主人公の代わりに呪い召喚
私が一歩を進むたびに、視線が私に集まる。
喧騒が大きくなる中、人垣を割って召喚陣に進んていく。 好機の目は慣れた。
教皇は、勇者と候補生達の交流と、最後の勇者の召喚のどちらを優先するか迷っていたようだ。
私が近づくと、顔が和らいだ。
新たに教皇が祝詞を上げると、陣が虹色に光りだし、候補生達がさらに騒ぎ出す。
私は、驚きや嬉しさよりも、(何故?)が頭を埋めていく。
少し落ち着くたびに、関係のないことが頭に浮かぶ。
授業で習った、歴代勇者命名フラグ現象。
勇者様を巻き添えに、更に孤独になる私達。
なんのサポートも受けられなくて、やさぐれる勇者。
勇者としての仕事をしなくなる勇者。
私に暴力を振るう勇者。
勇者の任を解かれる勇者。
捨てられ、一人で野垂れ死ぬ私。
そんな絶望が頭を占めていくと、召喚陣の発光が終わり、勇者様が出てくる段階になる。
候補生達や教会関係者、事情を知った勇者達が召喚陣に注目すると、黒い靄が溢れ出した。
私の絶望が具現化したかと思った。
その光景に、驚きと悲鳴を上げる勇者達と候補生達。
この場から逃げ出そうとする人達。
場を鎮めようとする、教会関係者達。
場が騒然となる中、私は落ち着いていく。
この黒い靄は見た事は無いが、感覚が知っている。
仕事で取り払うもの。
候補生なら知っていて当然のもの。
私に押し付けて、仕事放棄をしているから騒ぎ立てるんだ。
これの正体は、呪いだ。
だが、この靄を【解呪】スキルで浄化しても意味がない。
この霧は、本体から漏れ出したのが具現化しているだけ。 本体を浄化しないと意味が無い。
でも、神様に選ばれた勇者が呪われてるのは、おかしくないかな?
私がこの勇者?の聖女に選ばれたのは、【解呪】スキルが有るせいかな?
でも、それなら、私より習熟度の高い人はいる。 それこそ、学校を卒業した人も含めて。
漏れ出した呪いが具現化するほど強力な呪いを、私が浄化できるか? 無理だな。
なら、何故私が選ばれた?
勇者?本人では無く、呪いしか出てこないのは、勇者?が動けないからかな?
様々なことが頭を巡り続ける中、陣に触れるが、床を触った感触しか感じない。
こちらから干渉できなくても、声なら、
「聴こえますか? 私は貴方と契約する聖女てす。
そちらがどのような状態か判りませんが、こちらからは一切の干渉ができません。
私は【解呪】スキルによって、呪いを浄化か弱体化できます。
その呪いを何とかしたいのであれば、召喚陣から体の一部でもいいので出してください。」
息をおもいっきり吸い込み、先程より大きな声で、
「聴こえますか?【解呪】スキルによって、呪いを浄化か弱体化できます。
召喚陣から体の一部でもいいので出してください。」
返事があるまで、何度も呼びかける。
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side召喚陣の向こう側
最後の召喚者は死にかけていた。
これは予想外の出来事であった。
オリジナルの身体能力を元に、異世界に合った体を創ると聞いた時、持病は治療されると聞いた。
だが、オリジナルの体験した痛みを、実体験無しの記録としてコピーされるとは思ってもみなかった。
オリジナルの口癖が、「ドMになりたい。」となっていたのもうなずける。
こんな痛みを十何年も耐えるしかできないなんて、まさに呪いだな。
まあ、これは呪いではなく持病だけど。
ショック死しなかったのは幸いか。
召喚陣から死体が出てきたら、最悪だな。
そんなことを考えてると、離れた場所に魔法陣が現れて、光りだす。
足元に出てこいよ、と思っていると、声が聴こえてくる。
無茶を言うな、と思いながら、痛いのを我慢して、藁にもすがる思いで、魔法陣に向かって這って行った。
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