スキル習得 聖女ちゃん
話し合った結果、案内する場所は、食材販売店各種、治療院、冒険者ギルド、になった。
今は、勇者様が着替え終わるのを待っている。
私の服は、勇者関連の担当の人から、ついでに用意してもらった、上質な平民風の服。
私服を持っていなかったから、聖女として、外聞が悪かったらしくて。
勇者様の服は、どんなのだろうか。
勇者様→神様→(神託)→勇者関連の担当に、話がいくらしいけど、楽しみだ。
ダサくても、変態じみて無いといいな。
それと、通知の設定もいじった。
私の勇者様は、異質すぎる。
他の勇者様は知らないが、あそこまでスキルを使うのは、おかしすぎる。
これから先、どんな行動で鳴るかわからない、から。
あとは、敬語もやめてもらった。 相方になるのだから。
玄関で待っていると、勇者様がやってきた。
格好は、全体的にゆったりしてる。
ただでさえ大きい勇者様が、更に大きく見える。
それと、ズボン…作業用ズボン?
「勇者様。」
「お待たせしてすいません。」
「いえ、それより、ズボンのポケットの多さは?」
「これですか。
これは機能性重視で気に入っているんですよ。
まあ、こちらの世界では必要ありませんがね。」
「そうですか。
…あの、勇者様。」
「なんでしょうか?」
「外に出る前に、勇者様のスキルを教えていただいたいのですが、よろしいですか?」
「気力操作、ですね。
それは24時間、最低でも、人の目につく場所では、聖女として振るうために、ですか?」
「そうです。」
「わかりました。
では、鏡のある場所に行きましょう。」
「? わかりました。」
「聖女ちゃん、教える前に覚えておいてほしいのですが、これからする事は、私の実体験と様々な人達が思案した事を混ぜ合わせたものです。
ですので、これが正しいとは限りません。」
「はい。 わかりました。」
「それでは、はじめますね。」
「始めは、他人の体から放出されたエネルギーを感じる事、だと思うのですが、あいにくと、私にできないので、そこをとばして、私が普段気にしていることから始めようと思います。」
「はい。」
「やることは、大雑把に2つほど。
1つ目は、腰です。」
「?」
「腰を曲げない事が、1つ目の課題です。」
「今、そんな簡単なことと思ったでしょう。
ですが、これが意外と難しい。
ちょっと見ててくださいね。」
勇者様が首飾り、アクセサリーに紐を通した物、を付けて、部屋の端からこちらに向かって歩いてきた。
何か違和感を感じる。
「実際にやってみたらわかるのですが、こういう紐からぶら下げるタイプの首飾りは、姿勢よく歩かないと、アクセサリーがあっちこっちに跳ねるのですよ。
ですが、姿勢が良いと、」
アクセサリーがほぼ真っ直ぐにしか跳ねなかった。
これが違和感の正体か。
「抜け道もありますが、まずはこれが基本ですね。
私以外の実体験を加味した説明もできますが、しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。」
首飾りは持ってないので、勇者様の持っていたのを借りる。
「形的に、跳ねたら回転しますので、そちらは気にしないでくださいね。」
「わかりました。」
数分後、一歩も動けずにいた。
どうしても、斜めにバラバラに動いてしまう。
難しすぎる。
「そんなに落ち込まなくでもいいですよ。
少し、お体を触りますね。」
後ろから両肩を持ち、
「まずは、体を反りましょうか。」
「次に目線は斜め上、遠くの景色を見る感じで。」
「ここからは複数あるので、聖女ちゃんのやりやすい方法で。
1つ目は、踵から持ち上げて、歩くやり方。
2つ目は、背骨が真下よりちょっと後ろ側に伸びて、第三の足かつっかえ棒になり、それに支えられてるイメージで歩くやり方。」
言われたとおりにして、数分後、【姿勢制御】スキルを獲得。
「だいぶできましたね。
次は、イメージです。」
姿見の前に立たされて、
「自分の今の姿を、目を瞑ってもイメージできるようになってください。」
「そして、そのまま大きく、等倍に大きくしてください。
やりにくかったら、周りの物も使って、大きくしてください。
例えば、部屋全体をイメージして、周りにあるものと比較しながら、自分だけ大きくしていってください。」
時間がかかったが、【魔/気力操作(威嚇)】スキルを獲得した。
【気力操作】獲得→魔力操作/気力操作、同時発動→【魔/気力操作(威嚇)】
「ありがとうございました、勇者様。
おかけで、スキルを覚えることができました。」
「まだ終わってませんよ、聖女ちゃん。」
「?」
「むしろ、次のスキルを覚えないと、大変な事になりますよ。」
「ええ!」
「なにせ、今のままだと、注目を集めるだけだからです。」
「?」
「理由はわからないのですが、今教えたことだけだと、通りかかる人がこちらを見てくるのです。」
「そうですか。」
「ですので、次は、笑顔の練習です。」
「…なぜ笑顔なのですか?」
「注目してきた人達が、こちらに親しみを覚えるみたいだからです。 中には、挨拶をしてくる人もいました。」
「初めて合う人なのに?」
「初めて合う人なのに、です。」
「…わかりました。」
鏡に向かって、ニコ。
「ああ、違いますよ聖女ちゃん。
鏡に向かうのではなくて、楽しかった事を思い浮かべてください。」
………もっと早く言え。
「勇者様、私には難しいのですが、」
「どんな小さなことでもいいので、お願いします。」
そう言われても…、なら、あれでいいかな。
学食で初めて食べた料理、美味しかったな。
パシャ
「!!」
「いいですよ、ちゃんと笑顔になりました。」
「それより、それは何ですか?」
「写真です。 見てください。」
「これが、」
「聖女ちゃんの、心からの笑顔ですね。
さあ、次はこの顔を、思い出無しに、瞬時につくる練習です。」
「わかりました。」
数分後、【演技】スキルを獲得。
「…やはり、スキルシステムは便利ですね。」
「そうなのですか?」
「さわりだけとはいえ、こんなすぐにできるのは反則ですよ。
私の時は、何ヶ月もかかりましたもの。」
「そもそも最初の、他人からの放出エネルギーを感じ無かったら、覚えれたかもわかりませんし。」
遠い目をしている勇者様に、なんと声をおかけしたらいいか、わからなかった。
「これだけ早いのであれば、もう一つも覚えましょうか。」
「ええ!!」
「大丈夫です、簡単ですから。」
「初めに、お体を触らせてもらいますね。」
今度は、腰とお腹。 くすぐったい。
「まずは、腰を伸ばしたまま前傾姿勢になり、そのまま、爪先立ちで歩いてください。
なるべく音は出さないように、それと、全身のイメージを、等分に縮小して、」
難しい。
「難しいのであれば、忍者走りのイメージで、」
…あの走り方、意味があったんだ。
数分後、【魔/気操作(希薄)】を習得。
「スキルって、本当にズルい。 (それ抜きにしても、早すぎる気がするけど…)」
「はは…。」
「後は、使い続けるうちに、普通に歩いても使えるようになるので、教えることは終わりです。」
「ありがとうございました。
それでは、買い物に行きましょうか。」
「はい。」