序章
――どうして……
どうしてこんなことになったのか。
私が望んだ願いは、こんなことじゃない。
こんなことになるために望んだんじゃない。
でも
これは――――
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日本生まれ、日本育ち
柊木 水月は今年大学に入学をした。
本当は進学をしなくてもよかったが、今までと違い一人で生きていくための道を沢山知りたかったから進学した。
その理由は、現代社会としてはあり得ないことなのだが、私の髪と瞳の色は、まるで今流行っている漫画やゲームのような色彩をしていた。
幼いころはその異常さなど気にもしなかったが、両親や周囲の人々はそうではなかったようだ。
髪を染めさせ、瞳の色を病気の所為として自分たちの世間体を守っていた。
私は両親の思いも知らずに一度だけ他人に見せてしまった。
一番仲良くしてくれた子の顔は忘れることができない。
その子にも私にも心に傷を植え付ける出来事だといえるだろう。
人間は同じでないものに対して、異物として、受け入れられないものとして淘汰しようとする。
そこから私はひとりになるようにした。
もう誰も、私自身も傷つけたくない――
けど……
「水月!はやいな」
「ケイ君!」
後ろから声をかけられ振り向くとケイ君がいた。
けいは幼いころより家族ぐるみでお付き合いのある幼馴染だ。
少し明るめの茶髪と瞳、日本人としては少し明るめの色、人懐っこそうな笑顔は昔から変わらない。
私と親しくしてくれる唯一の人だ。
「どうした?人の顔そんなに見て」
「あ、ううん、ちょっとぼーっとしてた」
ふるふるとかぶりを振るう
「もうすぐ夏休みだな
……家には帰るのか?」
「……お祭りには行くつもり」
視線が無意識に下にいく。視界には地面と長い自身の前髪。
ふと昔を思い出す。
今は一人暮らしをしているが、昔のように実家にいたころよりは息苦しさを感じない。
私の実家は神社にある。
世間体を気にする両親は私のことを隠したかったのだろう。
だが周囲の人間は異質な存在には敏感だ。
そんな両親は私を認識しないようにした。
親子というよりは、そこにあるだけのものとして。
だが、噂というのは本人たちが望まなくとも広まるものだ。
"あの親子は血が繋がってないらしい"
どうやら赤ん坊のころに拾ったらしい、とまで言われてるようだ。
そんな噂がでるのも致し方ない。
子供がこんな、異質であればなおの事。
(我が事ながら両親には同情する)
そんなことを、心の中でぽつりと落とす。
両親と言ってかはわからないが、とさらに暗く思考が沈む。
「なあ」
「な、に?」
ケイ君の声のトーンが低くなる。
彼にしては珍しい、いつもの明るい調子ではなく、低く響くような声に戸惑い少し身を固くする。
「どうしたの――」
警戒しつつ彼を見やる。
その彼の顔を見てゾクリとした感覚が背筋を駆け巡る。
いつもの表情なのに彼の瞳が先ほどとは違う表情をしていた。
「ケイくん?」
訝しむように警戒したまま声を続ける。
彼は笑っているはずなのに、その瞳は色は変わっていないのに、闇のように濁っているように感じた。
彼は唇を開いた。
「――――」
え、なんて――
そう言葉にしようとしたが、叶わずぐらりと体の傾く。
そして瞬きもしない間に私の視界は暗闇一色になった。