【改稿済】呪受勇者:始まり
駅近くの商店街の裏道に、ローブ姿で、顔の見えない、占い師みたいなのが居た。
興味が無いふりをしつつ、その前を通り過ぎる。
「そこのお兄さん、よっていきませんか?」
周りには僕しかいない。
返事をしたら、勝手に占われて、金銭を請求してくるかもしれない。
無視しようと心に決める。 と、
「あなたのことを言ってるのですよ。
神の試練に挫折した、障害と呪い持ちの、30過ぎ童貞さん。」
その内容に思わず振り向くと、
「何故知っているかって。 それは、私が神だからさ。」
頭のおかしいセリフを言う。
「おかしくありません、正真正銘の女神です。」
無視したい。
ひと呼吸入れて、
「それでお姉さん、私になんの用事ですか?」
「私が女神だってことには、何も思わないのですか?」
「あなたが神であれ違うのであれ、先程のセリフで、私より上位の生物?だというのが確定してますので、どうでもいいです。」
「そうですか。 まあ、押し問答する時間が省けるので、別にいいです。
それと、この辺りには結界が張ってあるので、普通に話しても大丈夫ですよ。」
「そうですか。
それで、要件は?」
「その前に、この状態について、何か思うことはありませんか?」
「?・・・無いですよ。」
「結界の中、外から見えない、音も漏れない密閉空間、その中で美女と童貞の二人っきり、について、思うことはありませんか?」
「無いですよ。」
「まさかの男色。」
「違います。」
「ロリコン。この犯罪者。」
「違う。」
「枯れ専。」
「違う、ていうか、私の事を調べているなら、なぜ興味が無いか、知っているでしょ。」
「知ってますよ。
でも、先程あなたが言ったとおり、私が上位の存在なら、関係無いと思いませんか?」
「そんな不確かなことできませんよ。
それに、」
「それに?」
「あなたのような美女を満足させられる自身も、無いです。」
「・・・男としてどうかと思いますが、まあいいでしょう。
それで本題ですが、勇者の一人として、異世界に疑似転生してもらう、打診です。」
「つまり、死ねと。」
「違います。」
「童貞のままで、死にたくなかったな。」
「違います。覚悟も決めない。」
「あっ! まだ30になって無いから、転生先で賢者か魔法使いにもなれないのか。」
「違うって言ってるでしょ。 話をちゃんと聞いてください。」
「じゃあ、何だというのですか?」
「転生先に、あなたの体をベースにした新しい体を創り、それに、あなたの魂をコピーして入れるので、実際には死にません。」
「それって、わざわざ許可を取りに来なくても良かったんじゃないですか?」
「いえ、コピーがした体験は、どうしても、本体が夢で見ることになるので、説明しておかないと、現実との境目が判らなくなる人もいましたので。」
「それで、なぜ私が選ばれたのですか?」
「あなたが様々な経験をしてこられたのに、報われて無いからです。」
「!!」
「障害を誰にも理解されなくても、不貞腐れずに、周りに迷惑をかけないように生きてきた経験。」
「神の試練に応えるために、様々な情報を隅々まで調べ、その結果に苛まれながらも、なんとかしようとしている経験。」
「理不尽な人の介護と看病をしながら、家計をやりくりした経験。」
「そして、そんな状態でありながら、過酷な肉体労働をしてた経験。」
「〇〇様。 あなたは多大な努力をしてきました。それも、短期間で。」
「よく頑張りました。 他の誰もが認めなくても、私達は、あなたの努力を認めます。」
「・・・ありがとうございます。」
「ところで、貴方が認められない理由は、判りますか?」
「・・・はい。」
「一応説明させてもらいますと、この世界のルールは、【金を手に入れられるかどうか】です。
【金】が無ければ、どんな努力も真実も意味を成さず、逆に、【金】があれば、嘘も真になるのがルールです。
そして、あなたは努力を【金】にできていないので、無意味になっています。
これこそが呪い、神の試練。」
「なんて勿体無い。」
「!!」
「ここまで努力できる人が、誰にも認められずに報われないなんて、本来ならあってはならないことです。」
「なので、お節介ですが、あなたに【努力がスキル名として表示され、熟練度の解る世界】への、疑似転生を打診しに来ました。」
「証拠として、こちらを見てください。」
水晶玉の上の空間に、長方形の枠が出てきて、そこに文字がズラッと並んでいき、下にスクロールされていく。
「これは?」
「あなたの努力や経験をスキルという形にした、あなたの人生の結晶です。」
「!」
「本当に多い。 これまでよく頑張ってきましたね。」
「うう」
泣いている僕の心にあった疑心暗鬼が薄まり、代わりに、女神(仮)の言葉に応えようと思う心が芽生え始めてきた。
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side〈女神〉
本命の後ろ姿を見送った後、私は、一息入れる。
彼が、神と世界を恨んでいるのと、提案を受け入れられるかが、予知できなかったから。
それにしても、彼の呪は酷い。 【金を手に入れられない呪】だけでなく、もう1つの呪が、障害に成りえなかった障害を、障害にしているのだから。 性質が悪すぎる。
彼は、赤血球の大きさが、最低値よりも一桁分(5〜9)、小さい。
その結果、彼は貧血になりやすい。
それ自体は、呪では無く障害。
しかし、この障害は、赤血球の数が十分に有るなら、障害にならない。
だけど、日本では、十分に障害に成る。
・なぜなら、1週間に摂取しないといけない、増血食材を、多くの国民が知らない。
・知らなくても、普段の生活で無意識に摂取する事が出来たはずだが、その食材達の値段が、ことごとく値上げしている。
増血食材を知っていたら、安い食材を意識して、積極的に買うけど、知らないから、増血食材と関係ない、安い食材を買う。 そして、貧血に成る。
貧血は、この国では問題だ。 何故か、重要視されない。
貧血の症状は、目に見えないのが多い。
感情・精神面・倦怠感・思考能力低下・記憶力低下・運動能力低下・五感の鈍化・性欲の減退・痙攣・心臓の痛み(鈍痛・激痛・重く感じる)・不眠症・etc。
なのに、心臓をどれだけ調べても、異常が出ない。
まさに毒。 誰にも気づかれない、究極の毒。
でも、日本では問題にならない。
隠れ貧血が多いとされているのに、問題にすら、なっていない。
例え血圧が、160/120(最高血圧/最低血圧)でも、30代だと、若いと理由で問題にならない。
日本の塩分摂取量が世界上位で、昨今では、外で遊び(運動系)まわる子供が減ったとしても、問題にならない。
そもそも、血液の専門家が少ない。 血液内科って言葉を知っている人も、少ないのでは?
つまり、日本は血液に対して、無沈着過ぎる。
話を戻す。
彼の持つ呪は、【日本国に縛られる】。
外国、米か豪にでも移住できれば、障害に苦しむ事は無かったのに。 障害を知らずに、人生を謳歌できたのに。
しかも、彼は、もう1つ、障害を持っている。
アレルギー。
それも、血行促進・増血に関する、多くの食材に、アレルギーを持っている。
だから、【日本国に縛られる呪】を付与されただけで、彼は詰む。
・食べれる物が少なく、障害は悪化。
・悪化しても、目に見えるものが少ないから、気付かない。
・気付かないうちに、精神が蝕まれ、変質していってる。
・左胸に痛みが出たとしても、心臓関係の病院に診てもらっても、異常が出ない。
・異常が出ないと、周りに信じてもらえない。理解されない。最悪、気狂い扱い。
・そもそも、情報が得られないから、何もできない。 八方塞がり。
本当に、悪質。
なのに、コレだけの負荷を持っているのに、彼は、生きている。自殺していない。生きる事を諦めていない。
だから、彼を選んだ。
彼の障害は、私の選んだ聖女に直させる。 聖女の力を、気付かれずに、一時的に、強化して。
そして、その流れを、演出する。
私の選んだ勇者と聖女に、支持を集める為に。
戦いは、もう、始まっている。
どっかに、一発殴る描写を入れたい。
例えば、
「………つまり、貴女は【神】ということですね。」
「そうです。」
「そういうことなら。」
「シャオラーーーー。」
「おっと。」[結界?]
[ドゴン]
「ちっ。」
「神なら、何で俺がこんなことをするか、解っているんでしょ。」
「勿論。
で、す、が、だからと言って、おとなしく殴られるわけにはいきません。」
みたいな。