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第2審 双子書記官のある日の朝食

 男にしては長い緑の髪を揺らし、司命は台所へと向かった。司命は職業名であるが、同時に彼の名前でもある。そんな彼には双子の弟があり、名を司録という。司録も同じく、職業名であり、彼の名前である。


「弟よ、朝ごはんはいつものマヨネーズご飯でいいかな?」

「そんなの食べたことないよ? ボクがデブみたいじゃんやめてよ~」


 ふざけたことを言いつつ、司命は食パンを手に取った。米ですらない。そして卵とバター、薄いチーズ、そしてマヨネーズを冷蔵庫から取り出し、まな板の横に置いた。フライパンをコンロの上におき、ボッと炎のでる音を聞く。ガス臭いのであわてて換気扇をつけた。


「兄さん、今日の朝ごはんなーに?」

「マヨネーズご飯っていったじゃん。もー駄目だな司録」

「えー本当? フライパンどこに使うの?」


 朝食は司命が、昼食は気づいたほうが、夕食は司録が作る決まりになっている。今日の夕食にマヨネーズご飯をだしてやろうか、等と考えつつ、司録は炬燵の上の鏡を見つめていた。勿論、兄の言葉にまともに反応したりはしない。疲れてしまう。

 一方司命も司命で、自分の軽口をすぐわすれて目玉焼きを作っていた。目玉焼きは片面焼き派である。バターを大きめに切ってとかして、卵を二つ割りいれ、ジュッっという音を聞きつつ蓋をあわてて探す。しばらくして見つけたらしくフライパンの上におき、白身だけが固まるのを待つ。

 固まったら目玉焼きをいったん皿に移し、フライパンにのこったバターをパンにかけた。普段目玉焼きには植物性の油を使うのだが、これを作るときだけは別だ。パンにはバターのほうが確実にあう。と司命は思っている。

 赤い星型の絞り口から、にゅるりと白いものが出てきて、油のしみこんだパンに落ちる。バターにマヨネーズと、今日の朝食は油ばかりだ。


「太っちゃうかなー司録」

「今日だけでしょ? 大丈夫大丈夫」


 その一言とにおいから何を作ってるのか察したらしい司録は、以前同じメニューを作ったときと一文字も違わぬ返事をした。何億年も一緒にいるのだから、口に出す言葉も足りなくなってくるものだ。

 女子よりも女子らしい二人はカロリーをかなり気にしている、が、これもダイエットに失敗する女子がごとく、結局は食べてしまうのだ。

 地獄も人間界もあまり変わらない。「太っちゃう~」と言いつつ高カロリーな物を食べる姿は、地獄であろうと人間界であろうと、はたまた天界であろうと異教徒の住む地であろうと見られる。

 種族的には二人も地獄に住んでいるだけの人間だ。しかし、あまり太らない体質であるうえに、二人の仕事も十王の書記官である以上激務であるから、太らないのだが。


 いつの間にか白い正方形ができていたので、司命はマヨネーズの蓋を閉じた。その中にハムとチーズを入れ、皿にのせておいた目玉焼きものせる。そして二つのパンをトースターに入れ、最初から設定されている3分という表示を気にせずにボタンを押した。どうせ焼けるから問題ない。


「しーろく、自分の顔ばっか見てないでトースターでも見ててよ~」

「トースターよりボクの顔のほうが美しいから無理~」


 司命と司録の顔は、流石双子であるだけあってかなり似ている。髪形も含め、ちょうど全てを左右反転させたような感じだ。だから司命としては、そんなに僕と同じ顔を見て楽しいか、と言いたくなるのだが、もうだいぶ前からこうなのでなれてしまい、指摘することをやめた。


「あーもういいよ、わかったから。おとなしく3分トースターの前にいますよ」


 そろそろいいかな、と思ったあたりで3分たったので、やっぱちょうどよかったなー、などと呟きつつパンを取り出す。じゅわじゅわと音を立てるマヨネーズ。目玉焼きの下でとろけているであろうチーズを思い浮かべ、ごくりと唾を飲んだ。


「できましたできました~、司録様特製トーストできました~」

「おおー」


 鏡をどけて、炬燵の上に二つの皿を置く。


「「いただきまーす」」


 異口同音、似通った声で食前の挨拶をして、かぶりついた。目玉焼きの黄身とチーズがとろけ、油のしみこんだ柔らかいパンと、他に比べれば少し硬いハムが混ざり合う。何度か食べているが、それなりにおいしい。しばし無言で食べ続ける。長く生きると話すこともなくなるのだ。


「ごちそうさま」


 司録よりも少しだけ食べるのが早い司命が、そそくさと食事を済ませた。皿を流しにもっていき、手を洗って歯を磨く。ハンガーにかけてある、司録と色違いの仕事着に着替えてまた司録のいる炬燵に戻ってきた。

 司録は司命よりも多く咀嚼をする。もぐもぐと口を動かす司録をぼーっと見つめて、一言声に出した。


「おいしい?」

「……」


 あれ、無視?

 少し落ち込みかけたところで、司録の喉仏が上下し、口が開かれた。


「おいしい」

「なんだ食べ終わってなかっただけか」


 不思議そうな顔をする司録に説明してやる。


「無視されたかと思っちゃったー」

「口の中にものいれたままはよくないよって、小さいころに教えてくれたの兄さんじゃない」

「何億年前の話? よく覚えてるね~」


 彼らの代わりとなる人物はいまだいない。よって彼らに寿命はない。殺しても死ねない。幼いころの記憶などすでに砂塵となってほとんど消えている。

 それでも自分が注意したことを覚えているとは、どれだけ恐ろしかったのか。そのころにはまだ親がいたのだろうか、全然覚えていない。ただ悪い気はせず、なんとなく面白かったのでくすりと笑った。


「ごちそうさま、兄さん」

「お粗末様」


 皿を流しに置いて、司録は戻ってきた。横にはけておいた鏡を、また自分の正面に戻す。


「また鏡見んのー?」


 司録はその様子を見て、呆れたように。


「まったく、本当に自分が好きだよね」

これも第1審と同じで、このキャラたちの性格をわかりやすくするため書いたもの。

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