始まりの林間学校
今日からは林間学校だ。
入学してようやく3週間だと言うのに些か早急すぎる気がする。
が、これは充分合理的な目的に基づいている。
この林間学校の表向きの理由は、チームワークを深めることとされている。
だが実際は、優秀な将来の士官に指揮統制を学ばせるのが目的なのだ。
3週間しか経ずに行われると言うのも仕掛けがあって、長期間関係が過ぎると上下関係のある指揮統制というのが難しくなる。
また、誰しも技術や知識がつけば他人に安易に従いたくも無くなるもので、それを見越してこのように早期に行われるのだ。
班員側にも指揮統制の重要さを学ばせると言う意図があるとも言われている。
「はーい!じゃあ班リーダーを決めますから立候補者は前に来てください!5人までですよー!」
にしても到着してから決めるってのはどうかと思う。
「キシール、お前行かないのか?」
とりあえず分かりきったことだが聞いてみる。
こいつは曲がりなりにも首席なので、普通はリーダーに立候補するのが当然なのだが...
「僕はルーサリウス様の配下ですから、当然ルーサリウス様のチームに入らせていただきます。指揮統制とかちょっとよく分かりませんし....」
まあなんだ、知ってた。
寧ろこいつが班リーダーに立候補する方が摩訶不思議というか、絶対あり得ないと断言できるくらいの自信はある。
まあ形式的に一応聞いてみたが、やはりそうだろうね。
まあそれを周りが許すか、と言えば別なんだけど。
「キシール様!私を班に入れて貰えないでしょうか?」
「キシールくん、早く前に来なさい」
当然ながら、周りからの期待を一身に背負ってしまう訳だ。
かと言って自分への期待を無碍にも出来ず、キシールは困惑している。
「おいおい俺にはお呼びはなしかよ?」
グシードが愚痴る。
この班リーダー5名と言うのは、言い換えれば5席までがリーダーを務める、と言うルールなのだ。
一応こいつは4席だから行くべきなのだが。
「入学3週間で気軽に声かけれるほどお前は温厚には見えないからな」
このバカだるまは見た目だけ死ぬほど厳ついのだ。
こいつが愉快に笑うだけで空気が震えるのが見て取れる。
3週間で馴染める奴じゃない。
部下からの信頼は厚いんだけどね。
「どいつもこいつも軟弱だな、キシールを見習えってんだ」
周りにいた生徒が少しビクッとする。
「そう言うとこだぞ」
グシードは俺の注意がいまいちわかってないのか首を傾げている。
まあこいつに、普通の人間関係がなんたるかだなんて早過ぎた話か。
「ルーサは行かないんですか?」
セシルが俺に疑問を浮かべた目でそう言ってくる。
「11席の俺の出る幕は無さそうだが....まあお前らのために行ってやるか」
まあそんなこったろうと思ったよ。
だがこの林間学校で、連隊率いて連戦した経験のある俺がリーダーやっちゃって良いのかね?
他が可哀想な気がするが...まあ良いか。
俺はトボトボと前に向かう。
「あいつがリーダーかよ...まあ11席だし特別勲章は多いけど、Bランクだぜ?」
まあ気持ちはわかる。
11席だし特別勲章も多いから表立って非難もできないが、Bランクなら俺と変わらないじゃねーか、と。
どう考えてもリーダーの器じゃないだろ、とな。
「...その勲章だってどうせ影武者のための水増しだろ」
なるほどそう言う考えもあるのか。
だが俺が本当に影武者ならキシールは首席入学なんぞしないし、俺は11席なんてことにはならない。
真の実力という奴だ。
特別勲章は、多分入学以前の実績を加味して与えられたんだろうな。
「へぇ、11席がリーダーですか。」
前から声がかかる。
そこには多分班リーダーの1人であろう、黒髪の長身で、メガネ姿の男がいた。
「えっと...」
こいつ誰だっけ。
確か講義中によく質問をする勉強熱心なやつで....
「ああ、私は6席のプラテネスです。首席も4席も5席も見えないようなので、差し出がましく出てきた訳ですよ」
思い出した。
そうだ6席の胡散臭い奴。
「あーすまん、俺あんま人覚えるの苦手でな」
普通に本音が出た。
「自分より席次が上の人間を覚えてないと?まあ首席や4席に囲まれていれば私なんかは遥かに及びませんから仕方ない話です。」
なんか変なふうに伝わってしまったな。
うーん、なんか適切なフォローができないものか...
「その人、多分強すぎて他に興味ないだけだと思う!」
横からひょこっと低身長な美男子が現れる。
美男子と言うか、白髪ショートの可愛い男の子というか。
あ、こいつは覚えてるぞ。
9席のパヴェロだ。
だがなぜこいつまで出てくるんだ?
辺りを見回してみる。
リーダー立候補しているのは俺と、こいつら2人と、あと3席の女だけか。
確かに人数が足りないなら9席が出てくるのもしょうがないか。
11席の俺が言えた立場じゃないが。
「そこまでじゃないが...まあなんかの縁だ。お互い頑張ろうな」
とりあえず下手に出て適当にかわす。
だが軽すぎただろうか?
もう少し上への謙遜みたいなものが必要なのだろうか?
だが、俺の杞憂は所詮は杞憂でしかなく、結構このキャラクターは好感触なようだ。
「あなたはそういう気質の人なんですね。なるほど私が軽んじられてるのかと思いましたがそうでは無いのですか。」
一応、パヴェロの言うことに従うなら、お前は俺の下だから見る価値もない、みたいに思われかねないのだが...こいつは意外とポジティブなようだ。
「僕初めて喋った!よろしくね、ルーサ!」
パヴェロに手を握られる。
こいつは普通に可愛いから喋りかけたかったけどなんとなく出来なかったんだよな。
よし、今のうちにお近づきになっておくのはアリだな。
「ああ、俺こそごめんな。折角クラスメイトなのに挨拶のひとつもなしで。」
これはグシードに人間関係どうたら言ってられる余裕は俺には無さそうだ。
この失敗点は次回に活かそう。
「ええ、私こそ何か誤解していたようです。すみません」
「全然いいよ。それより今度戦ってみたい!いいかな?」
とりあえずこいつらとはこれからも仲良くやれそうだ。
と言うかパヴェロくん、君本当に戦いが好きなんだね。
死ぬほど以外と言うかギャップ萌えと言うか。
「私はちょっと....まだ怖い」
と、横から不躾な罵声が飛んでくる。
ここまで鷹揚な態度の俺のどこが怖く見えたと言うのだろうか?
やはりオーラ...そう!俺が戦場で磨き上げた禍々しいオーラのせいなのだな!
「ルシウス、相変わらず影が薄いな。今まで気づかなかったぞ」
プラテネスが少し呆れたような口調で言う。
「影が薄いのは....しょうがないでしょ...」
ルシウスと呼ばれた少女が勢いなく反論する。
にしても相変わらずだなんて、こいつら意外と仲がいいのか?
「お前ら仲良いんだな」
とりあえず話題もないのでそう話を振ってみる。
「ああ、こいつは私の幼馴染ですよ。8席のルシウス。能力は高いのに影が薄すぎて誰からも相手にされない可哀想な奴です。」
「だ、誰からも相手にされないは酷いと思う...」
ルシウスが先ほどよりも少し強く反論する。
まあ誰だってそこまで言われたくはないわな。
「ただ、人をみる目は確かです。なぜルーサリウスが怖いのですか?」
プラテネスが疑問をぶつける。
やはり俺の闇のオーラ以外あるまい。
そうに違いない。
「なんか....奥が見えないんだよね。濁ってるようでいて無色で、なんか不気味っていうか....」
なんか当たらずとも遠からずみたいな感じらしい。
「あ、ごめん。初対面でこんなこと言って...」
確かに初対面で言う言葉じゃないな。
だがここは鷹揚な態度で少女の不安を晴らしてやるべき。
そのくらいはわかってるさ。
「別にそんなの気にしないから大丈夫だ。だけど俺...そんな酷いのか?」
一応フォローしつつ気になった部分に突っ込んでみる。
「それは強すぎて怖い...ってことじゃない?」
パヴェロがそう解釈をつけてくる。
確かにそれなら説明もつく...か。
にしても濁っていて透明って、矛盾も過ぎた話だと思うのだが...。
「ルシウスの目は確かですからね。ルシウスにそこまで恐怖を抱かせるとは、本当にルーサリウスは強いのですね。なぜBランクなのですか?」
まあ当然の疑問だな。かと言って工作されてたなんて言うのも面倒だし...
「まあなんだ、あの日は死ぬほど調子が悪かっただけだ。そういう人は誰だってあるだろ?」
とりあえず誤魔化しておく。
上位の魔法師がそんな日毎のコンディションで魔法にムラが出てはたまらないのだが、流石にそこまで突っ込めるほどの知識はあるまい。
「だよねだよね!あー今回の班別対抗楽しみになってきた!」
パヴェロは巻き起こる戦闘にウズウズしている、と言った感じか。
まあこいつの指揮能力ならどうせ突っ込んで死ぬだけだろうが...水は差さないでおこう。
「うーん、そういう感じじゃないと思うんだけど...」
ルシウスがそう呟く。
ん?強さじゃない?なら何が俺の...
そう思ったところでクリークの声が響く。
「じゃあみんな、自分の好きな班リーダーのところに集まってね!」
その掛け声に従って、ゾロゾロと生徒が集まってくる。
「呑気に話してもられなそうだな。じゃあまた後で!」
とりあえず俺はこいつらに手を振って、自分のチームの元へと歩き出す。
なんで俺が歩いて行かないといけないんだよ。
まああそこにいても避けられるだけだろうから賢明と言えば賢明か。
そう言えば、5席と10席は最後まで出てこなかったな。
ちらっとこっちを見に来て、俺らが談笑しているのをみたのかすぐ戻っていった奴がいたが、あいつがどっちかなのだろうか?
なら申し訳ないことをしたが...まあチームのためだ。仕方ない。
俺はチームと合流する。
結局最後まで、3席の女が話しかけてくることはなかった。




