吸血君と大原奈々
「...吸血君...。」
改めて対峙をした吸血君は、何処か強張った頬で「...ごめん。」とまた呟いた。手が、ちょっぴり震える。緊張からだろうか。...それとも、別の感情からだろうか。
彼の、凍てつくような、それでいて後悔を滲ませた眼に、奈々は一瞬怯んだ。あの時の、怯えが走る。やっぱり、私はまだ、彼のこと...怖がっている。
「ごめん。」
もう一回そう呟いた彼は、奈々を見ると、「僕のせいで...奈々ちゃんを、痛い目にあわせた...から。」と途切れ途切れに言った。まるで、自分の罪を自白しているかのように、蒼ざめた顔で言う彼には、何時もの面影の欠片さえ無い。
「!?」
ふわり、と奈々の頬を撫でようとした吸血君の手から、奈々は飛び退いて逃げた。ちょっぴり、怖かった。
...やっぱり、まだ...。
「やっぱり、僕のこと、怖いよね。」
微笑んだ彼の顔。
寂しそうな眼、苦しそうな眼、置き去りにされている子供のような眼。
何で、こんなに、彼の苦しそうな顔を見ると、胸がぎゅっと掴まれるような、そんな悲しい想いになるのだろう。
何で...こんなにも、寂しそうで、小さな背中の彼を、私は愛おしいと想ってしまうのだろう。
この人に、悲しい想いをして欲しくない。この人に、寂しい想いをして欲しくない。違う、私は、君にそんなことを望んでいるわけじゃないの。
「私は...怖いのかも、しれない。」
紡ぎ出した言葉に、ピクリ、と反応する吸血君。分かっていたけれど、何かを手に入られなかった時のような、そんな表情をしている。微笑んだ彼の顔が、一瞬、哀しみの表情に変わった後、無表情になった。
「でも...、でも、そんな感情よりも。」
貴方が悲しい顔をすると、貴方が悲しい想いをすると、私も悲しくなる。
貴方が嬉しい顔をすると、貴方が嬉しい想いをすると、私も嬉しくなる。
そう思えるぐらい、貴方は、私の心の中で、大きな存在に変わっていたんだ。
最初は、お互い小さな、只の好奇心からだったかもね。
でも、私は、貴方がいたから、ちょっとずつ、毎日が楽しくなるのを感じた。暗記とか、勉強とか、友達とか、そんな枠さえも超えて、時に常識さえも逸脱して、私の心に入ってくるような、今まで私の周りにいなかったような、そんなタイプ。
だから。
私は、吸血君と、もっともっと色んなことを、体験してみたいの。
「君の悲しい顔を見る度、悲しくなったりするの。だから、私は君が悲しいままなんて、嫌だ。」
「...僕は、悲しくなる資格なんて無いんだ。」
「あるっっっっっ!!」
驚いた顔が目に映る。あはは、私らしくは無いかも知れない。
でも、これが精一杯なんだから。私、君と出逢ってから、君が血を吸うようになってから、どんどん感情が豊かになっちゃったんだからね!
本当、君のせいだよ!!!
「私、吸血君のせいで、私まで悲しくなっちゃうようになったんだよ!どう責任取ってくれんの!?」
「でも...」
「良いから!!!」
君が、私の心の境界線まで、超えてきたんだから、今度は私の番でしょ?
私だって、境界線を超えるぐらい出来るんだから!
「さっさと!何時もの吸血君に戻りなさいよォー!!」
「...それでこそ、奈々ちゃんだね。」
ちょっと微笑んだ彼が、一瞬頬が緩んだ気がした。彼が、口を開いて続ける。
「僕、でもまた暴走するかも知れないよ?」
「構わないもの、私今度からは対処できるしね。」
「血を吸いたくなるかもよ?」
「ええ、どんと来なさいよ。逆に搾り取ってやるわ。」
「口接触、あるかもよ?」
「いいじゃない、別に、そんなもので一喜一憂などしな」
眼が、暗くなって、何かが覆い被さっているような、そんな感じがした。
ゆっくりと時が進む中、ぼんやりと、口当たりが柔らかい、何かに包まれているような、それでいて口内に何か、ぬるぬるしたものがあるような感じもする。何となく、安心して、気持ちいい。
やがて、それが離れると、眼の前にいた吸血君が、にっこりと微笑んで笑っていた。
「じゃあ、僕、何回もしちゃうかもだけど、良い?」
「な、な、なッ...!?」
ふるふると震える奈々の代わりに、ふわりと優しく微笑んだ彼の顔は、どんどん大きくなっていく。
「皆も、こっちに来なよ!」
皆?
カラリ、と扉が開いた先には、赤らめた顔をしている皆が。美琴ちゃんが、赤面した顔で続ける。
「ごめっ...、覗くつもりはなかったのだけど、つい。」
「その、二人がすごくイチャついていたので...!」
「あ、アダルティな会話をしてたからさ...。」
皆が、赤面した顔でそう叫んだり、笑ったり、言ったりする。吸血君が、にこりと笑うと、「気持ち良かった?」と口パクで言った。
ぶちっ。
「こんの、エロ吸血鬼〜〜〜!!!!!」
ありったけの大声で、奈々はそう叫んだ。
***
となりの席にいる小日向君は、成績優秀、社交的で素敵な男の子だ。
これが少なくとも、席替えをした最初の日に感じた彼の印象だった。
今は...。
私にとって...、何かを変えてくれた、愛しい恋人だ。
遅くなってごめんなさい〜!
本編は、これで終わりです!番外編...は2、3話位の予定です。
読んで下さり、ありがとう御座いました!!!




