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王女は死神となりて  作者: 由岐
第7章 月影の里
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1.乱麻の罪

 ようやく谷底に下りた乱麻達は、まだ昼間だというのに薄暗く木々が茂る森を歩いた。

 ライラはあれきり弱音を一切吐かず、未だ熱に苦しみ生死の境を彷徨うティエラの世話を焼いている。

 鳥の鳴き声が近くでしたかと思うと、その鳥はすぐにそこから飛び立っていった。

 それに気付いた乱麻はライラに言った。


「迎えが来るな」

「え? 迎えって、里の人達の?」

「今そこから飛んで行った鳥が居ただろう? あれは里長の使役している八咫烏(やたがらす)だ」


 三本足のカラス──八咫烏が向かった方向には、確かに村があった。一言で言い表すなら、辺境の村。

 村を囲う質素な柵や、日当たりの悪い土地でも育ちやすい作物が並ぶ畑が見える。

 ──ここに帰って来るのは一年振りだったか。さて、里の皆は二人の客人にどんな歓迎をするのだろうな……

 村の出入り口には、数人の村人が集まっていた。ライラにとってここは父親の故郷である。

 この中に親族が居るかもしれない。そう思うと、ライラは複雑な心境だった。


「おかえりなさい、乱麻。そしてようこそ、同族のお嬢さん」


 村人の一人が代表して挨拶をした。滑らかな赤い髪を持つ、落ち着いた雰囲気の女性だった。


「同族って……何でわかるの?」

「それは勿論、貴女からから私達と同じ血を感じるからですよ。まだ若い貴女には、これが上手く伝わらないのでしょうね」


 血を感じると言ったその女性はルシェと名乗った。

 ルシェはレモナに乗せられたティエラを見て、すぐに彼らがこの里を訪れた理由を察した。


「……すぐに私の家に彼女を運びましょう。ライラさん、だったかしら? 貴女はそのスライムさんと一緒に私の家へ、乱麻は里長様の所へ行きなさい」

「ああ」

「は、はい!」


 里長の館へと向かう乱麻に、他の村人達はすぐに道を開けた。


「私の家はこっちよ。そちらのお嬢さんのお名前、教えてもらえますか?」

「あ……えと、この子は……ティエラ、です」

「ティエラさん……。そう、本当にあるんですね、こういうことって」


 意味深長な物言いをするルシェに、ライラは言い知れぬ不安を抱いた。

 ──乱麻もそうだけど、このルシェって人も何か大事なことを隠してる。確かめた方が……良いわよね。あの子の為にも……!


「あ、あの!」


 少し前を歩いていたルシェが振り向いた。

 俯くライラに、ルシェは小さく笑みを向けている。


「ずっと、気になってたことがあるんです」

「……私に答えられる話なら、ライラさんに教えてあげられますよ」


 立ち止まった二人とスライム達。ライラはごくりと唾を飲み込んで、顔を上げた。



 里長の館は大きく枝を広げた大樹の上にあった。


「暫く見ないうちに、また一段とあやつに似てきおったのう」


 腰が曲がった着物姿の老人が座る座布団を前に、乱麻はどっかりと腰を下ろす。

 館の奥、畳敷きの大きな広間で二人は向かい合っていた。


「そんなのはどうだって良い。里長、もう八咫烏を伝ってこっちの事は全部わかってるんだろう。さっさと準備しないと……」

「それもそうじゃな。全く……お前さんのその態度も、若い頃のあやつにそっくりじゃて」

「うっせぇ」


 憎まれ口を叩きながらも、乱麻は内心焦って仕方がなかった。

 ジロリと族長を睨むその顔には、嫌な汗が滲んでいる。そんな乱麻の態度が里長の老人には物珍しく、興味深げに観察していた。

 すると、里長は袖から透明なガラスの瓶を取り出し、乱麻に手渡した。


「ほれ、これを持ってお行き」

「……借りが出来たな」

「なぁに、今回の事はお前さんは何も気にせんで良い。色々と珍しいものを見せてもらったからの。その礼じゃよ」


 ──やはりこのジイさんとは馬が合わん。

 不機嫌な態度を隠すことなく、乱麻はすぐさま立ち上がった。そのまま広間を出ようと背を向けた、次の瞬間。


「なあ、やはり彼女は……」

「うん?」


 そう問い掛けた乱麻の表情には、里長への嫌悪以外の色が浮かんでいる。

 それは顔が見えていないはずの里長に容易に想像出来る、不安気な声色だった。


「……俺達と同じに、なってしまったのか?」

「そうでなければ、わしがそれを渡す必要もなかろうて」

「そう……だよな」


 その返事を耳にして、乱麻の胸には大きな後悔が溢れ出してきた。

 ──俺は……どうすれば良かったんだ……!

 強く下唇を噛んで、血が滲む。それでも、彼が犯した罪が覆ることはない。

 己の不甲斐なさに憤りを感じながら、乱麻は突風のように館を後にするのだった。



 

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