幼聖女の決意 とりあえずの目標
「私は、…魔王を倒したくありません。」
「……」
「物心つく前から、腫れ物に触られるように生きてきました。
なのに、魔王を倒してしまったら、私は本当に一人になってしまいます。」
「私は、普通の生活がしたい、です。
友達と遊んだり、親に甘えたり、刺激の無い日常を送ってみたり、」
「……」
「だから、魔王は倒しません。」
「…そっか、」
「ですが、」
「?」
「見返したい気持ちもあります。」
「!!」
「生まれ持った力では無く、私が努力して得た力で、見返したく思います。」
「そうか。」
「聖女カーミラ様。」
「これまで、辛い中、よく頑張ってきました。」
「…ありがとうございます。」
「これからは、私がずっと居続けますので、してみたかった事をやりませんか?」
「…え?」
「とりあえずは、私に抱きついて、これまで我慢してた分を吐き出してみませんか?」
「そのようなこと、」
「私の世界の学問の話なのですが、人に抱きつく、温もりを感じる、心音を聴く、特定の匂いを嗅ぐ等は、安心感といいますか、心を落ち着かせる効果があるようです。 子供が母親に抱きつくみたいに。
匂いの方は相性がありますが、私達はパートナーなので、多分大丈夫だと思います。
なので、やってみませんか?」
「…疚しい事はしませんか?」
「はは。 聖女ちゃんの気持ちはわかりますが、出会ってすぐの相手に、そのような事をしませんよ。」
「…わかりました。 疑ってすいません。
…その、お願いします。 …背中で。」
「はい、どうぞ。」
それから、聖女カーミラが泣き止み、落ち着くまで、時間がかかった。
「ありがとうございました。」
「これぐらい、なんともありませんよ。
又したくなったら、いつでも言ってくださいね」
「…はい。 その時はお願いします。」
「ところで、見返す方法は、考えているのですか?」
「…一応、考えているのはあります。」
「それは?」
「治癒魔法と解呪を特級にすることです。」
「どういうことですか?」
「特級は、初代様しかいません。 上級まではいたようですが。
それも、勇者様が召喚された時以外は、中級になれた人でさえ、数える程にしか記録に残っていません。」
「なるほど、ちなみにそれぞれの特徴は?」
「初級は、擦り傷などの軽傷。
中級は、体表の傷、全般。
上級は、体内の傷、内臓や骨折など。
特急は、欠損の復活です。」
それを聞き終わった瞬間、勇者様が笑い出した。
「!!、どうかしましたか?」
「ああ、すいません、取り乱して。
私が異世界でやってみたかった実験の一つが、ある意味で、欠損回復でしたので。」
「? どういうことですか?」
「異世界にしか居ない物体と、近年に発表された物体が同じ物か、実験したかったのです。
そして、その実験の副産物が、欠損回復です。」
「その物体とは?」
「それはまだ教えられません。 私がまだ、その物体を観ていませんので。」
「そうですか。」
「期待しててください。」
「はい。」
「それでは聖女様、とりあえずの目標も決まりましたので、今日の残り時間について、話をしませんか?」
「それについては、買い物ついでに、街の案内をしたいのですが、よろしいですか?」
「それで、お願いします。」