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王女は死神となりて  作者: 由岐
第6章 呪われた血
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2.残された時間

 ザクザクと砂を踏み鳴らしながら、乱麻とライラはティエラを探し続けていた。

 先頭を行く乱麻は、時折背後のライラに目を配って歩く。

 そこからしばらくすると、岩場の多い場所にやって来た。互いに黙り込んだまま進んでいると、不意に乱麻が口を開いた。


「この感覚は……?」

「な、何よ」

「アンタ、魔導士なんじゃないのか?」

「だから何の話よ!?」


 小さく息を吐き、やれやれといった様子でライラに振り向く。乱麻の声色には、彼女への呆れが込められていた。


「何も感じないのか? この近くにある、奇妙な魔力の奔流を」

「ええぇ……?」


 眉間に皺を寄せつつ、ライラは彼の言う魔力の奔流を探ろうと、意識を研ぎ澄ました。

 ──一体何だってんだ、この膨大な魔力は……! これはティエラのもの、なのか……?

 乱麻は目に見えない大きな波のような、激しい魔力の流れを全身で受け止めていた。


「わかるような、わからないような……?」

「そんな調子で、よくもまあ今まで一人でやってこれたモンだな。今後は魔力感知の訓練をしといた方が身の為だぞ」

「う、うるさい! わたしは一人じゃなくてライムちゃんたちと旅してたし、自分の魔力を操るのは得意だけど、感知はわたしに向いてないんだからしょうがないでしょ!?」

「相手を感知出来なくて敵に殺されても、不得意なんだからしょうがない、で済ませられるのか?」


 言葉に詰まったライラは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 ──とんだお子様魔導士だな。

 そう心の内で吐き捨てて、乱麻は奔流の発生源へと近付いていく。


「アンタはそこから動くな。何が潜んでいるかわからんからな」

「はぁ!? わたしが足手纏いだって言うの? ふざけんじゃないわよ!」

「ふざけてない。本気で言ってんだよ、俺は」

「うぐっ……」


 苦い顔でその場に立ち止まったライラ。それを横目に見てから、乱麻は腰に下げた剣に手を掛ける。

 ──これ以上、アイツを傷付けるような真似は出来ないんだよ……

 大きな岩陰に近付くにつれて、乱麻が感じ取った魔力は、より強くなっていった。少しでも気を抜けば、その流れに呑み込まれてしまいそうな程だ。

 慎重に距離を縮めていく。

 大岩に身を隠しつつ、息を潜める乱麻。それに釣られて、ライラも呼吸を止めて見守っている。

 ──行くぞ……!

 刹那に飛び出した乱麻。

 その視線の先には、横たわる少女と小さな物体──ティエラとライムの姿があった。


「……お前達だったのか」


 乱麻に気付いたライムと、ばっちり視線が合った。

 岩場に打ち上げられてからずっとティエラの側に居たのか、乱麻の目にはライムが不安げな様子に見えていた。

 静かに剣を鞘に収めると、乱麻はライムと目線を合わせ、片膝を付いて言う。


「彼女を守ってくれていたんだな。ありがとう。向こうにお前のマスターが居る。ここへ呼んできてくれないか?」


 すると、ライムは嬉しそうに飛び跳ねた。乱麻が指差した方へとぴょこんぴょこんとすっ飛んで行く。

 ライラを待つ間、そのままの姿勢でティエラを観察した。不幸中の幸いではあるが、ティエラも海水を飲んでしまった訳ではなさそうだった。呼吸はある。

 しかし、その吐息は熱っぽく、顔も赤らんでいた。

 ──あまり猶予は無さそうだな……


「ねえ乱麻! ライムちゃん無事だったわよ! ……って、ティエラもここに流されてたのね!」

「ああ、だが……」


 明るいライラとは対照的に、乱麻の声は沈んでいた。

 その違和感に気付き、すぐさまライラも二人の側に近寄る。彼女の胸に抱かれたライムも、いつもより元気が無かった。


「呼吸が浅く、発熱もしている。この状態では一人で歩くことはおろか、目覚めるのも難しいだろう」

「そんな……! どうにか出来ないの? ティエラを助けたいの! 何か……何かティエラを助ける方法があるなら教えて!!」


 深く暗い色をした海。

 その水平線から、徐々に明るい空の色が顔を覗かせようとしていた。


「……方法ならある」


 乱麻は立ち上がり、目の前に広がる海を見渡す。

 薄っすらと明るみ始めた空に、岩場を歩く小さな蟹の甲羅(こうら)が照らされる。


「ライラ、知ってるか?」

「な、何を?」


 振り向いた乱麻の背に、太陽の光が輝いた。

 すると、乱麻は足元をうろついていた蟹をつまみ上げた。


「この蟹はヤマトシコンガニって言うんだが、名前の通り紫魂国の海岸に生息する蟹なんだ。つまり、俺達が今居るのは紫魂国──それも、西海岸の方に流されていたらしい」

「どうして西海岸だってわかるの?」


 乱麻は(はさみ)に注意しながら、もう片方の手で甲羅を指差した。


「この子蟹の甲羅には、よく見ると小さな棘が沢山生えているんだ。西海岸に生息するヤマトシコンガニにしか見られない特徴だ」

「ほんとだ……」

「だからここは紫魂の西。ティエラを救う術が、この地域には存在している。大急ぎでそこへ向かうぞ」

「そ、そうなの? ティエラが助かるのね!?」

「今から行って間に合えば、の話だがな」


 子蟹をそっと放してやってから、乱麻は軽々とティエラを姫抱きにした。


「ちょ、ちょっと何やってんのよアナタ!?」

「動けない彼女を目的地まで運ぶんだ。こうするのが一番なんじゃないのか?」


 目を見開いたライラに、乱麻は不思議そうに首を傾げる。


「アナタねぇ! お姫様抱っこしたまま行くバカがどこに居るっていうのよ!」

「馬鹿とは何だ。他に方法があるなら言ってみろ、未熟者」

「うっさい! 未熟者で悪かったわねぇ!」


 そう叫びながら、ライラは船でしてみせたように白銀の杖を召喚した。

 ──感知が出来ないくせに、何故武器召喚なんて高度な魔法が扱えるんだか……


「契約せし魔の者、出でよ我が僕! レモナ!」



 

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