子から見た親父の考察
俺の名前は神森 貴也市立中学に通う三年生だ。
父は小説家、母は専業主婦。三歳年下に妹がいる。
高校進学の為、いわゆる受験生だ。
俺はこの受験シーズンを何事もなく過ごしたいと思っている。
天災も嫌だしそれ以上に人災はこうむりたくない。
皆だってそう思うだろ。
受験生にファンタジーはいらないと思うんだ。
何も漫画やラノベ、ゲームやアニメが駄目だとか思っていない。何だかんだといいつつ親父の小説を読んでいたりもする。
俺の親父は売れっ子のファンタジー小説家なので、家にファンタジー小説はたっぷりある。
なぜ、そんな俺がファンタジー物をいらないかと言うと、親父に反発しているとかではない。そんな感情はもうとっくに過ぎている。
確かに親父は小説家で細身だが、その細身は余分な肉のない筋肉の塊で、平成の世なのに剣術がべらぼうに強い。
はっきり言ってチートの塊である。
顔もやや中性的なイケメンだ。
母とも仲が良く。否、未だに新婚気分だ。リア充爆発しろ。
まぁ、なんだ。家族仲は良好だ。最近悩みは妹が第二次反抗期に入った事だろうか。
俺の顔がどちらかというと母親似で、中性的な女顔である事に恨みを覚えた事はあったが。
結局何が言いたいかというと、俺はトリッパーである。
は? 何言っているか分からないって。俺も分からない方が良かったぜ。
分かりやすく日本語で漢字を交えて話すと『転移体質』といった所か。
超能力でテレポートでも使えるかって? やろうと思えば使えるぜ。
何でそんな物が使えるかというと。
小学校低学年でメルヘン世界に転移。
小学校高学年で勇者召喚。
中学一年で幕末にタイムトリップ。
中学二年で超能力社会とこんにちは。
既に三回も転移して、社会の裏側を知ってしまった俺としては、受験シーズンにファンタジーはいらないと言いたくなるだろう。
現代社会だけでもファンタジーはいっぱいあるんだぜ。
それで、俺は思う訳だ。
親父が怪しいと。
別に親父が俺を転移させているとかは思ってないぜ。
じゃあ何が怪しいか、というと。親父もトリッパーなのではないかという事だ。
俺がメルヘン世界に行ってしまった小学校低学年の時も、勇者召喚されて数年過ごし召喚された時に戻った時も、幕末で暴れて戻った時も、帰って来て最初に会ったのは親父だった。
メルヘン世界に行った後の時は、久しぶりに会った親父に抱きついてしまった。勇者召喚されて帰って来た時は、俺も反発した。幕末にタイムスリップして帰って来た時は、反発するのが馬鹿らしくなって一緒に帰った。
帰って来て最初に会うのが親父だったからって、疑い過ぎじゃないかって。
それは勇者召喚された時の世界観そっくりの小説を親父が出していたからだ。
国の名前の中で同じものがあったり、伝承が一緒だったりするのだ。
それで親父の設定集を読ませてもらったんだ。
出て来るわ、出て来るわ。符号の一致が。
ただ、時代背景は違ったようだが。
これだけ証拠が揃っているんだったら直接聞いてみたら良いだろうって?
俺だって聞いてみたさ、うやむやにされたがな。
なんだよ、その内分かるって。
いや、ノーっていってないんだからイエスって事だよな。
そうやって親父に対する考察をしていると、背筋に寒気が走った。
俺は鞄を持ち直し一気に前に駈け出した。
後ろを振り返ってみると、大きな魔法陣が輝いていた。
術式を観察すると召喚系の術式だった。
だが、前回の勇者召喚の術式とは違っていた。
隷属性魔法の術式は組み込まれていないから安全そうではあるが、見知らぬ術式もある。
そう俺が考えていると魔法陣がひと際輝き、光の龍を作り俺に迫って来た。
「来るな! 今、ファンタジーはいらねーよ!」
猛ダッシュで駈け出す俺の後を光の龍が追いかけて来る。
あれは触っては駄目な奴だ。
触ったら転移させられる。
俺は駆けに駆け、ひと山抜けた所で光の龍は分裂し、俺に襲いかかって来る。
「げっ、しつけー!」
一時間ほど全力疾走で攻防した後、数多の龍は更に分裂し網の様に俺に覆い被さって来た。
「しまった……」
「おお、勇者様方良くぞ召喚に応じてくれた」
応じてねーよ!
結局召喚された俺は、内心で毒づいた。
勇者様方って事は他にも勇者がいるのか?
そう思って気配のある後ろを仰ぐと。
そこに立っていたのは高校生位の青年。
顔立ちはやや中性的でイケメン。若かりし頃のお・や・じである。
やっぱりお前もトリッパーか親父!
お読みいただきありがとうございます。
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お風呂に入っていたら思いつきました。