6. 二人の共通点
「いっただっきまーす!」
味噌汁を一口飲んで、ほっと息をつく。
早くあの事を祐介に言いたくてたまらなかった。
「ねぇ、祐介!今日ね、会社ですごいこと知っちゃったの!」
目をキラキラさせて彼を見つめる。
「なになに、どうしたの?」
微笑む彼に私は声を弾ませて答えた。
「部長いるでしょ?」
「うん。」
「なんとなんと!部長も祐介と一緒で、珈琲が大好きなんだって!」
自分のことのように自慢げに話す。
すると、彼は笑ってこう言った。
「あははっ、え、本当?それは嬉しいなぁ。」
「なんで笑ってんの?」
「いや、ビックニュースとか言うから、もっと違うことだと思ったよ。」
「なに、違うことって。」
「うーん、企画が通りそうだ、とか?」
「へ?い、今なんて?」
「え?あぁ、企画が通るのかと思ったって言ったんだ。」
ガタンッと椅子から立ち上がった。
「企画書!!」
「おぉ……びっくりした。…大丈夫?」
びっくりして欲しかったのはここじゃない。
もうちょい前のくだりだったんだけど…!
「だ、大丈夫じゃない。」
「……ご飯冷めちゃうよ?一緒に食べよう。ほら、腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」
「……」
分かってる。彼なりのフォローだって。分かってる。
私は静かに椅子に座り直した。
しばらく、なんの会話もなくご飯を食べていると祐介が口を開く。
「咲希、今日のご飯は美味しい?」
「うん。」
企画書という言葉で頭の中がいっぱいだった。村山部長の一件で大して進んでない企画書を思い出した。
何やってるんだろう、私。
「そっか。明日は何を食べたい?」
「なんでもいいよ。」
適当に返事をした。
「なんでもいいだなんて、一番困るなぁ。」
祐介は、あははと力なく笑った。
「祐介の食べたいものでいい。」
「なんか、冷たくないか?」
「そう?」
目を合わせた。祐介が少し困った顔をしていて驚いた。
「なに?どうしたの?」
私の目を見つめたまま言ったその言葉に私はドキッとした。
「咲希、無理してないか?」
「……。」
「仕事の事だから、僕には下手なこと言えないし、僕自身、仕事の事は助けてあげられないけど、辛かったりしたらそのー、なんて言うんだ?あのー、あれだ、癒してあげたり?とかは出来ると思うから。」
昨日といい、今日といいこの人は私を何回泣かせれば気が済むんだろう。
鼻がわさびを食べた時みたいにツンとした。まばたきをして涙を視界から追いやる。
「ご心配どーも。」
「こんな時まで強がってどうすんだよ。僕に出来ることならなんでもするから。」
「…じゃあ」
と言いかけて口を噤んだ。
「いや、なんでもない。大丈夫、ありがとう。」
「なんだよー!もー、今良い雰囲気だったじゃん!甘やかすなら今しかないって思ったから、こっちから仕掛けたのにー!」
感謝したのに、そんなことを言われると思わなかった。
「その気持ちが嬉しいから。」
「こういう時は子供っぽくないのな。大人きどりやがって。」
そう、ニヤついて言われた。
「子供っぽくなくて悪かったわね。」
「ほんとに。でも、辛かったら言うんだよ?」
「…分かったわよ。ご馳走様でした。」
「僕もご馳走様。咲希、ひと休みしたらお風呂入りな。お風呂沸かしてあるから。」
「言われなくてもちゃんと入るよ!」
「あ、咲希っぽい。」
指を指してくすくす笑った。
「なによ!またそうやって!」
頬を膨らませると風船に針を突き刺すように祐介が指でつんつんしてきた。
「ふふっ、いつもの感じに戻った。よかった。」
その後、頭を撫でてきて照れたから顔を上げられなかったのは言わないことにした。
お風呂の中でひとつの決意を固め、のぼせる前にあがった。
昨日とは違い、ちゃんと髪の毛を乾かしてから昨日と同じように、食後の珈琲を満喫している祐介の元へと歩みを進めた。