脂② 米
「…えっと、それがどうしたんだっていうんだい、勇者様?」
「狩猟と家畜では肉の匂いが違いすぎるんです。
なんといいますか、赤身の周りに付いてる脂のところと、赤身と脂身の境目から、赤身側に1センチぐらいが獣臭いんですよね。
取り外したら、獣が食べた果物の匂いが赤身からして美味しかったんですけど。」
「そんなに獣臭いか?」
「匂い消しとして、胡椒をかけるくらいに。」
「そんなにか。」
又、頭を抱えてうずくまる料理長。
今度はさっきより早く復帰して、
「…あー、勇者様の話をまとめますと、他の勇者様達が肉料理を食べ無い理由は、①赤身の硬さ②獣臭い匂い③脂の少さ、ってことでいいんですか?」
「私の予想ですが、そうだと思います。」
「それで、解決策として怠惰種の肉を使おうと思ったけど、話を聞くに、すぐには使えない。」
「さばかないと判りませんが、野生ですので、匂いはすると思いますね。」
「…なあ勇者様、このままだと、今晩の肉料理も昼みたいになるんだが、何かいい案を持っていないか? できたら明日以降も。」
「いくつありますよ。」
「どんなのか、聞かせていただいても?」
「大丈夫ですよ。 そのための話し合いですから。」
「ありがとうございます。」
「さて、とりあえず本日の晩御飯ですが、ハンバーグが都合がいいと思います。」
「混ぜ肉料理ですか?」
「ええ、それなら肉と脂の配分も調整できて、なおかつ匂い消しの香草を入れても問題ないですしね。」
「確かにそれなら大丈夫だな。 他の混ぜ肉料理にも応用できそうだし。」
「後は、ステーキに使う肉を薄ーくスライスして、間に脂身を挟んで元の形に戻して焼くぐらいですかね。」
「それは最終手段だな。 溶け出した脂と赤身から出る脂は違うだろうし、逆に半端に固まったままだと食べにくい。」
「それと、米を使う事も推奨させていただきます。」
「…米ですか?」
「料理長、米の性質はご存知ですか?」
「いや、勇者様が知っている事に比べたら少ないと思いますね。」
「それなら、実演しながら説明しましょうか。 多分見ないと理解できないくらい、驚きの光景ですから。」
「そんなにですか。 必要な物はなんですか?」
「脂か肉汁でギトギトの鍋はありますか?」
「さっき使った鍋がまだ洗ってないから、ありますよ。」
「脂がつくと洗うのが大変ですものね。 後は料理人を貸していただけますか? 鍋を振るえばいいので、下っ端で十分なのですが。」
言い終わると同時に、若い料理人が近づいてきた。
「あなたが協力してくれるのですね。 ありがとうございます。
してもらうことは、その鍋に炊いた米を入れて、米全体に脂がかかるようにしたあと、火を点けて、焦げないように炒めるだけです。」
「それぐらいですかね。
料理長、鍋を見てもらえませんか?」
「これは…勇者様、一体どういうことですか?」
「これが米の性質です。
米は水分を吸いやすい性質を持っていて、もっと言うなら、【液体状の物なら、大抵のものは吸う事が出来る】のてす。 この鍋のように。」
「確かにこれは、実際に見ないと信じられなかったですね。」
「しかもですね、【熱を加えることにより、性質が更に強化される】のですよ。」
「これなら口当たりを重くできるから、物足りなさも解消できますね。
教えていただきありがとうございます、勇者様。
早速、色々やってみようと思います。」
「いえいえ、これぐらいどうということもありませんよ。」
「それに、これで米の問題も解決すると思いますしね。」
「どういうことですか?」
「私の世界の米は、何世代にも渡り、品種改良をしたことにより、食感がもちもちしているのです。」
「あ〜〜。」
「ですが、炒め物に使うや、何かを吸わせるなら、こちらの米のほうが都合がいいのです。」
「なるほどな。」
「さて長官殿、料理長との会談はこれで終わりましたが、そちらは何か使えそうな案はありましたか?」
「そうですね、まずはこの話を王室御用達の商会に持っていきましょうか。
この商会は、先程お会いしていただいた全ての王家と繋がりがあり、大きな街に必ず支店を置いてますので、その店で食事をしていただくことにより、昼食会のようなことはなくなると思います。」
「あとは怠惰種を捕まえて、勇者様の国の牧場と同じ事ができないか、検証をしてみようかと思います。」
「マッサージと餌ですか。
それと、出来る事ならこまめに洗浄もしてみてもらえませんか?」
「承りました。
本日は有意義な意見をいただき、誠にありがとうございました。
早速、商会長と話をしに行って参ります。」
そう言って、長官殿は部屋を出た。
料理長は、料理人達と意見を出し合ってる。
僕はスタッフの一人に一言言って、聖女ちゃんと一緒に部屋を出た。