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王女は死神となりて  作者: 由岐
第7章 月影の里
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4.夢

 ──この身体が……私が、死神に……

 乱麻から告げられた内容を、何度頭の中で繰り返し思い出したことだろうか。


 死神はティエラを殺しにやって来た人物だけではない。

 遥か昔から存在していた、闇の一族だったのだ。

 他の生き物や人間の魂を狩り、その魂を神に捧げ続けなければ、緩やかに死の沼に呑み込まれてしまう。そういった呪われた運命を背負わされた人々だったのだ。

 あれからまた乱麻から色々と聞かされたものの、そんな嘘のような話を信じ込んでしまって良いものかどうか悩んでいた。

 しかし、その話の一部が真実であることをティエラ自身が証明してもいたのだ。


 『死神に殺された人間は、稀に新たな死神として甦る』という。

 ティエラは一度、間違いなく死んだ。

 リリシャやマリシャ、そして兄のロディオスと師匠のアビラも、 あの一連の事件を目の当たりにしている。更にフェリヴィアの話では、既に彼女の葬儀まで済まされたというのだから。

 そこまで思考を巡らせたところで、ティエラはある場所が脳裏に蘇った。

 ──まさか、あの花園で私は死の淵を彷徨っていた……?

 ティエラに願いと石を託した、無精髭の男と出会った暖かい花園。

 花が咲き、鳥が歌う穏やかな楽園。あそこがもし天国だったというのなら、死んだティエラの魂があの場所へと赴いたのにも納得出来る。


 ──あの場所で、私は自分の名前すら思い出せなかった。


『未来への花園……とでもいうのかな』


 ──小川に架かった橋の先が未来だというのなら、あそこが天国への入り口だったの……?

 男の言葉が鮮明に、まるでつい先程言われたようなリアルさで思い起こされていく。


『思い出してごらん。どうしても、自分にはやらなければならなかったことがあるのか。強い意志の力があるのなら、思い出せるはずだよ』


 ──彼が告げた言葉。私が死神になった理由。それは……


『嶺禅ダンギクを、この手で殺すこと』


『おじさんなら、君の意志を成し遂げる力を与えられる。その代わりに、おじさんのお願い事を叶えてほしいんだ』


「だからあなたは、私に力を……死神としての力を与えたのね」


 大きなパズルのピースが幾つかはまり、その全貌が少しずつあらわになっていくような感覚だった。

 彼に与えられた新たな命と力は、彼とティエラ……二人の願いを叶える為のものだったのだ。

 ティエラはそう結論を出して、寝室から抜け出した。外の空気を吸いながら、もう少しだけ考えてみる。


 そもそも、あの男は何者だったのか。

 彼が死神の力を与える者なのだとすれば、もしかすると太古に初代の死神を生みだした張本人という可能性もある。

 ティエラのように、まだ生きて何かを成し遂げねばならない強い意志を持つ者を選んでいたのかもしれない。

 ──けれど、そうだとしたら何故彼は死神なんてものを創り出そうとしたのかしら。

 単純に考えれば、彼が神の遣いか何かで、彼の力で死神を創りオーブを集めさせたかったからか。

 オーブは神に捧げるものだと乱麻は言っていた。それを集めて何をするのかまでは聞いていなかったが、他に思い付かなかった。


 この家の主であるルシェの家の庭を眺めていると、そこへ乱麻がやって来た。

 目が合って、そのまま二人で縁側に腰を下ろす。

 先に口火を切ったのは乱麻だった。


「体調は?」

「もう平気よ。ありがとう」

「そうか」


 短い言葉のやり取り。会話が長く続かない。

 彼も死神なのだと知ってから、ティエラは乱麻とどう接すれば良いのか困っていたからだ。

 それに気付かない乱麻ではなかった。


「……嫌だったか、俺と二人きりで話すのは」

「そんな……」

「嫌というより、やりづらいか。それはそうだよな。俺はアンタを殺した……死神一族なんだからな」

「違う! ……そうじゃないの」


 大声に驚いた小鳥が、庭の木の枝から羽ばたいていった。


「乱麻が嫌いだとか、関わりづらいなんてことではないの。ただ……あまりにも急な話で、さっきまでそんな実感も無くて……戸惑っているだけなの。本当よ」

「さっきまで? 今は死神化した実感があるのか?」

「うーん……何と言ったら良いのか、難しいのだけれど。私がこうなった理由は、わかった気がするの」


 それからまた、乱麻から死神についての話を聞くことが出来た。

 死神がオーブを集める理由は、神に捧げる為だ。そうすることで、ティエラのような高熱で命を落とさずに済むからだ。

 そうして生き永らえることで、彼ら死神一族はその身に降りかかった呪いとも呼べるものを解く術を探しているのだという。

 乱麻が〈一陣の風〉のギルドに入って活動していたのも、魔物の討伐で各地を巡ってオーブを集めるついでに、その方法を探す為でもあったからだ。


「未だに呪いを解く手段は見付かっていないが、何もせずただ魂を狩り続ける人生なんて御免だからな。それに、いつかこの身が自由になった時の為にも、〈一陣の風〉で様々な経験を積んでおきたいんだ」


 しかし、魔物だけを狩る死神ばかりではない。ティエラを狙ったように、人間の魂すらも狩り取る者も潜んでいる。

 雑魚の魔物を多く狩るより、人間一人のオーブの方が遥かに上質だからだ。

 上質なオーブが一つ、ただそれだけで魔物のオーブ百個以上の価値があるのだ。

 定期的に一定量のオーブを捧げなければ死んでしまうのであれば、楽をして稼ぎたい。そう思う輩が居るせいで、人の魂まで狩られてしまう。


「もっと強くなって、この呪縛から解放されたら……自分のギルドを持つ。それが俺の、子供の頃からの夢なんだ」

「素敵な夢ね。あなたなら、きっと叶えられるはずだわ」


 ──私の願いとは大違いの、きらきら輝く素敵な夢……

 夢を語る乱麻の横顔に、己の胸に空いた虚しさという穴に気付かぬふりをして。


「私も、私の夢を叶えなくちゃね」

「アンタの夢なら、きっと叶うさ」


 彼女は今日も胸に憎しみの炎を灯す。



 

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