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昨日の雨は、夜遅くまで降り続けていたが、今朝は、すっかり雲一つない、快晴の空模様だった。

全てのカーテンを勢いよく開けると、和俊は大きく深呼吸した。

そして、一息つくと、キッチンに行き、朝食を作ると、リビングに戻り、座布団の上にドシっと座る。

テレビをつけると、ニュースがやっていた。

経済界が不況の一途をたどるなど、全く日頃見ているのと同じ内容ばかりだった。

「全く…耳にタコだ」

と思いながら、苺ジャムが薄く塗られた食パンにガブリとかじりついた。

全て片付いたあとに、ちょうど番組はニュースから天気予報に変わっていた。

今日は1日中晴れ、降水確率0パーセント。

思った通りだった。

そして、時計を確認すると長針の針は8の数字を指していた。

今日は講義はなし。

せっかくの1日だ。

何もせず、ただこうやってボーッとしているのも何かともったいない。


「ピンポーン」


考えていた矢先だった。

インターホンの鳴る音が聞こえた。

ドアを開けると、そこには、半袖のカッターシャツに薄手のスラックスをはいた、長身で少し細身だが、かなり筋肉質な男が立っていた。

「よぉ、和俊。今日暇か?」

「あぁ、喜一か。うん。今日は講義がないんだ。ちょうど今、どうしようかなぁって悩んでたとこだ」

「そうか。なら…喫茶店にでもいかないか?」

「いいな。是非そうさせてもらうよ。ところで、その小さい鞄の中に入ってるのって…」

「…そうさ。例の代物だ」

喜一は、ニコニコしながら答えた。

和俊は、その意味を理解していたので、あえて詳しくは聞かなかった。

支度を整えたあとに、喜一とともに、喫茶店へと向かった。

歩きながら和俊は喜一に話しかけた。

「喜一は、今日は…」

「あぁ、今日は休暇を貰ったんだ。親父が…さ、『お前、最近働き過ぎだから、少し息抜きしろ』って言ってさ、三日間の休暇をくれたんだよ」

「へぇ。いい親父さんじゃないか」

「全く…、俺がいないと辛いのは分かってるくせに、意地だけは張りたがる…。困った男なんだよ、ホントに」

「お前の身体のことを心配してくれてるんだよ。察してやれよ、そこはさ」

「馬鹿。俺は…まだ若い。でも親父は…もう歳だ。逆に俺が心配するんだよ。俺に察してほしいぐらいなんだよ」

そう言って喜一は、頭をかいた。

相変わらず仲の良い親子だなと思いながら、和俊は微笑んだ。

そうして、いつの間にか喫茶店『風の里』にやってきた。

ここは、昔、喜一と修造と一緒に学校帰りに寄り道した思い出の場所でもあった。

中に入ると、早速、心地のよい冷風が二人を出迎えた。

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」

「えーっと…、アイスコーヒーで。和俊は?」

「あっ、じゃあ俺もソレで」

「アイスコーヒーを二つですね。かしこまりました」

涼しい正装姿の青年は注文を聞くと、さっそうと二つのアイスコーヒーを運んできた。

「ごゆっくりどうぞ…」

トレイを両手に持ち、喜一は座る場所を確保する。

まだ、この店は開店したところなのか、あまり他の客は見られなかった。

「なぁ、上に行かないか?ほら、あそこなら風通しもいいし」

「そうだな、行くか」

喜一の意見に和俊も賛成し、二階に上がった。

フロアの様子は一階とあまり変わらないが、この階にはバルコニーがあった。

そこは、ちょうど日陰になっていて、今の季節でも十分に涼しいのである。

「ここにするか」

「そうだな。涼しいし人もいないし、それに…」

「これをするには絶好の場所ってとこだよな」

そう言うと、喜一は鞄の中から小さなチェス版を取り出した。

そして、白黒の駒を所定の位置にセットし、ゲームスタート。

「こうやって、お前とチェスをするのも久しぶりだ、な」

「そうだ、な」

和俊は白の駒を、喜一は黒の駒をそれぞれ動かし始める。

「…もう喧嘩を打ってくるか、喜一」

「ナイトは扱いやすいからな。早めに手を打っておくに限るさ」

「そうか、俺はビショップだな」

そして、お互い同等に駒の数が徐々に減っていく。

「ルークとナイトが一つに、クイーン、キング…あとはポーンが二個か」

「和俊は…クイーン、キング、ビショップが二個、ポーンが一個か。今のところ俺が立場的に有利だな」

「まだ分からないさ。お前のクイーンを先に潰せば、立場逆転だ」

「チェスはここからが面白いんだよな」

そう言って喜一は、アイスコーヒーを一口飲んだ。

和俊も気合いを入れる。

「ところで今日は、こうやってチェスをしにきただけか?喜一」

「ん?」

クイーンを動かそうとしていた喜一の手がピタリと止まった。

「お前のことだ。他に何か別の話があるんじゃないかと思ってさ」

喜一は、クイーンを元の位置に戻し、小さくため息をついた。

「…お前は相変わらず鋭いな。あぁ、ちょっと気になったことがあってな」

「気になったこと?」

「うん…志間高校のことなんだが」

「志間高校?俺たちが通ってたとこじゃないか」

「あぁ。お前、その学園に古くから伝わる…『白い翼伝説』っていうのを聞いたことはないか?」

「白い翼?何だよ、それ?さぁ…聞いたことないなぁ」

「そうか…」

「ちょ、何なんだよ?その…何か幸せを運んできそうな名の伝説ってやつは?」

「いや…むしろ逆だ」

「逆?」

「それは受け取った者を不幸にする代物だ」

「不幸にさせる?」

「あぁ、知らない間に下駄箱や、机の中などに入っていて、送り主は不明。そして『白い翼』を手にした者には必ず喜ばしくないことが起きる…俺が知ってるのは、それぐらいだ」

「へぇー、そんな都市伝説みたいな噂があったのか…で、それがどうしたんだよ?」

「実際起こっているらしいぞ、今」

「えっ…」

「この前、店に来ていた後輩連中が口々に話しているのを聞いたんだよ。それが、気になってな…」

「まぁ…でも所詮、それは誰かのイタズラにすぎないだろ?考えるほどじゃないって」

そう言うと和俊は、クイーンを手に取り、動かした。

そのクイーンは、喜一のキングをチェックしていた。

「チェック。逃げ場はないから・・・ェックメイトだな」

「くそっ、お前はこうやって話をしていても頭はフルに回転しているんだな」

「何事もココが肝心さ。その噂も、考え方しだいでは捉え方も変わってくるもんだよ」

和俊は人差し指を頭部に軽く突っつきながら話した。

「まぁ…そうかもしれないけどな」

喜一は、残りあとわずかとなった、アイスコーヒーをストローでグルグルかき回しながら言った。

そのあと、喜一はまだ朝食を済ませていないと言って、ミックスサンドを追加注文した。

喜一は口を動かしながらも昔の話をした。

そういえばそんなこともあったのだと思いつつ、和俊も自然と笑みを浮かべる。

喜一とは正午近くに別れ、和俊は今日も修造のお見舞いに行くことにした。

そして、いつものルートで公園へとやってきた。

鈴の音は聞こえてこなかった。

予定では次の作品も「無」シリーズで書くつもりです。

この回の話は,その第2作品の内容をごくわずかですが,取り込んでいます。

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