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彼は元皇太子である  作者: パパラッチ
5/10

圧倒的才能

という訳でここは午後6時の戦闘訓練場。

元々は軍の練兵場として使われていた場所で、縦横2km四方の中にアーティファクト障害物が紛れ込んでいる。

アーティファクト障害物というのは、固形化の魔法がセットされたもので、まあつまるところ何度破壊しても時間で蘇るという代物だ。

さらにこのアーティファクトは霊脈と密に接続してるため、基本的に何をしても壊れない優れものだ。

そんなガチガチの演習場で今から始まるのは、とどのつまりイジメである。

イジメという名の殺戮ショーだ。

150対1で嬲り殺しにされるのだ。

150人が。

それにしても相手方には女子が多いな..まあ男子は俺の英雄譚に憧れて力を貸さないだろうし、女子はつまるところ同じように家格をポッと出に奪われてイライラしてる方達が大集合されているということか。

まあ家格の問題で言うなら、俺に求婚すれば侯爵家との深いパイプができる訳だが、そもそも高位貴族の家として認めてすらいないと言うことだろうか。

まあこれだけの数がいるなら介抱と称して胸、つまりおっぱいくらい揉んでも大丈夫じゃないだろうか。

いや、そうしよう。役得だなぁ。

「やけに女性が多いですね?ルーサ」

流石セシル。

疑惑追及までの過程が恐ろしく早い。

そんなセシルの追求をのらりくらりと交わしていると、どうやらお互いの名乗り合いが始まったようだ。

「わたくしは、国家の誉たる鷲の紋章を、畏多くも皇帝陛下から賜りし三大公爵家が一角、サジリウス家が長女、サジリウス・ヴァニス・シルヴィア。ここに正当な戦いを申し込む。」

150対1で正当ねぇ。

「あら、お気を悪くされませんこと。事前に策謀を巡らし相手方の陣営を崩し、味方の兵を募るのは貴族士官として当然期待されるべき職責ですわ」

シルヴィアは片手で髪をサラリと流しながら、してやったりと言う顔だ。

まあ相手を盛大に誤解して、剰え彼我の戦力差すら把握してないと言うのは士官として失格だと思うんだけどね。

「それはルーサリウス様がなさること。俺はその右手であり、そもそも貴様相手にそのような戦略は必要ない」

言うねぇキシールくん。

まあここ士官学校だから、シルヴィアの言い分にも分があると思うんだけども。

「その減らず口、ここでへし折って差し上げますわ」

その用法は本当に正しいのだろうか?

そんな疑問を脳内でぐるぐるさせているうちに、両者規定の位置につく。

「まあアレだ、殿下様の掘り出し物とやらを見させてもらうかね」

グシードが腕を組みそう口にしたちょうどその時、勝負は始まった。


シルヴィア勢は予め定めていたであろう陣形に広がる。

鶴翼陣で火力を集中投射させようと言う寸法か。

そしてその間合いを抜けたら剣戟兵が待ち構えていると。

「水簾!」

シルヴィアが水魔法を使う。

まあ平凡で、定石で、及第点だ。

魔法の練り上げ方も、この歳にしてはなかなか素晴らしく洗練されている。

これなら勝てると思い上がるのも納得だ。

相手がキシールで無ければ、だが。

刹那、戦場は地獄と化した。

キシールが王剣ニンフィアをさっと一振りする。

すると全ての魔法攻撃が弾かれ爆散した。

そして間合い500mを1秒で詰める。

そしてニンフィアをもう一振り。

雑兵がもうゴミのように飛んでいく。

剣戟兵はもう跡形もない。

魔法障壁を貼れた、席次50以上の学生のみがなんとか耐える。

「固まって!」

シルヴィアに咄嗟の命令も虚しく、まず右翼陣が強襲を受けた。

秒速500mの瞬足とニンフィアの一振りで、瞬時に背後を取られた右翼陣は総崩れ。

その攻撃の合間に撃った古代風魔術「竜巻」が左翼陣を直撃。

左翼陣は跡形もなく吹っ飛ばされた。

竜巻はこう言う演習戦に於いて無類の強さを発揮する。

指定した直線系の風が回転しながら叩きつけられるので、魔法障壁を張ったとしても半端なものなら強制的に押し飛ばされる訳だ。

そしてまあお分かりだろうが、中央に陣取るシルヴィアは、それに恐れ慄きながら周りの直参兵と共に固まるくらいしかできないのだ。

そこにキシールは容赦なく帝王光魔法、「光よ燦々たれ」を叩き込むと、瞬時にエネルギー波が人体に衝撃を加え、閃光からようやく目が解放された時には、もう誰もそこには立っていなかったのである。

「あいつ本当に2ヶ月でこんな化け物になったのか?」

グシードも目がまんまるなようだ。

当然だ。

剣速、スピードに加え冷静な判断力。

更に魔法は帝王魔法と古代魔法が使えるときた。

この世界の上から数えて2、3番目の魔法区分だ。

この世界の魔法は人魔法と神魔法に分類され、遠い昔に神々がダークエネルギーと呼ばれるものを操り使役したのが神代魔法。

それを古代の祖先が探究したのが古代魔法であり、再び文明が興隆し、それを元に新たに発展させたり欠けた部分を想定して完成させた魔法が帝王魔法。

ここまでが神魔法だ。

その他の魔法は人魔法と呼ばれ、霊脈や人体魔力を基に発現される。

人魔法は術者によって威力が様々なので等級分けはされない。

が、神魔法は確かに素質によって威力は変わるが、人体魔力や霊脈結合の重要度が著しく低いにも関わらず一律で威力が馬鹿げている為、魔法量が少ない魔法師の希望とされるのだ。

では何故人魔法がまだ主流なのかと言われると、神魔法は発動方法が特殊であり習得が非常に難しいのだ。

人魔法が体内で練り上げた式を体外で魔法量を消費する事で発現させるのに対し、神魔法は式がない。

コツはあるが、体で魔力の流れを整える必要があり、それを規定の用法で正しく空間に作用させることでダークエネルギーを正しく運用できるのだ。

これは並大抵の修行で出来る話ではなく、才能に溢れていても一つの神魔法を極めるので一生が終わってしまうほどの代物だ。

それをアイツは、全属性古代、帝王魔法をそれぞれ複数使えるのだ。

冷静に考えて化け物としか言いようがない。

「いや俺が戦場で半年みっちり鍛えた結果だよ。」

そんな訳がないのだかな。

だが、弟子が誉められるのはそれはそれで非常に満足だ。

「これはちょっと...規格外...ですかね」

セシルは苦笑している。

それもそうで、観客は皆シーンと静まり返ってる。

まあ当然だな。うん。

「どうやって見つけたんだ?あんな奴。普通強制的に魔法学校にぶち込まれるだろ」

グシードは心底不思議そうに聞いてくる。

「いや、なんか神魔法を使って農耕してるアホが居たからとっ捕まえてきたらアレだったってだけだ。」

実話だ。

辺境の村に行ったら、10代の少年が神魔法を使って畑に水やりをして、耕してるのである。

そうはならんやろ、と言うのが出会いから今までの俺の一貫した感想だ。

「え、それって魔法教育も全く受けずに神魔法を使っていたってことですか...?」

苦笑を通り越して唖然だ。

「感覚で出来たらしい。高位神族の血統かと思って知り合いの親族に聞いてみたんだが違うようだしな」

「神族まで知り合いが居るのかよ...」

神族は、大陸の端っこに細々と暮らしている種族だ。

温厚だが殆ど人間や魔族と関わろうとせず、その癖馬鹿みたいに戦闘力が強いので、取り敢えず国境線が神族の住処を元に作成されたりするくらいに謎な種族なのだ。

「それにしても、よく領主様が取り立てませんでしたね?」

セシルが首を傾げる。可愛い。

「あそこの領主、美術品にしか興味がないからなぁ」

戦場に2mの兜を付けた巨人兵を「増援だ」と嬉しそうに連れてきた時には、嬲り殺してやろうかコイツと思ったけな。

と、何やら辺りが騒がしくなってきた。

度肝を抜かれていた観衆がようやく正常に戻り、うわーだのなんだのと感嘆の声をあげているのだ。

キシールの誤解が解けるまでの期間が、2週間ほど先伸びした瞬間である。

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