「これはどこから持ってきたんだ?」
「これはどこから持ってきたんだ?」
「私が転生した時に、あの神が持たせてくれたのよ。これがあればあんたを見つけられるって」
「そうか」
何やら不満そうだ。
「どうしたの?」
「いや、俺の人生楽しかったのにってな」
「はぁ?」
「売れてなかったけど、芸人としてそこそこ頑張ってたんだよ、おれ」
「売れてなかったんじゃん」
「ああ、俺もつまらないと感じていた。だが、記憶を取り戻した今、俺の今までの人生は輝いていた。やりたいことが、目標があって、一秒一秒何かを葛藤している時間がどれほど輝いているか・・・・。俺はもう、戦いたくない。折角の命だ。記憶を取り戻したくなかった」
「なによ!せっかく私が一生懸命探して!記憶を取り戻してやったのに!恩返しどころか迷惑だったの!」
「ああ。こうなった以上、戦わなければ俺の心情に反する。お前のせいだ」
「っ!もういいわ!」
凜が走っていく。
「はぁ。取り合えず、MTHだったか・・・・あれに入ったほうが効率的にこれらを倒せそうだ。確か・・・・・永田町にあるんだったな」
おれはそこに向かうことにした。
一度家に帰る。
スマートフォンを開き、lineから、先輩に電話を掛ける。
「なんや?こんな遅い時間にどうしたん?」
「いや、先輩、あの・・・」
「ん?どうした、なんかあったん?」
俺の今までの記憶が俺の一言を妨げていた。記憶を取り戻し、人格が変わったとて、今まで頑張ってきたのはこの体の俺だ。
「あの・・・僕・・・やっぱりいいです」
「なんやねん。はっきりしいや?」
「いや、いいんです。やっぱり」
俺は電話を切った。
「あの女のせいで・・・・・いや、俺が生き返らせたとき、俺を探すことを認めたんだったか・・・・、八つ当たりだったな」
苦悩することさえ、無駄な400年間と比べれば楽しかった。
風呂なしアパートで一人、彼女もいないこの生活を捨てることにこんな感情を抱くなんて、昨日の俺はどう思うだろうか?
喜ぶだろうな。
そうして、大切なものを一つ一つ失っていく。
俺は一気に失ったわけだが・・・・・、
気が付くと朝になっていた。
第四話「MTS(未確認生物対策捜査部)」
親が殺された。
だから復讐のためにとここまで走ってきた。
こんなこと、誰も望んではいないだろう。
親も・・・友達も・・・元恋人も。
ならば、すべてを捨ててここにきて、私に何のメリットがあったのだろう?
人は時に、何の利益にもならないことに盲目的に取り組んでしまうことがあるらしい。
そうだよね、わたし。
「結子さん? 結子さん!」
「あ、」
「どうしたんですか?ぼーっとして?」
「そうね。ごめんごめん」
「今日は面接の日ですよ。たくさんの奴が会場に集まってますが、どうせ誰も能力者はいないと思いますがね」
「どうかな。私たちみたいにこういう力を図らずも持ってしまったものは・・・何処かで栓を抜いて、いろいろ吐き出さないと、壊れちゃいそうになるものだから」
「なるほどねぇ。僕はそうでもないですけど。じゃあ、行きますね」
「わかった。よろしくね」
笑顔で受け答えをするのが、一つのルールとなっているこの世界。女は特に。そうでなければ不愛想といわれるのだから仕方がない。
本当の笑顔ができなくなったガラスに映ったそれを私は見ていた。