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となりの吸血君  作者: 姥妙 夏希
3/7

吸血君と奇妙な事件 中編 

言動というものは、これだから恐ろしい。


夕暮れの道を、吸血君と走りながらふと、奈々はそう思った。


***


「...何で事件を解決しなきゃいけないわけ!?警察の分野でしょ、そこ!」

「だけどさあ、誰かさんが僕のことを疑ってるし、それは嫌だもーん。」


いや、だもーん、じゃない。そんな乙女要素など要らないのである。それよりも説明すべき所なのは、理由の点だ。


「誰かさんって、私?じゃあ疑うの止めるから良いでしょ、それで。」

「...バラすよ...、キスしたってこと...。」


「...。」


卑怯卑劣極まりない。世界中で一番最悪で最低な男だ。でも、キスをしたという事実は到底今の奈々には拭いきれるものではないし、もしバラされれば教室内で流れている噂が更に誇張されることだろう。そしたら、社会的に奈々はあらゆる方面で死ぬことになってしまう。


結局、デメリットの方がどうやら多いようだ。


「...じゃあ、まあ、頑張ります。」

「やったぁ!無理強いはしてないけれど、頑張ってね!!」


いや、すごく無理強いしている。


きゃるんっ、と目をキラキラさせてそう言う吸血君に、何時もの通り苛立ちを思いながらも、奈々は教室から出るのであった。


***


「...奇麗華連続失血死事件、かぁ...。」


アイフォンを片手にその奇妙な事件について調べる。名前や事件が奇妙なだけあって、意外とヒット件数は多かった。シャーペンとノートを準備して、調べた情報を書き込んでいく。


まずは、奇麗華連続失血死事件の背景について。


これに関してはまだ犯人が捕まっていない故に、其処まで多くの情報は得られなかったが、どうやら最初の犯行はかなり無残な死体だったという。切り傷や打撲傷の痕が酷い位ついていて、血を飲みたいが為の犯行には見えなかったらしい。


ところが、その事件の1週間後、事件当初と同じ服を着ていた犯人によってまた新たに1人が殺害されてしまったという。只、おかしい所が1点あり、その死体は当初の死体とはまるで打って変わって、目立った傷といえば首の辺りと手首にしかなかったらしい。そして、また今週、美琴ちゃんが見せてくれた通りもう1人殺されたのだという。


つまり、2回目からは、()()()()()()()()()()()に変わった、ということか。


そして、もう1つこの事件で重要なところと言えば、花だ。


調べたところ、その花は事件によって違う種類らしい。


1回目では黒百合(くろゆり)

2回目では待雪草(まつゆきそう)

3回目では月下香(げっかこう)


どれも、共通点は特に無い。

事件の共通点も、被害者が皆女ということ以外は無い。


つまり、難しい事件だ。


頭を抱えながら、奈々はアイフォンの電源を消した。


***


「奈々ちゃ〜ん!事件について何か分かった?」

「...分かんねぇよ吸血野郎。」


淑女には似合わぬ言葉を発しながら、奈々は眼の前で意気揚々と笑っている男子を睨みつけた。全く、苛立つ顔である。激しい苛立ちを覚えたので、取り敢えず目潰しをしようとピースサインを横にする。吸血君が両手を上げて、「どうどう、どうどう!!」と焦ったように叫んでいるのが聞こえた。焦っている顔が見れたので、良しとしておこう。


「それよりも、アンタはどうなのよ。何か分かったの?」

「んんんー、情報収集は全て奈々ちゃんに任せてるからっ!」


「...本当に目潰ししようか?」

「遠慮しておきます。」


机に突っ伏した奈々のその狂気的な言葉に、素直にサラッと返事をする彼は放っておいて、奈々は事件の背景がびっしりと書かれたノートを取り出した。彼に渡すと、「昨日調べたこと、これだけだけれど。」と続ける。憎らしい吸血君は、意外にも緊張している真剣な面持ちで、ノートを受け取ると読み始めた。


(...黙っていれば、カッコいいのになぁ...。)


髪の毛はふわふわしていて、たまに風に吹かれている。考えている顔付きは素敵だな、と奈々はつい思ってしまった。慌てて机に顔を打ち付け、今のは只の放課後効果というやつだ、と何回も言い聞かせる。あんな奴、カッコいいはずがない。こんなデリカシーがなくて、いっつも血を飲みたいとか言っていて、セクハラ(?)気味の野郎だなんて、誰が。


「奈々ちゃん、1つ聞いても良い?」

「ん、どうしたの?」


真剣な顔でそう聞いてくるので、思わず真顔で返事をしてしまった。彼が言葉を紡ぐのを、待つ。


「奈々ちゃん字綺麗だね。」


ほら、やっぱりカッコよくない。


ノートを奪還し、先程の考えは嘘だと思いながら、奈々は溜息をついた。


***


「何でわざわざ花なんか置いとくの?」

「知らないわよそんなもん。そういうのは放っておいて、御飯食べなさい。」


どうやらお母さんが奈々の独り言を聞いていたらしい、訝しげにお母さんは御飯を用意して食べろと促す。塾に行く前に食べとかないと、お腹が空いてたまらない。ふと塾に行かなくても成績上位層の男子を思い出して、お味噌汁を持つ手を震わせて、奈々は苛立ちを堪えていた。お母さんが「大丈夫?」と呆れたように呟いて、続ける。


「さっき言ってた花のやつだけどさ、こう、花の頭文字を繋げれば良いんじゃないかな?」

「...頭文字!」


ハッと何かに気付くと、奈々はメモ用紙を掴んで書き込んだ。黒百合の『く』と、待雪草の『ま』と、月下香の『げ』を書いて暗号を解こうとする。


「...くまげ?」


くまげ?熊毛?取り敢えず、何かを表していないのは明らかである。やっぱり無理か、分かったと思ったのに、と思いながら、奈々は「使えねぇ。」と呟いた。


「淑女っぽい言葉を使いな!!!!」


いきなり淑女にはあるまじき、口が悪くなった母によって奈々は背負投をされたのであった。


***


「可哀想だよねぇ、被害者の人達も。あんなに殺されてさ、マスコミにも騒がれて。」


塾では休み時間ほど噂話に花が咲く時間はない。授業の合間の10分休憩では、勉強でほぼ出ていった体力を有り余っているだけ使い切ってお話をする。今日の議題は言うまでもなく、あの事件らしい。


「いやホントね。私はあんな殺され方したくないわ〜。」

「怖いよねえ。」


「でもさあ、ちょっと思うんだけど。」


一人の少女が声を上げる。何時もは大人しく周りの話を聞いているだけのような、そんな感じの子だ。彼女は一瞬ちらり、と遠慮がちに怖いと言っていた少女を見て続けた。


「もしさ、もしだけどさ、誰も自分の死を看取ってくれないとしたら、花が置かれてるだけマシじゃない?いや、別に悪気はないけれど!」


人が言ったことは波紋していく。皆がそれを聞いて、「あー、そうかも。」とか「意外と犯人優しい説?」とか身勝手に言い始める。


「意外と次はどんな花かな、とか思っている人いたりしてー!」


「あはは、不謹慎すぎない!?言いつけちゃうよ!」

「まじで不謹慎すぎるでしょー。」


...人の死は、軽い。


そうして『不謹慎』な休憩時間は終わっていく。


***


「今日の都市伝説スクラップで〜す!は〜い、パチパチ!!」


何時の間にかもう1週間経っていたらしく、美琴ちゃんが昼休みに1週間に1回のお決まりでもある、怪しげな雑誌の切り抜きを取り出す。皆は興味津々だけど隠しているといった様子で、お互いにちらちらとそれを読んでいた。


【呪い、妬み...、恐ろしいストーカー特集!】


もう吸血鬼やあの事件についての記事はなくなってしまったようだ。残念に思いながらも、奈々はそれを読む。


【ある日、A子さん(仮名)はバイト帰りに、何か視線を感じて後ろを振り向いた。その時は、誰もいなかったらしく、その時はA子さんは気の所為かと思いそのまま歩いて自宅に帰ったらしい。】


ふむ、まあ有りがちな出だしだけれど、読んでみたくなるような物だ。眼を働かせて文章を読み続ける。


【すると、その次の日からクローバーの葉が、何時も自宅のポストに置かれてる。おかしいと思い捨てても、捨てても、次の日には新しいクローバーがある。】


「あっ、これ私分かったよ!!!」


紗代ちゃんが微笑んで指を鳴らすと、「これ、クローバーの花言葉でしょ。」と続けた。美琴ちゃんを含め、皆が良く分からない顔で紗代ちゃんのことを見る。紗代ちゃんはふふん、と満足気に頷くと、「クローバーの花言葉って何だか知ってる?」と皆に聞いた。


「えっ、ハッピー、みたいな感じじゃないの?」

「幸せとか幸福とかじゃない?」


「ぶっぶー、全部違いまぁす!」


クイズ番組であるような効果音を出すと、紗代ちゃんは答え合わせをしようと口を開きかけた。そこで、美琴ちゃんがハッとすると、「復讐!」と呟いて、紗代ちゃんの方を見た。紗代ちゃんがちぇっ、いう顔をすると「正解だよー。」と少し残念そうに言う。


...花言葉。


それだ、それだ、それだ!!!


花言葉、あの花達はきっと花言葉を表している。だとしたら、きっと犯人が誰だか分かるはず!


「紗代ちゃん、黒百合と待雪草と月下香、花言葉なんだっけ?」

「...はえ?え、あ、ちょっと待って。んーっと。」


紗代ちゃんは花言葉に詳しかったりする。全て、きっと分かるはずだ。


「あ、黒百合が呪い、待雪草があなたの死を望みますで、月下香が危険な快楽。大丈夫、そんな怖い花言葉ばっかり記憶して。」


そっくりそのまま紗代ちゃんに返したいが、今はそんなこと言う余裕などない。これは、あの吸血君にも言わなければ。


早く、放課後になって欲しい。


***


「つまり、花言葉が関係している、ということ?」

「そうなの、全部怖い花言葉ばっかりなのよ!!」


放課後の教室内で、奈々は吸血君に向かって叫んだ。息を吐くと、「どう、これで何か分からない?」と聞く。


「うーん、だとしても何も分からないなあ...。花の頭文字って何だった?」

「く、ま、げ、よ。特に意味もなかったはず。」


「...く、ま、げ?」


吸血君が何かを考えているかのように、口に手を添えて一瞬黙った。それから、ハッとすると「く、ま、げ、って熊啄木鳥百合香(くまげらゆりか)!!!」と叫ぶ。何かが繋がったのか、息を切らしながら「分かった、分かったよ。」と彼は言った。


「何が分かったのよ?誰、その人?」

「熊啄木鳥百合香は最初の被害者だよ。この奇麗華連続失血死事件の、最初の被害者。」


「...ってことは、犯人は...。」


熊啄木鳥百合香の名前を、完成させようとしている?最初の被害者である彼女に、何か思うことがあって、これをしている?吸血君が興奮しながら、更に続ける。


「しかも、次の被害者の名前は前中沙湖、3回目の被害者は鯨岡愛美なんだ。繋げたら、これもく、ま、げ。」

「じゃあ、次の被害者は...。」


「「苗字が、ら、から始まる人!!!」」


嬉しさのあまり、ハイタッチを思わずしてしまった奈々は、それに気付くと慌てて態とらしい咳をして誤魔化すと、「でも、どうすんのよ。」と苦し紛れに彼に聞いた。彼が、首を傾げて「何を?」と聞く。


「だって、苗字が、ら、から始まる人だなんて、少ないじゃない。この町では聞いたこともないし。」

「...蘭定(らんじょう)先輩は?剣道部エースの。」


「...あ。」


いた。うちの学校の剣道部エース、凛々しい蘭定先輩が。あれ、待って、そしたら...。


「ねえ、この事件って、大体周期は1週間に一回だよね。」


ってことは、もう今週で前の事件から2週間経っているから...。


「蘭定先輩、危ないんじゃ...。」


吸血君は、行動に移すのが速い。走って剣道部が練習している体育館の方に向かった彼の背中を見て、奈々は急がないと、と足を動かしながら彼についていった。


***


「蘭定先輩は帰った?」

「ええ、そうよ、舞はもう帰って行ったわ。何か、予定があったらしいし。」


同じく剣道部の先輩が、汗を拭きながらそう言う。息を吐くと、「でも、大丈夫かしらね。」とそっと彼女が呟いた。


「え、何でですか?」

「あ、えっと、変な意味じゃなんだけど、先週から部室に彼女宛に花が届いてるの。誰か知らないけれど、ストーカーかもしれないじゃない?舞、今日被害届を出しに行こうとしているのよ。」


やっぱり、彼女は狙われている。吸血君と奈々は顔を見合わせ頷くと、急いで学校を出て警察がいる建物へと道のりに注意しながら向かった。


冒頭でもあったように、言動って恐ろしい、とも思う。この吸血君めやりやがったな、とも思う。でも、一番強く思うことは。



もう被害者を出さないようにしなければ。

中途半端なところで終わってごめんなさい...。

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