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珈琲  作者: 小池りん
1/6

1. 私の企画は通らない

「駄目だ。やり直し。」

私が何時間もかけて考えた新商品の案が書かれた書類は、ものの数分で突き返された。


「なっ!なんでですか!?」

私はついカッとなって、上司の机に身を乗り出す。


「なんででもだ。……はぁ。」

呆れ顔でため息をつく上司を見て、ため息をつきたいのはこっちの方だ!と思った。


上司が珈琲を一口飲んで続ける。

「……君には期待してるんだがな。」

そう言いながら、席を立つ。

すれ違いざまに肩をぽんぽんとされた。



***



その後、仲のいい同僚の由美(ゆみ)とパスタが美味しいと有名な喫茶店にランチを食べに行った。


「……そんなことがあったのね。」

私は由美に上司とのことを洗いざらい話した。


「そうなの!本当ムカつくっ!あの……ジジイ。」

そう言ってパスタで口の中をいっぱいにする。


「あははははっ!咲希(さき)それは言い過ぎだよ!本当面白いなぁ。咲希は。

あとさ、せっかく美味しいパスタ食べに来てるんだから、味わって食べたら?」


「……もう、こっちは本気でムカついてるんだからね?

……まぁでも、味わって食べるのは確かにそうだけど。」


「でしょ?」


「だけど……、美味しいご飯も不味くなる、とはこの事だってつくづく思うよ。」


「そんなにムカついてるのね。

……あ、すみません。食後に珈琲一つお願いします。」

由美は通りかかった店員に注文をした。


とっさに私も

「私も珈琲お願いします。」

と言った。

店員が、かしこまりましたと言い、私たちから離れる。


由美が不思議そうな顔を浮かべて言う。

「あれ?咲希、珈琲飲めないんじゃなかった?」


「……まぁね。」

苦笑いをして答える。


「?……じゃあなんで?」


「だって……、上司に子ども扱いされてるみたいで、胸くそ悪いんだもん。私だって、大人だから珈琲くらい飲めるわよ。」

眉間にしわを寄せて言う。


「大人って言ったって、咲希まだ21でしょ?」


「21なんて立派な大人じゃない。」


「そうだけど……、そんな珈琲にこだわる理由が分からないわ。」


「だって、大人って格好良く珈琲飲んでるイメージなんだもの。」


「別に飲めない大人だっているでしょ?」


「そうなんだけど……ね。」

だけど、私にはもうひとつ珈琲にこだわる理由があった。


パスタを食べ終え、2人の前に珈琲が運ばれてくる。

「お待たせいたしました。当店自慢の珈琲です。」

バリスタが爽やかに微笑んで机に置いてくれた。


「ありがとう。」

そう言って、珈琲を見つめる。

ふわっと香るその匂いは、学生時代の職員室を思い出す。

あの頃は全部上手くいってたのになぁ……。

そんな懐かしい気持ちに浸っていると由美が呟いた。


「あ……。ここの珈琲すごく美味しい……」

珈琲の香りも味も余韻も堪能したその顔は、私には羨ましく見えた。


ふぅーん……。この珈琲美味しいんだ……。

私も一口飲んでみる。

「うぇ……、苦い!」

やっぱり私には早かったみたいで、少し悔しかった。


「嘘?この珈琲すごく美味しいよ。いつか、この美味しさが分かるといいね。

……あ。咲希の分も飲んじゃっていい?」


「どうぞどうぞ。遠慮なく。」

これのどこが美味しいんだか。と思った。



***



ランチを終えて会社に戻った私は、お昼休憩の余った時間でまた新商品の企画書を考え直した。


お昼休憩が終わる数分前、一件の通知が入る。

画面を見ると、祐介(ゆうすけ)からだった。


祐介というのは、私の彼氏でお互い同じ短大に通っていた。

その時から付き合っていて、喧嘩なんてしたことがないくらい仲がいい。

今では、同居生活を送っているくらいだ。


”今日食べたいものある?”ときたので、ハンバーグと返した。

彼はいつも私より先に帰るので夜ご飯を作って待っていてくれる。

本当に、心底感謝している。


それから、6時間ほど仕事をして家に帰った。


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