謎の女×2
さーて今回のルーサさんは!
・待ちに待った実技テスト
・みんな弱すぎぃ!
・俺、無双
の3本でお送りいたします!
無論そんなことは無いのだが。
「はいみなさーん、本日は実技テストの日です!しっかり準備してきましたね?」
担任の声が件の戦闘訓練場に響く。
彼女は我らがA組担任のクリーク先生。
金髪碧眼のロングヘアで、可愛らしいお姫様のような、優美なのにどこかフワッとした独特の雰囲気を醸し出している。
「「はい!」」
現金な男子生徒を中心に、みんながしっかり返事する。
「先生期待してますから、本気でやっちゃいましょー!」
うん可愛い。
まあコイツはクズだから、本当は毛ほども期待してないんだろうけどな。
紹介し忘れたが、俺の姉だ。
「「「おー!!」」」
その可愛さに当てられたのか、いっそう返事が大きくなる。
返事が大きいのはいいことだ。
それが俗的な動機から来るものでも良いのかは分かりかねるが。
クリークはサッと俺に目をやるとまたすぐに正面に目線を戻して
「特にルーサリウス君!期待してますよ!」
と爆弾発言を飛ばす。
瞬時にクラス中の怒気嫉妬が俺に向かう。
「…キシールならともかくなんであの影武者が誉められるんだよ。」
「マジでイラつくな」
クラス中から怨嗟の声が漏れる。
俺は単純に反応に困り、キシールは俺に恥をかかせたとして慌ててフォローに入ろうとする。
「い、いや、ルーサリウス様は俺なんかより遥かに凄い人だからさ!期待されて当然って言うか!」
どこからともなくボソッと聞こえる。
「....本物ならな」
まあ訂正しない俺が悪いと言えば悪いんだがね。
一方こんな地獄な状況を作り出した性根の捻じ曲がったゴミ姉貴は、「私って罪な女」と言う明らかに舐め腐った表情をしてやがる。
要は俺とキシールが困るのを楽しんでる訳だ。
本当に性根が腐っている。
一体誰に似たのだろうか。
少なくとも親族には、ここまで無意味に他者を嗜虐して楽しむ変態野郎はいないと思うのだが。
脳内家系図を参照してみる。
うむいない。
「お前の姉ちゃん、本当お前そっくりだよな」
「えっと...お父様はまともで優しかったと思うのですが...何故なんでしょうね?」
「ま、まあちょっとアレだとは思いますが、僕は全然大丈夫ですよ」
三者三様に俺の方を見る。
あ、俺かこのアバズレと同じ変異種。
「待て俺はあそこまで酷くは無いぞ。」
「いや変わらなく良い性格してるぞ」
心当たりがあるだけにストレートをくらう。
「お姉さんが年上ってことは、ルーサはお姉さんの影響でこうなってしまったのですかね?」
セシルが冷静な分析を始める。
が、多分違う。
元凶は俺たちの養育係のキテレツサイコ野郎だと思う。
「はーい!みなさん落ち着いて、ね?」
何がね?だこの野郎。
クラスメイトはその声で一斉に我にかえり、先生の方に目線を向ける。
「精神汚染の神魔術かなんかか?」
俺がそう呟くと
「可愛さって本当神魔術だよな」
とグシードから返ってくる。
そう言う意味じゃ無いんだがな。
いや、可愛いというのはダークエネルギーに自然と干渉して精神に作用を及ぼす才能のことなのだろうか?
だとしたら神魔法、世界に溢れすぎじゃ無いか?
少なくとも俺の家には2匹ほど神魔法の使い手たる畜生がいるのだが。
「ではみなさん。規定の位置についてください。まずは好きな魔術10個を選択して、魔力計測器をオンにしてから1回ずつ使ってくださいね!あ、スイッチは緑のレバーです!使い終わったらちゃんと戻してくださーい」
クリークの掛け声と共に生徒たちは我先にと測定位置につく。
人数が多いので、大体三列に並んで順番を待つ。
一列目なら先生もちゃんと見てくれるだろうと思ってみんな張り切ってるのだろう。
まあ多分、アイツの頭の中は今頃「お腹すいたなー」か「ムラムラするなぁ」のどちらかでいっぱいだろうけど。
残念ながら、お前らがどんなに競っても、お前らに興味を示すことは無いぞ。
あ、致命的なドジでもやらかせば今晩の酒の肴くらいにはなるかも知れんが。
さて、一列目が魔法の行使を始めた。
みなA組選抜なだけあって、なかなかの魔法行使力だ。
特に右から4番目のあいつ。
女だが、魔法行使に無駄がない。
と言うか、一部を端折って意図的に最大威力を下げている節がある。
代わりに精度と投射速度がずば抜けて良い。
アレは、近衛連隊や一部の名誉師団の兵士が使うような、実戦向きの魔法だ。
何故この年頃の女があそこまで洗練されているのか...実戦経験?それはどこで?
「あの人、何者なんですかね?」
キシールも気付いたようだ。
「全く無駄がねぇ。俺より強えんじゃねーの?」
グシードが他者を認めるなんてまた珍しいことだ。
「お前みたいに腕だけクズじゃなきゃ良いんだが」
「皮肉の材料に他人褒めるのはどうかと思うぞ」
まあそんなこったろうと思ったわ。
が、グシードは真剣な目で俺の方に上半身だけ振り返る。
「皮肉はそうだが、誉めてんのはガチだぜ」
ほー珍しい。
まあアレだけの練度の魔術を何回も見せられれば、流石にこのバカだるまでも気付くか。
「やっぱり私も実戦とか出た方がいいんですかね?」
セシルが少し曇った顔でそう呟く。
彼女は確かに魔法技量に優れていて剣術も中々なのだが、いまいちキレが無いというか、美しすぎるのだ。
宮殿で披露していると言われてもなんら不思議がないほどに、美術的に華やかで洗練されている。
まあ本人はそれを自覚しているが、余り快くは思ってないようだ。
「人殺しの魔法は洗練されててカッコいいけど、何も生み出さないぞ」
不意にそんな言葉を呟いてしまう。
だめだ、これじゃ空気が悪くなるばかりだな。
「セシルさんの魔法は、心が温まる魔法ですから十分立派な魔法師だと思いますよ!」
キシールが温和な笑みを浮かべながらそう励ます。
ナイスフォローだキシール。
「でも....このままだと役に立てない時が必ず来ますよね...?」
そんな事を気にしていたのか。
てっきり周りと比べて自分が才能が無いんじゃないかとか、あんな攻撃魔法を使ってみたいとか、そう言う方面で悩んでいたと思っていたのだが。
「ルーサは性根が捻じ曲がったクズだけど、そんな事周りに期待するような性分じゃねぇよ」
グシードが呆れた表情でそうフォローする。
お前にしては割とまともな意見だ。
前半を除けばな。
「まあなんだ、お前にはこんな空虚な魔法に染まって欲しくない、ってのも本音ではあるけどな」
あんまり他人の生き方にケチは付けたくないんだがな。
まあでも、それで本人が気休めになるなら良いだろう。
「ルーサ...」
セシルがそう呟く。
若干輝きを増した眼を俺に向け、ほんの1秒。
パッと気を取り直して
「うん、みんななんかごめんね。ありがとう!」
いつもの柔和で可愛らしいセシルに戻った。
無理をさせてるのは俺らかも知れないのに。
そう思うと若干の罪悪感が湧く。
俺にしては珍しく、な。




