失うことなんて怖くはない。僕の人生なんてありふれたものだ・・・・
失うことなんて怖くはない。僕の人生なんてありふれたものだ・・・・なんて感受性に優れていると思われたくて言ってみるけど、みんな思っていることなのかもしれない。
第5話「目覚めた力」
「マキリのばかぁ、どこに居んのよ!」
私は汗だくになって、スーツを汚しながらマキリを探すために夜の渋谷の街を走っていた。ダークで温かい気持ちが悪いような、気持ちがいいような雰囲気が私を醜くする。
アイツが近くにいればわかるはずなのに、なのに一つもわからない。
渋谷の風が私を穢す。生まれてきたときは綺麗だった私の体、愛くるしい目やぷにぷにの体はどうしてこんなになってしまうのだろう。
電車の中で、町で、家で、私は視線に穢されている。
私の服は汗でひんやりと張り付いて、通りかかる男たちが視線を向けた。
「男に生まれたかったな」
私はどうしても見つからないことにいら立ち、渋谷の中でもメジャーではない場所に足を向けた。
大きな町も一皮むければこんなものだ。
汚れた建物に見つめられながら、私は彼を探った。
「gggggg?」
異様な音に振り向くと後ろには私のことを穢れた視線で見つめる男が立っていた。
私の乱れたシャツから覗く鎖骨を大きく開いた眼で見つめている。
「きもち・・わる」
私は逃げることにした。
「GGGGGGG」
ついてくる・・・・。
早歩き、早歩き、早歩き、早歩き
「GGGgggggggGGGgggggg」
右、左、右、左、み、ひ、み、ひ、・・・・
ggGGggGGgGgGgGgGgGgG
ヒールで走りなれていない私は何かに足を取られて転んだ。
「いっ・・・・・え?」
気が付いていなかった。 私を負ってたのはあの気味が悪い男ではなかった。
数年前に見た怪物・・・・醜悪な鬼だった。
「ひっ・・・・・・・」
「GG?ggggggggggg」
鬼が私が逃げないことに喜びを表現している。
「いやあ、ま、マキリ!!!!!!」
来るはずがない。
鬼の手が私の頭に触れた。
その時だった。
カバンが突然上に飛び、鬼の顎を強打した。
突然で驚いてひるんだのであろう鬼がこちらをにらむ。
かばんはそのまま飛び、ちょうど角を曲がってきた男の足元に落ちた。
「え?」
「マキリ?」
「GGGGGGGGOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
鬼が起こったようにカバンに向けて走り出す。
「に、逃げて!」
記憶の戻っていないはずのマキリが戦えるはずがない。
そう思っていた。
鬼の拳が男に迫る。
ちょうどその時だ。
カバンから刀が飛び出て、男の腕に握られたのは・・。
ぎゅっと目をつぶり、体を縮ませていた男から緊張が消え、髪に隠れたその表情は何処か笑っているように見えた。
「マキリ!」
ぼと・・・・
鬼の体はゆっくりと倒れた。
マキリが笑って、刀をなめた。
「マ…マキリ?」
「おう」
私の運命のお仕事は終わった。
ここから新たな人生が始まると思っていた。
しかし、因果を断ち切るのは簡単ではなかったと私はのちに語ったのだ。