝罪させていただきます。」
頭を下げた。
・side聖女
私の勇者様が頭を下げてる。 今度は悪く無く、被害者でもあるのに。
そして、召喚の間と同じように、頭の中とステータスボートに記録が残って、勇者様が心から誤っているように感じる。
後で絶対に、この事を訊かないと。