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王女は死神となりて  作者: 由岐
第6章 呪われた血
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5.初めての看病

 食事を済ませた後、二人は明け方まで交代で見張りをすることになった。

 少し開いた空間の中心に、枯れ枝を集めて作った焚き火の灯りが揺らめく。

 ライラはライムの隣で、掻き集めた落ち葉の上に横たわっていた。どこでもすぐ眠れるのか、寝苦しそうな様子は見られない。

 もう何時間かしたら、ライラと交代する。それまでの間、魔物に警戒しながらティエラの容体に気を配る乱麻。

 ──汗が酷いな。

 乱麻が召喚した柔らかい布で、眠るティエラの汗を拭ってやる。

 ──出来れば着替えをさせてやりたいが、女物の服は召喚出来ん。せめて水分補給をさせるべきか。

 そう判断した乱麻は、未使用の鉄製のコップに水を溜めた。


「……さて、どうしたものか」


 ティエラに意識があれば、彼女にコップを渡してそれで終われたはずだった。

 しかし、熱に(うな)される彼女にどうやって水を飲ませるべきなのか。

 乱麻はその場で固まってしまう。今までティエラの水分補給はライラが担当していた為、この瞬間までそれを一度も気にしていなかったのだ。

 ──ライラはどうやって飲ませていたんだ?

 乱麻は周囲の魔物の気配を探ろうと、そちらに意識を向けすぎていた。もしこうなることが予想出来ていれば、あらかじめ看病の仕方を聞くことが出来たはずだった。

 そう後悔してももう遅い。今更、疲れているライラを起こす訳にもいかないからだ。

 ──自分でどうにかするしかないな。

 胸中で出した答えに、乱麻は小さく頷いた。


「……失礼するぞ」


 両膝を地面に付け、乱麻はそっと手を伸ばす。黒い指抜き手袋が嵌められたその指が、ティエラの細く整った(あご)(とら)えた。

 酸素を取り込もうと、無意識に薄く開かれた唇に目が止まる。

 乱麻はそのまま親指を使い、少女の口を先程までよりも大きく開かせた。熱に浮かされる彼女の荒い息遣いが、より鮮明に聴こえるように感じられる。

 ──これなら、いけるか……?

 コップを持った左手で、彼女の口元に飲み口を近付ける──そこで、乱麻の動きが止まった。


「これでは普通に零れるな。困ったな……」


 仰向けに寝ているティエラに、横から水を飲ませるのは少し厳しい。

 ──もっと上手いやり方はないものか……

 そんな乱麻の悩みを悟った者が居た。

 突然、横たわるティエラの上半身がゆっくりと持ち上がっていく。これまでずっと彼女のベッド兼運び役を担っていた、巨大スライムのレモナの仕業だった。

 それに少し驚いた乱麻だったが、ぽよよんとした身体を持つ可愛らしい魔物、スライム。

 彼らがきちんと人間の言葉を理解する知能を有しているのは言うまでもない。


「……手伝ってくれているのか」


 そう呼び掛けると、乱麻の呼び掛けに応えるようにレモナは柔らかく震えた。


「お前が身体を変形してくれたお陰で助かった。感謝する」


 起き上がったティエラの背中に腕を回した乱麻。

 ──これならさっきよりも安定するな。

 そして今度はまた新しく召喚した清潔な布を持ちながら、左手のコップをティエラの口元へと運んでいく。

 少しずつコップを傾けていく乱麻。身体が水分を欲していたのか、眠りながもティエラは時間を掛けつつ、水を飲み込んでいった。

 多少口から零れた水は、顎の辺りに当てられた布が吸収してくれた。


「全部飲んでくれたようだな」


 空になったコップを見て、乱麻は安心した。

 ティエラを刺激しないようにそこから腕を抜け出し、コップと布を召喚魔法で異空間へと送り返す。

 それからレモナは元の通り平べったい状態に戻り、まるで「一仕事終えたぜ!」とでも言いたげな笑みを浮かべていた。


「もう暫く、彼女のことを頼む」


 レモナにそう言って、乱麻は近くの木の幹に背中を預けて座り込んだ。

 ──さて、明け方までこのまま見張りを続けるかな。

 安らかに眠るライラの寝顔を眺めながら、乱麻はそう思うのだった。



 

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