チーム結成
シルヴィアを連れて俺のチームの元へと戻る。
そこにはいつも見知った顔とは別に、二人の新顔がいた。
「あ、ルーサ。新しいチームメンバーが決まりましたよ。」
セシルは心なしかホッとしているようだ。
班メンバーは基本的に、最低6人とされている。
それはこの林間学校特有の事情で、まずAクラスで班を決める。
その班員一人ずつにBクラスの生徒が一人ずつ副官として付き、班員一人ずつに5人編成のその他クラスの班がそれぞれ5つずつ与えられる。
要は1人25人小隊を受け持って、班全体では基本的に250人の中隊を率いて戦うのだ。
だが、Aクラスの班編成は自由なので人数にばらつきが出る。
そう言う場合を勘案して、Aクラスのリーダーは基本戦力の過半数は保持するようにするために、6人が最低人数だとされているのだ。
ならそもそも班編成を均一にしたら良いと思うかもしれないが、これは指揮統制を現場で学ばせて、学校に戻ってからの授業に現実感を持たせるための行事でもある。
戦力が均一な状態での素人戦闘では、確かに教科書の内容は学べても予測外の事態に対応する能力が養われない。
なので、最低限度の戦力だけは保持させつつ、後は各自自由にアクシデントを起こさせるのだ。
それを帰ってから学べば、一石二鳥という訳である。
そのために最低2人は確保しなくてはならず、コイツらはその対応に四苦八苦していたと言うわけだ。
「ありがとう、危うく適当なメンバーをクリークに引っ張って来られるところだった」
とりあえず感謝をしつつ、ニューメンバーの2人を観察してみる。
1人は青髪青眼の男子で、メガネをかけている。
雰囲気は堅物といった感じだが、まあキシールが選ぶんだから人間性に問題は無いだろう。
服は俺と同じだから20席以内か。
もう1人は黒髪ボブの少女で、キシールと何かを熱心に話している。
「あ、シルヴィアじゃねぇか。お前も入るのか?」
グシードが当然の疑問を口にする。
「まあ勧誘されまして。邪魔なら別の所に行きますわ」
シルヴィアが答える。
特にグシードは思うところもなさそうだ。
「おう、よろしくな」
あまりにあっけらかんとしているものだからシルヴィアも多少困惑している。
「ええ、よろしく」
とりあえず問題は無さそうだ。
まあうちの班メンバーに限ってそんなチャチなことを気にする奴がいるとは思えないが。
「やっぱり連れてきたんですね」
セシルが笑顔でそう聞いてくる。
俺がシルヴィアを勧誘しようとしていることが分かってたのだろうか?
「まあ、戦力にもなるし反省もしてるみたいだからな」
俺は、何かしでかすかもしれないから手元に置いておきたいと言う理由は隠しつつ、それなりの本音を答える。
「よく俺が連れてくるって分かったな」
俺はそんな素振りは一切見せてないはずだがなぜ分かったのだろうか?
「なんか、ルーサが放っとくわけないなって思ったんですよ」
セシルにそんな風に思われているのか俺は。
そんな殊勝な男ではないんだが、まあ期待を敢えて裏切ることもあるまい。
これからは他人多少優しくしてみるか。
「あ、ルーサリウス様。」
キシールが俺に気付き駆け寄ってくる。
「キシール、あの2人はどうやって決めたんだ?」
率直でいま1番の疑問をぶつける。
キシールがわざわざ俺の班員に選別したからには何らかの理由があるはずだ。
「はい。とりあえずルーサリウス様の指示に絶対に従うことを条件にしたところこの2人が残ったと言うかところです。」
なるほど。
キシール目当てでくるやつは俺が上に立つのがあまり気持ち良くはないだろうからな。
「それなら指揮系統も乱れないな。とりあえず2人の紹介をお願いできるか?」
何はともあれ、新メンバーのことを知らずには何も進められない。
すると、いつのまにか近くにいた2人が揃って自己紹介を始めた。
「はじめまして。名はハインリヒ、席次は18席です。本演習では命令さえいただければ死地にでも乗り込む覚悟です。所存です。よろしくお願いします。」
「私はサンシャ、席次は35席です。キシール様からお噂はかねがね。どうぞよろしくお願いします」
うん、参った。
2人とも礼儀が非常になっている。
と言うか演習で死地に突っ込む覚悟はやりすぎだろ。
だがまあ、班に対する憂慮は特に無さそうだな。
「ああ、よろしく。短い演習期間ではあるが気になった事があったら何でも聞いてくれ」
「ありがとうございます」
当たり障りなく挨拶を終えると、彼らはシルヴィアの方をじっと見ていた。
「どうした、気になるか?」
そう言えばコイツらはキシール目当てで来たんだよな。
ならシルヴィアのことをよく思ってない可能性もある。
うっかり失念していたが、これは結構宥めるのが大変なのではないだろうか?
「いえ、確かに多少は思うところもありますが、ルーサリウス様のご判断にケチをつけようなどとは毛頭」
ハインリヒは完璧に軍人気質だな。
俺の連帯にも多くいたが、このタイプは一度主君を見つけると絶対的な忠誠を誓ってくれるお得なやつだ。
キシールもいいやつを見つけたな。
「私も憤懣はありますが、まあキシール様が何も感じないのであれば私からは特に」
みればキシールがシルヴィアと談笑している。
まあ笑ってるのはキシールだけだが、取り敢えずわだかまりはなさそうでよかった。
それにしてもサンシャは多少どころか思うところがありそうだな。
とは言え、シルヴィアのあの態度を見ていれば、怒りを覚えるのも馬鹿馬鹿しくなるだろうし、後は時間が解決してくれるだろう。
「では、班登記を済ませてきますね」
セシルが気を利かせてクリークの元へ向かう。
「とりあえずはこれで良し、か」
俺の班はこうして結成された。