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となりの吸血君  作者: 姥妙 夏希
4/7

吸血君と奇妙な事件 後編 

*流血表現あり


会話ログが多め回です

間に合って欲しい。

もうこれ以上、被害者を出しては、いけない...!!!


焦る気持ちの中、奈々は吸血君となりに走っていく。


「...吸血...君、蘭定先...輩、見える...?」

「良いから、走るのに集中して!!!」


喘ぎ喘ぎにそう呟いた奈々に対し、吸血君は焦ったようにそう叫ぶ。足を出来る限り速く動かして、間に合わせようと頑張っている。


本当に、何時だって人の為に...。


やっぱりほら、カッコイイんだ、と思いながら、奈々は足を動かすことに集中した。


***


走り、走り、走る。


息が切れるぐらい走って、もう歩く気力も残らないぐらい走り続ける。お願いだ、間に合ってくれ、とずっと願いながら。


「あっ...!!」


ふと前を見ると、いつの間にか暗くなってきていた空と殆ど同化した人影が見えた。冷たい風が頬を擽るのを感じながら、奈々は叫ぶ。


「蘭定先輩!!!!」


それは、いた、間に合った、と思い、心の底から安堵感を覚えた瞬間だった。蘭定先輩らしき人の影が、2つに分かれて、何かもっと大きな、縦長な影が現れたのは。それは、まるで男の人のような大きな影であり、それが掴んでいるものは紛れもなく細長い何かだった。キラリ、と光が何かを反射して、その正体を写し出す。


...包丁...!


「蘭定先輩!!後ろに人がっ...!」


男の人のような影がピタリと止まり、一瞬の静寂と緊張が流れる。振りかざした凶器が既の所で止まり、男が此方を向いたように影がゆらりと揺れた。固唾を呑むと、奈々は身を震わして影を見つめた。思考が、恐怖で埋まっていき、怖さに奈々は口をガチガチと開けたり閉じたりを続ける。自分の感じる体感温度が、自分の今の状態を表しているように寒かった。


「お前ら、誰だよ。」

「...話す義理はありません。連続失血死事件はそこまでです。」


意外にも平気そうな吸血君が奈々の代わりに話を紡ぐ。奈々とは違って震えてはいなかったが、眼には暗い闘志が灯っていた。空気が圧するようなものへと早変わりする。


「やっぱり警察も馬鹿だよなあ、お前のような陽気そうなただのチビでも分かるようなことなのに、警察が分からないとはこの世も末だな。」

「チビだと!?!?」


...何か、私的混合してません?一瞬でもカッコイイとか思っていた自分が馬鹿みたいじゃない。この空気読めない奴め、と思いながら奈々は改めて男を見た。眼鏡が光る、インテリといった感じで、人殺しをするようなものではない。それなのに...!!


「蘭定先輩、逃げて!!!!」


一瞬の隙を突いて、蘭定先輩を逃さなければ。そう固く誓った奈々の叫び声を聞き取り、蘭定先輩は大通りの方へと逃げて行った。ほっと息をつくと、奈々はまた視線を彼の元に戻す。彼は狂気的に笑いながら、「やるねぇ、やるねぇ、流石だよぉ。」と気持ち悪さと不気味さの半分半分といった具合に呟いていた。


「やっぱり予想外だと面白い...。これだから、人殺しは止められない...。」

「...!!」


こんな、こんな、人の死を弄んで捨てるような奴に、3人もの女性が殺されたのか。眼に熱い、悔しさの涙が流れる。


「さてと、君の血はどんな味かな?これも、人殺しの楽しみの1つなんだよ。」

「彼女のは吸わせません!」


となりの男の子から、その小柄な体からは出難いような大声が出て、奈々はびっくりして吸血君を見つめた。吸血君がスマホを片手に、冷静に、淡々と事項を伝える。


「今先程、警察を呼びました。レスポンスタイム知ってます?平均7分18秒です。此処は警察署からも近いので、直ぐに着くと思いますよ。」

「証拠などないじゃないか。」


「今そう応えたのが証拠です。失礼ですが、勝手に録音していました。これも立派な法定証拠となるかと。」


にこり、と微笑みさえ湛えるその顔は何処かゾクリとする何かがあった。何時の間にか、背後を取られて静かに刃を首に当てられた時のような、そんな感じがする。違う、吸血君はそんなことしない。


彼は、デリカシーのなくて最悪な奴かもしれないけれど、少なくとも眼の前にいるような人の死を弄んで捨てるクソ野郎とは違う。そう、違うのだ。


「そっかぁ、君は頭が回る利口なチビだった訳だ。」


意外にも平気そうな顔で、眼の前にいる殺人犯は喜々としてそう話す。


「なんなら、君も血を吸っても良いんだぞ。美味しいからさ、美味しいものは共有したいんだよ。」

「ち、違います!!!!!」


...あ、つい叫んでしまった。2人が此方を見つめて、少し言葉に詰まりながらも奈々は拳を固く握る。


「何が違うんだ?何のことかな?」

「きゅ、吸血君は...、確かに少し嫌な所もあるかも知れないけれど...。」


息を吸い込んで、ありったけの大声で叫ぶ。


「少なくとも、人の死を嘲笑うクソ野郎とは違います!!!」


言えた。声は裏返ったかもしれないけれど、きちんと言えた。吸血君が目を見開かせて此方を見て、何かを呟いたような気がする。口の動きからして、多分、『奈々ちゃん』だった。


「...ほぉ、吸血君?」


眼の前にいる殺人鬼は微笑みつつも手に持っている光った凶器を振り回し、弄んだ。指を器用に凶器の間に滑り込ませ、ぐるぐると弧を作らせる。その手がピタリ、と止まったと思えば、ソイツは包丁を何の血の迷いか上に投げたりスウィングをしたり始めた。それだと、自分に当たってしまうではないか。


「お前も血を飲むのか、なあ利口そうなチビ。」


あ...。さっき、自分が吸血君と言ったから...。


「ハハッ、仲間がいたなんて嬉しいなぁ。じゃあ一緒に飲もうじゃないか。」


煌めく刃が自分に向かって振り下ろされ、奈々は咄嗟に眼を瞑った。痛みを堪えるように、拳を握りしめて歯を食いしばる。その時、奈々は自分が痛みを感じていないことに気付いた。何かによって斬られた感触さえもない。只、瞑った眼から感じる光が先程よりも暗くなったことに対して、奈々は不安さに似た疑問を感じて、眼を開けた。


そして、眼の前にある状況に驚く。


「きゅ、吸血君...?」


眼の前に立っているのは、小柄で髪の毛がふわふわしている男の子だった。但し、ふらり、と躰の軸が不安定になり、奈々の近くに倒れた様は、今まで見た元気で、何処か憎らしい男の子ではなかった。肩からぱっくりと開いた醜い傷口が、制服を鮮やかなまでに赤黒く染め、息遣いの激しい吸血君の肌を露出させる。


どうしよう、何をすれば良いんだろう。


思考が真っ白になる。


「吸血君、ねえ、きゅ...小日向君?しっかりして...ねえ、返事して!」

「な、な、ちゃん...。」


吸血君が、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。ゆっくりと腕を持ち上げ、奈々の頬を少し撫でると、「えへへ...、奈々ちゃん、助けよう...として、失敗しちゃった...。大丈夫...だから。」と微笑んで安心させようとしてくる。色んな言葉が込み上げてきて、奈々は「...馬鹿。」とやっと口から絞り出してそう言った。


ふっ、と頬を緩めて微笑んでいた吸血君の顔が、そこで強張った。眼を開かせ、「奈々ちゃん!!」と叫ぶ。後ろから尋常ではない殺気を感じ、奈々は後ろを振り返った。


「奈々ちゃん、危ない!!!!」


そう吸血君に言われるがまま、奈々は後ろの殺人鬼によって、首から肩にかけてを斬られた。薄皮一枚が斬れ、吸血君と同様ぱっくりと傷口が開く。


熱い。痛い。苦しい。


斬られた箇所が、灼けるように熱くて痛い。息遣いが荒くなる。眼の前にいる、殺人鬼の喜々とした表情に、恐怖を覚える。その男がどんどん近づいて来るのを、奈々は視界に捉えた。


「奈々ちゃんっ...!」


吸血君が叫んでいる声が遮られ、男は先程自分で斬った傷口をつぅ、と指でそって撫でた。嫌だ、止めて。痛いけど、それよりも、こんな男に触られているという事実に吐き気が込み上げてくる。恐怖で頭がいっぱいになり、思考が男への恐怖で埋め尽くされる。


はぁ、はぁ、と息遣いが荒くこだまする中、男は傷口を指で抉るようにして奈々の傷口を触ると、最後にそれを口に入れて味わった。甘美な喘ぎ声が聞こえる。


気持ち悪い、嫌だ、来るな。


「奈々ちゃんに手を出すな!!」


吸血君がそう叫んで立ち上がった瞬間、後ろからけたましいサイレンの音と怒声が聞こえてきて、奈々はずるりと地面に寝た。


***


「君、大丈夫?そこの女の子も血が凄い出てるじゃない。病院に連れて行くわ。同伴するから。」

「大丈夫です...。一緒に...、連れて行きます...。」


「でも...。」


そんな話をしているのが遠く離れた所から聞こえる。奈々は、誰かが背負ってくれている感触を感じ、その背中を握りながら、もう一回眼を閉じた。


***


「...奈々ちゃん...。」

「な...に?」


もう家に着いたの?それとも、病院に着いたの?そう思って、奈々は頭を上げると辺りを見回した。何もない、只々真っ暗な闇が広がっている。どうやら、路地裏か何処か一目につかない所のようだ。


「吸血君...?此処、病院でも家でも...ないけど...?」


何か、一瞬良くない気持ちが過ぎった。一瞬、ゾクリとする程執着な殺意を感じた。き、気の所為、だよね...。


「ね、ねえ、吸血君...?」

「...。」


『少なくとも、人の死を嘲笑うクソ野郎とは違います!!!』


先程の、自分の発言が思い出される。そう、確かに彼は違うはずなのだ。なのに、彼は返事をしない。此方にゆっくりと、負傷した肩の痛みなど物ともせず歩み寄ってくる。


獣の眼。


まさにそんな、煕った獣の眼をした吸血君は、此方を見て淡く微笑んだ。




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