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王女は死神となりて  作者: 由岐
第2章 花と海と二人の少女
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5.見抜く力

 今朝取れたばかりだという、新鮮な魚介を使った料理を食べ進める美少女二人とスライム一匹。

 なんとスライムは人間と同じ食事でも生活できるのだという。


「それでね、ライムちゃんはグリーンスライムっていう種類なの。まだこの子は幼体だけど、もっと成長すれば強力な風魔法が使えるようになるのよ!」


 テーブルの下に煮魚の皿が置かれ、それを黙々と口に運んでいくライム。

 ──スライムは魚も食べられるのね……

 ティエラも同じ煮魚を食べながら、延々と続くライムのスライム語りに耳を傾けていた。


「わたし、ずっと理想のスライムと旅するのが夢だったの。魔物討伐の依頼を受けて、そこで偶然出くわしたのがこの子よ! もうホント、絶世の美スライムよね……!」

「え、魔物討伐って……?」

「わたし、フリーの魔物ハンターみたいなことやってるのよ」


 とても魔物と戦えるようには見えない華奢なライラに、ティエラは驚いた。

 魔物ハンターという仕事を耳にしたことはあったが、実際にそれを生業にしている者に会うのは初めてだ。

 その主な仕事は、危険な魔物や大量発生した魔物の討伐や、その巣を見つけ出して対策を施したり破壊することなどだ。

 魔物ハンターの大多数は何人かでチームを組み、それぞれが得意とする魔物の専門知識などを生かし、助けを必要とする者から依頼を受ける。

 しかし、ライラのように魔物を使役して戦うソロハンターも少なからず存在していたのだ。


「そうか、だからライラはそんなにスライムのことが詳しかったのね」

「まあね! スライムについてなら、そんじょそこらのハンターなんかより遥かに詳しいわよっ!」


 無い胸を誇らしげに張るライラ。

 互いにそんなライラの寂しい胸元事情を気にすることなく、会話は続いていく。


「フリーということは、依頼さえあればどこにでも駆け付けるということなのかしら?」

「そうよ。レデュエータ王国だけじゃなく、ヤマト大陸の方からの依頼だって受けるんだから! スライム系の専門家として、わたしの手を必要としている人がいるならどこにだって足を運んであげるのよっ」


 ライラはつい先日、この村からスライムの群れを討伐するよう依頼を受け、この村にやって来たのだという。

 既に仕事は片付いていて、また新しい依頼を探しにどこか大きな街に行く予定で、偶然この村の方へやって来たティエラと出会ったのだ。

 ──それなら、イリータ街までライラと一緒に向かえないかしら。

 道中に魔物や盗賊に襲撃されることを危惧して、ティエラはライラの助力を得ようと思案していた。


 人間同士の争う戦場に立った経験はあれど、魔物との戦闘に関する知識は皆無に等しい。

 敵の実力を見誤るようなことになれば、命などいとも簡単に落としてしまう。

 丁度料理を平らげたタイミングを見計らって、ティエラは問うた。


「ねえライラ。あなたが良ければ、街までついて行かせてもらえないかしら? 私一人では何かと不安なの。あなたが居てくれたら心強いのだけれど……」

「も、勿論構わないわよ! 唯一のスラ友の頼みを断るわけないじゃないっ!」

「それはありがたいわ」


 ライラの了解得たティエラは、早速街へと向かおうと提案した。

 だが、それはすぐさま却下されてしまう。

 その理由は、ライラがティエラの身なりをよく観察していたことにあった。


「アナタ、一人旅って今回が初めてでしょ?」


 迷いの無い、確信を持った瞳でライラは言う。


「確かにそうよ。何故わかったの?」

「身につけている装備品や、雰囲気からわかるわ。上流階級のお姫様か、騎士を辞めてソロハンターか冒険者になろうって感じの子だと思ってたから」


 まだ若いながらも、ライラには確かな観察眼が備わっていた。

 ティエラのように、質の良い装備品を揃える人間は何種類かに分けられる。

 一つは、ティエラのような上流階級の者。または、ライラの言うような資金面に余裕のある騎士など。

 もう一つは熟練のハンターや冒険者、ベテランのギルドメンバー。

 ティエラには魔物に関する知識の無さや、ライラに街への同行を願い出るあたりから彼女の不慣れさがわかる為、これは選択肢から除外される。

 最後は、外見だけ飾り立てた薄っぺらい者だ。

 これは同じ旅の初心者であっても、ティエラの持って生まれた品格を感じ取り、彼女の誠実さや性格を知ればこれには当てはめることなど出来ない。

 よってライラはティエラがただの薄っぺらい少女ではないと断言出来たのだった。


「凄い……! 当たっているわ」

「でしょ? 今まで何人ものひよっこを見てきたけど、この私の予想が外れたことなんてないのよ! というワケで……」


 宿屋を出ると、すぐ隣に建てられた簡素な商店に到着した。

 小さな店ながら、二人以外にも客が居た。それなりに繁盛しているらしい。


「街に行く前に、必要なものを買い揃えましょ! 移動中の食料や水、緊急時には薬なんかも必要になるんだからね」

「それもそうね」


 店内には干し肉や魚の燻製などの保存食や、動物の皮を加工した水筒、傷薬などの旅に必須な品物が揃っていた。

 他の棚には、鍋や木製の食器といった日用品も並んでいた。旅人も村人も問わず、幅広い層にこの店が利用されていることが(うかが)えた。

 ──今まで気にしたことがなかったけれど、普通ならこういう品は自分で調達するものなのよね。

 戦時下、白狼騎士団をアビラと共に率いていたティエラは、そういった備品の調達には関わっていなかった。

 そもそも、こうやって自らの脚で店に赴くこと自体初めてのことだったのだ。


「街のお店より品数は少ないけど、品物は安いのよねぇ」

「やはり、王都と村とでは物価も違うのね」

「ん? もしかして、王都とかの大都市でしか買い物したことないの?」


 ライラの整った眉がひそめられる。

 自分の身分をどこまで明かして良いものか、ティエラは少し悩んでから言葉を濁した。


「まあ……そんなところかしら。服やアクセサリーを買う時は、家に商人を呼び寄せていたわ」

「アナタ、すっごいお嬢様なんじゃない!」


 ライラは元から大きな目を、更に見開いた。


「だけど、剣や鎧を購入するとなると、私の剣の師と相談して鍛冶屋に注文していたの。一度だけ製作過程を見せて頂ける機会があったのだけれど、やはり買い物は自分の目で、店に赴いて買うことに意義があると思うわ」


 そう言って、ティエラはライラにはにかんだ笑みを向けた。

 それを直視したライラは、同性ながらティエラの言葉に思わず薄っすらと頬を染めた。


「それに、友人と買い物をする楽しさを知った。これに気付かせてくれたあなたには、とても感謝しているわ。ありがとう、ライラ」

「べ、別に……! そんなことでわざわざお礼なんて言わないで良いわよっ」


 友人だと認めてもらえた嬉しさも重なって、顔が火照って仕方がないライラ。

 さっさとお会計済ませちゃいましょ、と早口で店員の元まで逃げていってしまった。

 そんな彼女の照れ隠しに気付いていたティエラは、小さく笑う。するとライラに「笑ってないで早く来なさい!」と急かされ、その後を追った。



 

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