治癒魔法と解呪
案内されている道中、
「聖女ちゃん。」
「なんでしょうか?」
「この後の治療だけど、気力操作の練習をしてはどうかな?」
「?」
「ここまで来る道中、スキルを使う事によって、街の人々から親しみを持たれてたでしょう。 聖女ちゃんのこれまでの行いも関係していると思うけど。
だから、それと似たような事をして、患者様を心から癒やしてみたらどうかと思ってね。」
「具体的には、どうすればいいのでしょうか?」
「知識と経験から言わせてもらいますと、温めるといいと思いますよ。」
「?」
「人肌より少し高いぐらいが、落ち着くようです。
ですので、春の日差しやお風呂に全身浸かった感覚、女性に抱きしめてもらった感覚…は違いますかね、これはそれ以外の感覚も入ってきますから、後は、腹いっぱい食べた感覚とかですかね?」
「…まとめると、眠くなる感覚、でしょうか?」
「まあ、そうなりますか。」
「曖昧ですが、わかりました。
試しにやってみます。」
治療現場である中庭に到着し、順番待ちをしていただいている患者様に会釈をして、空いてる場所に移動する。
この時点で、後悔した。
私服で来るのではなかった、せめて制服で来るべきだった。
先程、所長に言われたことが頭によみがえる。
私は聖女。 候補ではなくて聖女。 本物の、当代初の聖女。
今、凄く恥ずかしい。
…勇者様が羨ましい。 言い訳のできる勇者様が。
「どうかしましたか、聖女ちゃん?」
「いえ、何でもありません。」
仕事に集中して忘れよう。
一人目はいつもどおりに、傷口を確認して、洗浄して、祝詞を唱えて、スキルを発動。
よし、ちゃんと発動した。
患者様にお礼を言われて、笑顔で返して次の患者様に対応する。
祝詞を唱えてスキルを発動する前に、姿勢を正し、春の日差しをイメージ、体が温かくなって眠くなるイメージ、感覚を思い出して、
《魔圏拡大 対象:眼の前の人一人》
《【魔/気力操作】発動》
《【魔術 温もり(下)】を取得しました。》
【治癒】スキルと同時に、
「?」
「? どうかしましたか?」
「なんだか、傷の辺りが、いえ、体全体が温かいような?」
「そうですか。」
治療具合に合わせて、患者様が欠伸をして、船を漕いできた。
「大丈夫ですか?」
「眠たい。」
「はい?」
「眠たい。」
「はあ。」
「もう、我慢できない。」
「患者様!!」
とうとう寝てしまい、場が騒然とした。
結局、その患者様が起きることがなかったので、職員さんに別室に連れて行ってもらった。
「…不眠症や助からない人に、もしかしたら精神不調者に使えそうですね。」
「…そうですね。」
「スキルの方は、」
「手に入りました。 一番下のランクで。」
「…あれで、ですか。」
「…あれで、です。」
「…個人に向けての使用は、先程言った病状の人だけにとどめて、それ以外は集団に使う方がいいかもしれませんね。
そちらの方が分散するかもしれませんし。」
「…そうだといいですね。」
場が落ち着いてから、再び私に向けて並ぶ患者様達。
引きつった顔や不安そうな顔をした、少し人数が減っているように見える患者様達を見て、覚える。
先程得たスキルを患者様達に向けて、集団を春の温かさで包むようにイメージして、発動する。
《魔圏発動 対象:部屋全体》
《スキルレベルが足りません。》
《スキルが足りません。》
《魔圏の濃度を薄めて発動します。》
…ちょっとだけ、ほっとした。
「どうかしましたか?」
「発動しませんでした。」
「………」
「スキルのレベルと数が足りなかったので、発動しませんでした。」
「そうですか。」
「ですが、」
「?」
「大分威力を下げて、発動されました。」
「まあ、発動する可能性があるとわかっただけでも、よかったですよ。」
「そうですね。」
ちょっとだけ落ち込んだが、次の患者様のために気合を入れなおした。
治癒が必要な患者様が終わり、次は解呪が必要な患者様。
治癒と同じく、祝詞を上げて、スキル発動。
お礼を言われて、会釈して終わり。
そして、次の患者様に向かう前に、
「少しよろしいですか。」
「なんでしょうか?」
「先程の方ですが、気/魔力感知スキルが反応しました。」
「…は?」
「気/魔力感知に反応がありました。」
「魔力の方はわかります。 私も感じているので。
でも、もう一つの方が。」
「その事は、帰ってからにしましょう。
それよりも、反応があったということは、治癒のように、イメージによる追加効果を狙えるかもしれません。」
「具体的には、」
「跳ね返すイメージか、打ち返すイメージをしてみてください。」
「根拠は、」
「私の世界の有名な話からです。」
「わかりました。」
てすが、新しいスキルは覚えず、効果も今までと同じでした。
「駄目ですね、変わりありません。」
「そうですか。」
「もしかしたら、イメージが足りないのかもしれません。
先程の勇者様の世界の有名な話を、詳しく教えてもらえませんか。」
「そうですね。
私の世界でよく使われる解呪の表現が、祓うか術者に返すで、祓うが、おそらく散らす、又は打ち消すで、返すがそのままの意味です。」
「なるほど。」
「解呪スキルを見た感じ、散らしているみたいなので、返せないかと思ったのですが、そこまで都合よくないみたいですね。」
「…もしかしたら、できるかもしれません。」
「?」
「やってみます。」
解呪スキルを使った時に見える、知らない人、見た事のない人、ここには居ない人に、呪いを返すイメージをして、スキルを発動、
《解呪(中)にレベルアップしました。》
「やった。」
嬉しい気持ちが込み上げてきた瞬間、外で悲鳴が上がり、その意味が徐々にわかるにつれて、ゾッとした。




