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王女は死神となりて  作者: 由岐
第4章 桜の国への誘い
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7.夜明けの旅立ち

 翌日、太陽が街を照らし出すよりも早くティエラ達は寄宿舎の前に集まっていた。

 前日にしっかりと旅支度を整え、まだ暗くはあるが念には念を入れて、ティエラはフードを被って顔を隠している。

 すると、門の所までロディオスとフェリヴィア、そして治癒騎士のネリアが見送りの為にやって来た。


「いよいよだな」

「ああ、本当に行ってしまうのね……」


 ティエラは後ろ髪を引かれる思いだったが、これからの国の未来の為。あの花園の男から託された願い。そして何より、自分の悲願を果たす為。

 自分を愛してくれる二人を置いて、ティエラは旅立たなければならないのだ。


「……ごめんなさいフェリヴィア。私はまた、あなたやお兄様を悲しませることになってしまったわね」


 ──それでも私は、ヤマト大陸へ行かなければ……憎きあの男を、この手で葬る為に……!

 胸裏で唸る復讐の獣を落ち着かせ、平常心を装ってティエラは言った。


「貴女とまた離れ離れになってしまうなんて、心が砕け散る程に胸が痛むわ……。けれど、それもこの戦争が終わるまでの話。あたしが敵を薙ぎ倒して、ロディオス様と一緒に敵国の国王共の首を、ぜーんぶ刈り取ってみせるから……」


 ゆったりとした声色で、恐ろしい言葉を当たり前のように紡いでいくフェリヴィア。

 それを聞いたライラとリリシャは顔が青ざめ、ティエラの背に隠れた。

 一方、双子の姉のマリシャはと言うと、フェリヴィアの発言に何度も頷き、賛同と称賛の意を示している。


「──全て片付いたら、あたし達のところへ帰って来てね」


 ぎゅっと抱き締めて来るフェリヴィアの抱擁を受け入れながら、ティエラはクスリと笑う。


「ええ。この戦争を、必ずレデュエータ王国の勝利で終わらせられると信じているわ」

「この一年で私やフェリヴィア、そして紅薔薇騎士達もお前が知る以上に力をつけてきた。お前の期待を裏切りはしないさ」

「はい、お兄様」


 ティエラがそっと手で促すと、フェリヴィアは名残惜しそうに眉を下げながら、彼女の首元に顔を埋めた。

 美しい紫色の髪や、ティエラの肌の香りを胸一杯に吸い込んで、別れの寂しさを塗り潰したかったのだ。


「……気を付けて、行ってらっしゃい」

「ええ、フェリヴィア……ありがとう」


 フェリヴィアの腕から解放されると、ネリアと門番の騎士達が騎士の礼をとった。


「共に過ごした時間はとても短いものではありましたが、ティエラ様のご期待に添える働きを、我々紅薔薇騎士団員全員で成し遂げてみせます!」

「こちらの事は私達に任せておけ。マリシャ、リリシャ。後の事は大丈夫だな?」

「はい。関連諸国の情勢を読みながらにはなりますが、あちらでの定期報告をお届け出来るよう努めます」


 ぺちゃっ、と何かが落ちる音がしたかと思うと、ティエラは突然呼吸が出来なくなった。

 彼女の顔を覆い尽くす緑色の物体──グリーンスライムのライムが、べったりと貼り付いてきたのだ。


「きゃあああ!? ダメでしょライムちゃん! 私以外の人にべちょったら危ないの!」

「んー! んん~っ!!」

「スライムの反乱……?」

「姉さん、何でいつもちょっとズレたこと言うんですかー!」


 軽くパニックになりながら、ティエラはライムを引き剥がした。

 水分たっぷりのスライムボディによって、酸素を取り込もうと慌てて呼吸を繰り返すティエラの顔は、しっとりと潤っている。

 ライラはティエラからライムを受け取ると、にやーっと満足気に笑うライムにぷりぷりと叱りつけた。


「こ……こんなところで、死ぬのかと思った……」

「ほんっとーにごめんなさいティエラ! もうっ、他の人に迷惑かけないの! べちょるのメッ!」

「ふふっ、何だか賑やかな旅路になりそうね」

「そうだな。……さあ、そろそろ行ってこい。きっとそのスライムもそう言いたかったのだろう」


 ロディオスがそう言うと、ライムは器用にライラの腕から抜け出し、一匹で先に飛び跳ねて行ってしまった。


「あー! また勝手に行動して! 単独行動メッ!」


 それを追い掛けて、ライラも走り出す。


「早く行かないと置いていかれてしまうぞ?」

「そう……ですね。では、行って参ります」


 ティエラはロディオス達に向き直り、後ろの双子達は揃って頭を下げた。

 ライラとライムは、ちょっと目を離した隙にかなり遠くまで行ってしまっている。


「二人を追うわよマリシャ、リリシャ!」

「はいっ!」

「すぐに追いつきます」


 仄暗い石畳みの道を駆け抜けながら、ティエラ達はイリータの街を出発するのだった。



 

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