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王女は死神となりて  作者: 由岐
第5章 因縁の白龍
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4.復讐の雷

「わたしが絶対に……おまえを仕留めるっ!!」


 叫びと共に両腕を前に突き出すと、ライラの手元に青白い魔法陣が出現した。

 すると、光に包まれた次の瞬間、彼女の手には白銀の錫杖が握られているではないか。

 ──突然、ライラの手元に杖が現れた……!?

 目の前で起きた現象にティエラは思わず驚き、口を開けた。乱麻も同様に驚いていたが、彼の視線は困惑の色に満ちていた。


「初めて見たわ……」


 ──あれが、武器召喚魔法!

 高度な魔法の使い手のみに扱える、召喚魔法の一種。それこそが、ライラがやってみせた武器召喚だ。

 ティエラとの旅の最中に一切見せることのなかったこの魔法は、異空間から自身の武器をいつでも呼び出すことが可能なもので、白狼騎士団や紅薔薇騎士団を含めこれを使用出来る者は多くない。

 ライラは間髪入れずに詠唱を開始した。今度は彼女の目の前に、先程より巨大な魔法陣が現れた。


「契約せし魔の者……出でよ我が(しもべ)! レモナ!」


 そこから飛び出して来たのは、白い翼を持つ巨大な黄色いスライムだった。


「ライラ殿、お下がり下さい。ここは僕達〈一陣の風〉に──」

「──うっさい! こっち来ないで!」


 武器を手にしたレイを怒鳴り付けたライラ。

 彼女のその表情からは、一切の余裕を感じさせない。


「そうなりますと、僕達が居る意味が無くなってしまいますなぁ」

「知ったこっちゃないわ! いくわよレモナちゃん!」


 白い翼を羽ばたかせるイエロースライムのレモナは、ライラの言葉に応えるように、にんまりと笑っていた。

 ドラゴンを前にして怖気付いた様子は無い。


「お嬢様はお下がりください。ここはライラさんや〈一陣の風〉の二人にお任せしましょう」

「でも、あんな巨大な魔物を前にして、ただ見ているだけだなんて……!」


 いつの間にか、ティエラを庇うように背に隠していたマリシャがそう促した。

 そんな会話をしている間に、レモナはドラゴンに雷魔法を食らわせ始めていた。ライラもそれに加わり魔法を撃ち出す。

 すると、リリシャはティエラの手を取った。


「この場が収まるまで、船室の方へ参りましょう! わたしと姉さんでお嬢さまをお守りします!」

「駄目よ! ライラは私の友達なの。大切な友達を置いて逃げたくない!」


 二人には悪いことをしてしまうと思いながらも、ティエラはリリシャの手を振り払う。

 ライムをそっと下ろすと、ティエラは駆け出した。


「お嬢様っ!?」

「あっ、ダメですよぉー!」


 マリシャの真横を走り抜け、剣を引き抜く。

 純白の龍は、その身に何度も魔法を浴びているにも関わらず、ダメージを受けている様子がほとんど見られない。


「もっと、もっと魔法を……っ!」


 強力な魔法を連発していれば、すぐに魔力が底を尽くのは当たり前だった。

 冷静さを欠いたライラの魔力は、もうほとんど残っていない。


「嘘っ! もう……もう終わりだなんて、認めないんだからぁ!」


 精神を研ぎ澄まし、ありったけの魔力を全身から掻き集めていくライラ。

 しかし、ドラゴンも本格的に反撃を開始した。

 今まで様子見をしていたのか、ライラとレモナが消耗したこの機会を狙い、幾つもの水弾を口から飛ばし始めたのだ。

 ──間に合え!


「はあぁぁぁぁぁっ!!」


 ライラとレモナを襲う水弾を切り裂く、青白い一閃。

 五つ、六つと割かれたそれは、ティエラの魔鉱剣に秘められた力によって無数の氷の粒となった。

 驚異的な駿足(しゅんそく)と跳躍力を見せ付け、まるで空を舞う花弁のように華麗な身のこなし。正しく【白狼姫】や【戦場の桔梗姫】の異名を持つに相応しい一連の動きは、彼女の着地するその瞬間まで、誰もが目を奪われる程のものだった。


「ライラ、怪我は無い!?」

「……あっ、う、うん! 怪我はしてない、けど……」

「もうあまり魔力が残っていないのでしょう? 無理は禁物よ。マリシャ、リリシャ!」


 ティエラの言葉に頷くと、双子はすぐにライラを下がらせた。


「レイは後方支援をお願い! 乱麻は私と前線で戦ってちょうだい!」

「俺達はそれで構わないが、ライラとスライムはどうする?」


 指示通りの配置に付く〈一陣の風〉の面々。隣で剣を抜いた乱麻が、横目でそう訊ねた。


「このまま双子たちに任せるわ」

「わかった」


 レモナもライラの側へと飛んで行った。

 ──さて、このメンバーでどうにかなる相手だと良いのだけれど……

 ティエラ達三人は、ほぼ無傷のままの白き龍と対峙した。



 

 

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