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王女は死神となりて  作者: 由岐
第5章 因縁の白龍
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2.期待の新人

 レイとシオに続いて、ティエラ達も船に乗り込む。

 朝日を浴びて輝く海原と、水平線に浮かぶ緑の大陸。あれこそが、これから向かうヤマト大陸だ。


「ほう、アンタらが例の依頼人か」


 不意に声を掛けてきた青年こそが、レイが紹介したいと言っていた人物だった。

 鈍く輝きを放つ黄金の髪と、色素の薄い紫色の瞳。そして右目の下に泣き黒子(ぼくろ)がある。

 この青年もレイに負けない美青年と言えるだろう。


「ご紹介が遅れましたが、彼こそが〈一陣の風〉期待の新人、乱麻(らんま)殿です」

「もう新人呼ばわりしなくても良いだろう、レイ。一年立ってもまだ俺をそう呼ぶのはアンタぐらいなモンだ」

「おや、そうでしたかな?」

「……この話はまた後でな。俺のことは気軽に乱麻と呼んでくれ。一通りの武器と魔法は扱える。短い間だが宜しく頼む」

「ええ、こちらこそ宜しく」


 簡単に紹介を済ませると、いよいよ船はヤマト大陸へと向けて出港した。


 ティエラ一行を乗せた船は、これから二つの国を抜けて桜樹国へと向かう。

 大陸の南西に位置する桜樹国の他、六ヶ国が存在している。

 大陸の約半分は東の嶺禅国の領土であり、南東の舞国が奪われるのも時間の問題だと言われている。

 一方、西は残る四ヶ国が過去に嶺禅からの侵略に対抗し、今では冷戦状態となっていた。

 これから船は紫魂国の港に到着する予定で、そこから陸路で桜樹まで向かうことになる。本来ならば直接桜樹の港へ行ってしまいたいところではあるが、この時期にあまり長く春海を進むのは良い判断ではない。

 なるべく早くヤマト大陸に到着することを優先しなければ、凶暴な魔物の群れによってティエラ達もろとも船が沈められてしまう危険があるからだ。


「なあ、少し話せるか?」


 ティエラが甲板で海鳥を眺めていると、背後から声が掛かった。


「乱麻……? ええ、構わないけれど」

「早速だが、その腰の剣がちょっと気になっていてな」


 隣に並んだ乱麻は、ティエラの剣を見ながら言う。


「そういえば、あなたは色々な武器を扱えると言っていたわね。私はあまり詳しくはないのだけれど、この剣は信頼する職人に作らせた特注品なの。女性用の剣だから、普通の物よりは軽くて使いやすいわ」

「見たところ、これに使用された金属は魔鉱石のようだが……どこか他の魔鉱剣とは一味違う輝きをしているな」


 魔鉱石とは、地中で金属と魔石が融合した特別な鉱石のことを指す。

 例えば、火属性の力を持つ魔鉱石で剣を作れば、薄っすらと赤みを帯びた剣──魔鉱剣が出来上がる。

 その剣を火属性の適性を持つ者が使うと、物理攻撃に火の力が付与されるようになるのだ。

 しかし、ティエラが持つ剣には特別な製法が用いられている。乱麻は一目でそれを察知していた。


「あら、気付いたのね? 私の剣には、氷と闇の魔鉱石が使われているのよ」

「ほう、それは珍しいな」


 通常、魔鉱石は一つの属性のみでしか武器や防具は製作出来ないとされている。無理に数種類の属性を合わせようとすると鉱石から魔力が消え、ただの金属となってしまうからだ。

 だが、ティエラの持つ剣はその不可能を可能にしてしまった。

 光の当たり方によって、冷たい水色と薄い黒に色を変える魔鉱剣──まだこの世界に数本しか存在しない多属性武器なのだ。


「どうやってそんな事を可能にしたんだ?」


 戦いを仕事とするからか、はたまた単純に武器に興味があるからか、乱麻は熱心にティエラの話に耳を傾けている。

 そんな乱麻を見て、ティエラも悪い気はしなかった。戦術や武具の話題は、白狼騎士団でも日常的に盛り上がる身近な内容だったからだ。


「そうね……多分その鍛治職人にしか出来ないのでしょうけど、この戦争が終われば多属性武器の製法はもっと広がるはずだわ」

「ふむ……」


 顎に手をあて、乱麻は言った。


「限られた者にのみ持つことを許された剣……か。トシさんの言っていた通り、アンタは上流階級の人間で間違いなさそうだな」


 ──余計なことを喋りすぎたかしら……

 〈一陣の風〉を信用していない訳ではないが、ティエラの生存を知られぬよう秘密裏に行動している今、乱麻を含み正体を知られるのは喜ばしくはない。


「……貴族の家に産まれた、元女騎士だもの。貴重な品の一つや二つ、持っていても不思議ではないでしょう?」


 フェリヴィアに告げられたティエラの「設定」を思い出し、緊張の糸を張り詰めながらフードを直した。

 顔はよく見えていないはずだが、何だか落ち着かなかった。


「……それもそうだな」


 乱麻はそれで納得したらしく、ティエラに質問に礼を言ってその場を去った。

 入れ違いでライラがやって来たのだが、どうも様子がおかしい。

 レイにライムの魅力が伝わらなかったショックからは立ち直ったようなのだが、辺りをきょろきょろと見回しているのだ。


「ねえティエラ……何か、変な感じしない?」

「変な感じ? 私は特に……いや、ちょっと気分が悪いわね。船酔いでもしてしまったのかしら」

「そういうんじゃなくて! 何か……妙に落ち着かないのよ。さっきからライムちゃんも小刻みに震えっぱなしだし……」


 その時だった。


「きゃあぁっ!?」


 船が大きく揺れ、二人は咄嗟に近くの物に掴まった。


「な、何なの……!?」


 すると、何かが海面から飛び出し、その勢いで飛んで来た水飛沫がティエラ達を濡らす。

 跳び上がったその影は巨大で長く、それは再び水中に飛び込んだ。


「今のは、もしかして……!」


 ライラは影──春海にて荒れ狂うとある魔物が持つ、脅威的な力を思い出していた。



 

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