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王女は死神となりて  作者: 由岐
第8章 桜の都
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2.穏やかな夫婦

 梅に連れられ、ティエラ達は華原藤の屋敷へと案内される。

 白塗りの外壁の内側は、上質な木材を用いて建てられた立派な外観の母屋(おもや)が存在感を放つ。

 それを引き立てるように計算された庭園には、一本の大きな枝垂(しだ)れ桜が彼女達を歓迎するかのように風に揺れていた。


 華原藤家当主、政春は三十代後半の物静かな印象の男だった。

 客間に通されたティエラ達は、彼の穏やかな雰囲気に少し緊張が解れたように感じた。


「僕がこの華原藤の当主、政春だ。君が彼の国の姫、ティエラさんだね?」

「はい。到着が遅れましたこと、ここに深くお詫び申し上げます」

「怪我無く我が家に来てくれたんだ。多少心配はしたけれど、君が元気に顔を見せてくれたんだからね。僕はちっとも怒ってなんかいないよ」


 政春は微笑を浮かべ、続けて言う。


「何て言ったって、今日は君が僕らの家族になる特別な日だからね。そんなめでたい日なんだ、にこやかに過ごしたいものじゃないか」

「僕ら、と仰いますと……政春殿には奥方様が?」

「ああ、妻が居る。梅、ちょっと彼女をここへ呼んできてもらえるかい?」

「はい、只今お呼び致します」


 少し待てば、梅は美しい黒髪の女性を連れて戻って来た。

 ──この方が政春殿の奥方様……とてもお優しそうで、二人並ぶとまさに理想の夫婦だわ。

 ふんわりと結い上げられた髪が、花のように香る。

 彼女が身に付けた着物の柄も繊細で、高貴な身分の女性ならば誰もが手本とすべき完全されたヤマト女性の姿だとティエラは思った。


「ようやく来てくれたのね! 初めましてティエラさん。私は政春様の妻の波音(なみね)よ」

「とても明るく朗らかな女性でね。僕らのことは家族として相応しい呼び方されしてくれれば、何と呼んでもらっても構わないよ」

「はい。これからどうぞ宜しくお願い致します」


 深々と頭を下げるティエラ。

 すると、波音が口元を手で覆いながら小さく笑った。


「とても素直で可愛らしい女の子なのね。蘭樹様が気に掛けるのも納得だわ」

「こちらの二人は君の護衛かな? 彼女を遥々桜ノ宮まで送ってくれてありがとう」

「あ、わ、わたしはティエラのスラと……と、友達です! わたしたちは当然の事をしたまでで……」

「そうなんだ? じゃあそっちの君、報酬の方は後でマリシャから受け取っておいてね。それから君達も折角なんだから今日の宴に出席しないかい?」

「あら素敵! 大勢だと楽しいものね」

「ああ。そうだ波音、彼女の為の例のアレはどうなったんだい?」

「丁度準備が整ったところよ。到着が遅れて良かったというのも変な話だけれど、早速ティエラさんに試してもらいましょう!」

「それが良い! じゃあ僕は彼女の到着の件を陛下にお伝えしておくよ」

「ティエラさんは私と一緒に来てちょうだいね。マリシャもお手伝い宜しくね! そちらのお二人は……そうね、梅に任せようかしら」


 激流のように途切れず続いた会話に驚いていると、波音はティエラの手を取って立ち上がった。

 ──このご夫婦、一度会話が始まるとなかなか喋り続けるのね……

 ちらりとライラと乱麻に目を向けると、二人も曖昧な表情でティエラを見上げていた。


 波音に手を引かれながら、マリシャと共に客間から少し離れた部屋へやって来た。

 そこには色とりどりの着物が衣桁(いこう)に立て掛けられており、その美しさにティエラは思わず感嘆の息を漏らした。


「全部ティエラさんの為に仕立てたのよ? 一つあなた宛に贈られたものもあるけれど、きっとどれを着てもあなたに似合うわ!」


 ──これが全て私の為に……?


「きっとどれも高価な品でしょうに……私には勿体無いです」


 ティエラが言うと、二人の背後に控えていたマリシャがそっと口にする。


「ティエラ様、もっとご自分に自信をお持ちくださいませ。波音様はティエラ様のお喜びになる姿を想像して、これらの着物を真剣にお選びなさっておりました。ですからどうか、波音様のお気持ちを()んでくださいませ」

「政春様から連絡がいって、今夜にでも桜花(おうか)城で盛大な宴が開かれるわ。この中から今日着ていきたいものを選んでみて。その後は髪も結いましょう! あ、それとお化粧も!」

「ほ、本当に良いのでしょうか……」

「良いに決まってるじゃない! あなたは今日から私の娘になるんだもの。母様に遠慮なんていらないわ」



 

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