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王女は死神となりて  作者: 由岐
第6章 呪われた血
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4.生まれ故郷

 森を進んでいると、遂に疲労のピークを迎えたライラが叫んだ。


「もう流石に休みましょ! 今日どんだけ歩いた? もう思いっきり夜だし! 何かご飯食べてさっさと寝たいー!!」

「それだけ口が動かせるならまだいけるだろ」

「バカじゃないの!? アナタ、か弱い女の子を夜通し歩かせるつもり!? ティエラが危ないのは充分わかってるつもりだけど、わたしまで再起不能にさせたいワケ!?」

「そう騒ぐな、冗談だ」

「アナタが言うと冗談に聞こえないから怒鳴ってんでしょーが!!」


 ライラの言う通り、森を覆う木々の先は真っ暗な獣道だった。乱麻が灯した魔法の炎で辺りを照らしていなければ、足元すらよく見えない。

 見上げれば、木の葉の隙間から覗く星空と欠けた月。

 今夜はこの近辺で休むことに決めた。


「そういえば、食料はどうしよっか」


 ライラは持っていた道具袋を取り出し、中身を一つずつ取り出して確認していく。


「海に落ちちゃったせいで、瓶詰めのもの以外は塩味がもれなく追加されてるわよね……。あーあ、このドライフルーツなんて最悪! 一度ふやけたせいで他のとくっつきまくってるじゃない!」

「干し肉は大丈夫そうだがな。案外、ドライフルーツも塩味で甘さが引き立っているかもしれん。後は山菜なんかを集めて、さっとスープでも作ってみるか」


 そう言って、乱麻も自身の道具袋から使えそうな食材を取り出した。


「火は魔法で起こせるけど、調理器具なんてどこにもないわよ。どうやってスープなんて作るって言うのよ」

「鍋や皿、必要なものはその場で出してしまえば良いだろう?」

「はぁ? アナタ、それどういう──」


 小さく息を吐いてから、乱麻は目の前の空いたスペースに右手を翳した。

 すると、そこに薄紫色の光を放つ魔法陣が浮かんだ。突然何を始めたのかとライラが戸惑っていると、魔法陣の中に底の深い鍋やお玉、スープ皿などの食器類とテーブルが出現した。

 ──うむ、やはり便利なものだな。召喚魔法というものは。


「ちょ……ちょっと、アナタ今何したの!?」

「料理と食事に必要なものを用意しただけだ。準備は俺がしておくから、アンタはそのスライムと山菜を集めてきてくれ」

「用意って……今のはまさか、召喚魔法……?」


 狼狽しているライラをよそに、乱麻は召喚した鍋に魔法で水を注ぎ込んでいく。


「み、水魔法!? 乱麻、アナタ何種類の属性を使いこなせるのよ! それに、あんなに多くの物を召喚出来るなんて……」

「最初に言っただろう? 【一通りの武器と魔法は扱える】と。その言葉通りだ」


 そう言われて、ライラは船上での乱麻との初対面での会話を思い出した。

 確かに彼は、白龍に浴びせた闇属性の斬撃と、灯りに使用した炎魔法、そして鍋に水魔法を使って水を溜めてみせた。

 これだけで乱麻は、最低でも三つの属性魔法を扱えることがわかる。

 更に、ライラが一番驚かされたのが彼の召喚魔法のレベルだった。


「わたしでも、物質の召喚は一つしか出来ないのに……」


 ライラが杖を召喚した武器召喚は、乱麻が出した鍋などと同じ物質召喚の類である。

 本人の技量や才能によって、武器や防具、時には建物までもを好きな場所に呼び出せる高難度の魔法。

 ライラのように武器を召喚するのが一般的だとされている。呼び出したい武器を異空間に送り、魔法陣を通じて取り出すのだ。

 物をしまっておける異空間の大小に差が出る為、乱麻のように多くのアイテムを収納出来る者や、建物を召喚する者。それらは圧倒的な魔力を有していると見て間違い無い。


「……扱える属性が多い者には、元から才能があった場合と、無理矢理に属性魔力を身体に叩き込んだ場合の二つがある。俺はその後者だっただけだ。望めば誰だって、全ての魔法を操れるようになる」

「その話、本当なの?」

「ああ」


 レンガをコの字型に組んで、そこに鍋を置く乱麻。


「……ただし、死ぬ程過酷な私刑(リンチ)に耐えられればの話だがな」

「え……」


 その瞬間、ライラは時が止まったかのように感じられた。

 彼女の反応を冷静に受け流し、乱麻は言葉を続ける。


「俺は元々、炎しか適性が無かった。親父がまだ生きていた頃、親父と近所の連中が総出で俺にあらゆる魔法を浴びせてきた。最初は水魔法だった。息をする暇もない程、連続で水を浴びせられた」

「それが、適性を得る方法だっていうの……?」


 震える声で、ライラはそう訊ねた。


「そうだ。水魔法を浴びると、微量ではあるが水の精霊の気に触れる。その気を大量に浴びることで、精霊に干渉する感覚を植え付けていくんだ。そうやって俺は、あらゆる魔法を叩き込まれた」

「そ、そんなのただの拷問じゃない!」

「普通に考えればそうなんだろうな。だが、俺が育ったのは……どれだけ醜くても、生きる術を教え込む場所だった」


 ──死ぬまでに残された人生を、少しでも長引かせる為に。永遠の闇に呑まれるまでの時間を、少しでも幸福にする為に。だが……

 拳を強く握り締め、レモナの上に寝かされたティエラを見る。

 ──他人の犠牲の上に成り立つ人生が、幸福だなんて言えるのか……?

 瞼を閉じ、深呼吸する。

 ──この呪われた運命を変えることは出来ないのか? 抗えないのか?


「……そこが、俺達が向かっている村──月影の里だ」


 乱麻の苛立ちは、しばらく治まらなかった。



 

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