渋谷ごと魔界に転移???」
「渋谷ごと魔界に転移???」
「ああ。恐らく・・・。ここは魔界だからな。どこから何処までが転移したかは知らん。調べてみようか?」
「う、うん。とりあえず、新宿方面に向かってみよう?」
「そういえば、お前、名前は?」
「佐々木凜」
「佐々木さんか」
「さんとかつけないでよ。助けてもらったし」
「いや、初対面の女の子を呼び捨てなんて」
「童貞か!いいよ、凜って呼んで?」
「う・・・・わかった」
「それでよし」
私と奇妙な男は歩き始めた。
「あなたはどこから来たの?」
「どこから・・・・ずっと、あっちの崖にいた」
「崖?渋谷の?」
「いや、魔界だ」
「え?・・・・君魔界にずっといたの?」
「ああ。昔、神に転生しろと言われて、転生した。死んだら戻してやると言われたが、時空転生という、俺のスキルの効力で死ぬことができなかった」
「それで戻れなくてずっと、魔界にいたの?」
「ああ。何年か…正確にはわからないが安土・桃山時代と言われた気がする」
「って、ことは400年も?????」
「ああ。高校生だったから・・・俺は今年で約418歳ということになるだろう。まぁ、肉体は20代くらいだが」
奇妙な男の魔界記を聞きながら歩いているとたまに異形の怪物が見えた。
しかし、怪物が襲ってきても隣の男が刀できれいに首をはねてしまったので、もう、驚きもしなくなっていた。ただ、嫌悪感はいまだにあったが。
隣の男も刺青のような赤い線が、体中に入っている。どう見ても高校生の見た目じゃない。刺青OKの高校だったのか。着物の隙間から見える体にもいくらも線が入っている。
「もうすぐ、原宿え・・・き」
化け物との戦闘を避けるために建物の陰に隠れながら来たので気が付かなかったが、そこにあるはずだった原宿は消え、その先は砂漠と化していた。
「やはり、渋谷だけがきれいに切り取られているな」
「そんな・・・・・どうして?」
「恐らく、次元穴だろう。魔界には人や物が落ちてくることがたまにある。俺は次元穴と呼んでいるが、それの範囲が大きかった、そういうことではないのか?」
「知らないわよ。もう・・・・・どうすれば」
「いいんだろうな。とりあえず、生きているものを探すか?」
「え?うん。取り合えず・・・ね」
こうして男と私は町を散策し始めた。
しかし、探せど探せど見つかるのは魔物ばかり。
どうしても人間は見つからなかった。
「こうなったら、あれしかないな」
「あれ?」
「君は帰りたいんだろう?俺が返してやる」
「え?」
「任せろ」
男は刀を抜く。
「え?なにを・・・・」
男は刀を天に向かって振りぬいた。
「ぬん」
紅い光が点に突き刺さり、大きな割れ目を作り上げる。
「このまま飛べば神に会える。転生させてもらえ」
「か、神?転生?」
「ああ。いつか文句を言ってやろうと思って魔力をためていたんだ。これでいけるはずだ」
「ど、どうすればいいの?」
「飛ぶ」
マキリが私の腰をつかむ。
「え?」
「しっかりつかまっていろ」
ぐっとマキリは膝を曲げた。
私は急いで首に手を回し、ぎゅっと握った。
「ふっ!!!」
声にならないくらいの呼吸とともにマキリは地を蹴った。
不思議にも風は全然なかった。
大地と私の周りにはなにか、膜のようなものができていて、それが守ってくれているのだと思う。
こうして私と大地は神に会うために渋谷を離れたのだ。