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王女は死神となりて  作者: 由岐
第6章 呪われた血
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6.猪突猛進魔法少女

「あのさぁ! どうして見張りは二人で交代でやろうって約束してたのに、何でアナタはわたしを起こしてくれなかったのよ!」


 朝まで見張りを続行した乱麻に、目覚めたライラが怒鳴りつける。

 ライムが森で見つけた甘い木の実を二人でかじりながら、乱麻達は月影の里へ続く道を進んでいたところだった。

 ライラの怒鳴り声を涼しい顔で受け流し、乱麻は柔らかな果肉を堪能する。


「……美味い」

「美味い、じゃなくて! 乱麻ってわたしのこと全然頼ってくれないわよね! ほんと、これだからエリート気取りの男ってヤツは……」

「実際にエリートなんだから仕方ないだろう。優れた者がそうでない者をカバーして、その背中を見せて育ててやる。それが〈一陣の風〉のしきたりみたいなモンなんだ」

「アナタねえ……!」


 怒りにライムを抱く腕に力が入るライラ。すると、ぐにょんと身体が洋梨型に変形していく。

 すると、乱麻はぼそりと言った。


「……言っただろう。俺は生き抜く為に、そういう教育をされてたんだ。あれだけ色々とやられて、逞しくならない方がおかしい」


 それを聞いて、ライラの怒りは一気に鎮火した。

 ──そうだった……。乱麻は、里の人たちから酷い訓練を無理やりやらされて……それなのにわたし、無神経なこと言っちゃった。


「ごめんなさい……! そういうつもりで言ったワケじゃなかったの」

「いや、アンタは悪くない。こんな昔の事をいつまでも引きずってる俺が駄目なだけだ。俺の方こそ、調子に乗っていたと思う。悪かった」

「べ、別にわたしは……そんなに気にしてないから……」


 尻すぼみになりながら、ライラは俯いた。胸元のライムにそっと頬擦りをする。

 ──本当はわたしの方が調子に乗りすぎてたのに……。いつもこんな風に怒鳴り散らして、それで自分から周りの人に嫌われるような態度取っちゃって……

 落ち込むライラに気付いた乱麻が、木の実の最後の一口を飲み込んだ。


「そろそろ谷が見えてくる。そうしたらすぐ里に着く。谷に着くまでにそれを食べ切ってくれ」

「……うん」


 いつもの元気さが感じられない声。乱麻はそれに小さく溜息を吐いた。


「……ティエラが意識を取り戻しても、そんな暗い顔をしていたら彼女に心配されるぞ」

「えっ……?」


 顔を上げたライラ。眉根を寄せた乱麻が頭を掻いた。


「それに、アレだ。アンタのスライム達だって、さっきから心無しか心配そうな顔つきを……していなくもないからな。アンタがその有様でどうする」

「ライムちゃんとレモナちゃんが……?」


 二匹の顔を見れば、確かにいつもより元気が無いように見えなくもなかった。

 しかし、ライラにだけはその表情の違いが明確に理解出来ていた。乱麻の言う通り、ライムとレモナは落ち込むライラを気に掛けていたのだ。

 ──……っ、わたしったらダメダメじゃない。

 目が覚めたティエラと、無事に生き延びれていたことを喜び合いたい。そして、彼女と愛するスライム達と笑顔で旅がしたい。

 ──早く里に行って、ティエラのことを助けなきゃいけないのに。ライムちゃんや乱麻に心配掛けてる場合じゃないのに……!


「……そうだよね。うん、わかった! わたし、もっと強くなる!」


 ──笑顔で頑張れば、きっと色々何とかなるわよね!


「良い笑顔だ。それなら合格だ」

「よーし! ここからペース上げて行きましょ!」


 心に明るさを取り戻したライラは、勢い良く走り出す。


「おい待て! その先は──」


 木々を抜けた先で、ライラに見えたのは──突如姿を消した地面だった。


「きゃああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「馬鹿野郎がっ!」


 ライラの片脚が宙に浮いた間一髪のところで、追い付いた乱麻の手が彼女の肩を掴んでいた。

 後少しでもタイミングが遅れていたら、ライラははっきりと底が見えない谷へ落ちていたことだろう。


「たっ、助かったぁ……!」

「突っ走りすぎだ馬鹿!」


 まさか谷がこんなに近い所にあったとは予想もしていなかった。ライラは勿論、乱麻も肝を冷やしてしまった。



 それからというもの、ライラは慎重に行動するよう心掛けるようになった。

 月影の里へと続く道は、断崖絶壁の細い坂を下っていくものだったからだ。これ以上乱麻に迷惑を掛けまいと、恐る恐る脚を動かすライラ。


「……もう少し早く歩けないのか? これだと里に着く前に日が暮れるぞ」

「そ、そんなこと言われても! わたしだって好きでこんなゆっくり歩いてるんじゃないのよ!? さっきみたいになったら怖くて、そうならないように努力してるだけなのよー!」

「なんて極端な奴なんだ……」


 呆れながら、乱麻は後ろのライラに振り向いた。


「そんなに怖いなら、俺のコートの裾にでも掴まっていろ」

「へっ?」

「それで少しは落ち着けないか? ここであまり時間を食う訳にもいかんからな。ティエラを助けるんだろう?」


 その言葉にはっとして、ライラは力強く頷く。

 そして乱麻のコートにそっと手を伸ばし、それを確認した乱麻が歩き始めた。

 そこからは順調に坂を下り、乱麻は時々吹く強風にビクつくライラを宥めながら進んでいった。



 

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