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ヒーローであるためのふたつの歯車  作者: 郁崎有空
第1部 ヒーローであるためのふたつの歯車
12/31

EX2 月夜のモノローグ

 ぱちりと、目を覚ます。

 カーテンから漏れるほのかな月の光に、日和(ひより)ちゃんの寝顔が照らされている。その顔はなんというか、とてもかわいらしくて、今でもどうして私なんかを好きでいてくれたのかいまだに分からない。

 私の左手は日和ちゃんの右手で固く握られていて、簡単に離れないようになっている。私は握られた手を確かめるように、少し緩めてからそっと握り返した。

 この子は私がダメなところをいっぱい知っている。それらを知った上で私を認めて、好きでいてくれる。それにどこか安心感があって、この子には肩を寄せてもいいと思う。

 今日、キスをしてからなにかがおかしい。いや、それより前から、この子といるだけで調子が狂うことがよくあったけど、いまはもっとおかしくなっている。

 この子の前で上手くやろうとしても、全然格好がつかない。この子と会うたびに、私の思い描いていたヒーロー像は粉々に砕かれてしまう。

 正直、怖くなかったかと言えば嘘になるけど、同時になにか安心感を覚えている自分がいた。

 自分は憧れていたようなヒーローには向いてないのだと、私を捕らえていた見えない枷が外れたような、そんな気がする。それはいまの私にとっては、どちらかといえば良いことだったと思っていた。

 改めてカナデお姉ちゃんに託されたものだから、私はまだヒーローを辞めるつもりはない。これからも、多分辞めるつもりもない。ただ、無理にヒーローぶるのを辞めるだけ。

 これでもう、私の中のハイドはしばらく出てこない。ヒーローという妄執と溜めこんだ感情の入り混じったあの怪物は、しばらく生まれてくることはない。そう信じている。

 誰かが内側さえ認めてくれれば、ハイドなんて生み出す必要もなくなる。それが私なりの『ジキルとハイド』の結論だった。ジキルの進んだ行く末は不幸だったけど、その点では私は幸せだと思う。

 私は君に認めてもらえたから、ちょっとだけ肩の力を抜けた気がする。だから、君が私に好きでいてほしいと願うなら、私だってそれを認めてあげたい。

 君の言う、好きという気持ち。いまでも完璧に分かるわけじゃないけど、これから少しずつ分かっていきたい。

 私は日和ちゃんの寝顔に顔を近づけて、昼頃にしたように、こっそりと唇を重ねる。合間に柔らかい寝息が頬を撫でて、それがちょっとくすぐったかった。

 どうにか起きないように気をつけながら顔を離して、寝る時の体勢に戻り、空いてる手で日和ちゃんの頭を軽く撫でる。

 私はまだヒーローとしてダメダメだけど、もし君が困った時は助けてあげたいと思う。

 君の言うヒーローがそういうことならば、私は少しは成長できたのかな。なんて思いながら、私はまた、明日へと進むために目を閉じた。

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