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王女は死神となりて  作者: 由岐
第4章 桜の国への誘い
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5.花を愛でるように

 桜樹国は、ティエラの受け入れと身の安全を保障する。

 その代わり、今後の彼女の扱いは蘭樹国王の「正室候補」とすること。


 ──どうして私は、婚約だの結婚だのに振り回されてばかりなのかしら……!

 その条件を呑まなければ、ティエラはいつ終わるかもわからない戦時中、寄宿舎から一歩も出られない軟禁生活を送り続けることになってしまう。


「あ、あたしのティエラがっ……お嫁に……!」


 あまりのショックに、フェリヴィアはその場で気絶してしまった。

 倒れる身体を受け止めたのはロディオスだった。


「私だって、気を失いたくなる程ショッキングな交換条件だぞっ、フェリヴィアよ……!」


 悔し気に歯を食いしばるロディオス。


「こ、こんなのアリなの!? いくら王様だからって、こんなとんでもない交換条件出してきても良いワケ!?」

「あまりにも横暴だ! 権力による暴力だ! しかし、あの男は欲するものの為ならば手段を選ばん……。ティエラの為を思ってした事だったが、相手を選び間違えたか……!」

「お、お兄様……」


 ロディオスもフェリヴィアに負けず劣らずのティエラへの溺愛っぷりを披露している。

 だが、その愛を向けられている本人が兄に対して少し引いていることに気付いていない。

 ──そ、それほどまでに家族に愛されているということなのよね……? 多分……


「ティエラ様の結婚式はドレスかしら? それともヤマトの文化に合わせて白無垢で……?」

「ね、姉さん!? ちょっとは空気を読んでください! 今そういう雰囲気じゃないですからー!」

「え……そういうお話だったのではないの?」


 書簡の最後には、ティエラを歓迎する宴が開かれる日程と、彼女を迎え入れる蘭樹からの好意的なメッセージが添えられていた。

 ──すぐにでも出発出来るようにしなければ、この日までに到着するのは困難でしょうね……

 視線を書簡からロディオスに移すと、倒れたフェリヴィアを来客用のソファに寝かせているところだった。


「お兄様。私は蘭樹国王からの申し出を、お受けしようと思います」

「なっ!?」

「ほ、本気で言ってるの!?」


 その発言に、マリシャを除く全員が困惑と驚愕の色を露わにした。


「ティエラさま、本当にご結婚されちゃうんですかぁ!?」

「ちょっと待って! 蘭樹国王は、私を「正室候補」にしたいと仰っているのよ? 候補ということは、まだ正式にそういった間柄になると決まったわけではないわ」


 これがもし候補ではなく、初めから正室として迎え入れたいと言われていたら、すぐに答えは出せなかっただろう。

 更に、ティエラはロディオスの妹だ。十年もの長い付き合いである友人の妹を、無理矢理妻にしてやろうと思うだろうか。

 そう説明してみせると、ライラ達は少しは落ち着きを取り戻してくれた。


「そ……そうよね! 流石に自分の友達の妹を、いきなりどうこうしようなんて思わないわよねっ!」

「そこまで常識外れな男ではないと信じたい……。信じたいが……ティエラ、お前は本当にそれで良いのか?」


 気遣うようにそう訊ねるロディオスに頷き返し、ティエラは言う。


「ええ。私は今、本来ならばこの国に居て良い人間ではありません。名を変え、住む国を他所へ移すことで、少しでもお兄様や皆の不安を取り除くことが出来るのなら……後悔はしません」

「ティエラ……」

「蘭樹国王も、きっとわかって下さるはずです。そうすれば、この国を私という危険因子から遠ざけることに繋がるでしょう」


 死んだはずのティエラの存在がダンギクに知られれば、あの男は今度こそティエラを亡き者にしようと画策するに違いない。

 二度目ともなれば、彼女を狙う側も護る側も、より戦力を増強しようとするだろう。

 あの夜よりも大規模な戦いとなれば、どちらの側もあの日とは比べ物にならない血が流れる──それを回避する為に、ティエラは一刻も早く桜樹国に保護してもらうべきなのだと、この場の誰もが痛感した瞬間だった。


「……お前の覚悟、確かに受け取った」


 ティエラの側に歩み寄り、ロディオスはライラに目を向けた。


「ライラ、妹を宜しく頼むぞ」

「はい!」


 力強く頷いたライラに、ティエラは首を捻った。


「宜しく頼むって……?」


 にっかりといたずらっ子のように笑ったライラと、彼女に抱きかかえられていたライムは、そのとぅるとぅるボディをぷるんと震わせた。


「わたしね、アナタが桜樹に行くって話を、フェリヴィアさんから前もって聞かされてたの。桜樹までの長旅だし、魔物に詳しいわたしにもついて行ってほしいって頼まれちゃってね!」

「そんな……迷惑じゃないかしら」

「迷惑なんて思うワケないでしょ! ホントのところ、頼まれなくってもついて行く気満々だったんだから!」


 ──稽古の前、ライラがすぐにわかると言っていたのはこの事だったのね。

 ライラの気持ちが、とても嬉しい。

 自分の為にここまでしてくれるライラへの感謝と、しかしその裏で感じる申し訳なさを織り交ぜた感情がティエラの胸の中で渦巻いている。


「わ、わたしと姉さんもお供しますからね! ティエラさまとはどこまでだって一緒なんですからー! ねっ、姉さん?」

「ええ。わたしたちのことも、忘れないで下さいませ」


 振り向けば、向日葵(ひまわり)のような笑顔を向けるリリシャと、春の陽射しのような優しい笑みを浮かべるマリシャが居た。


「マリシャ、リリシャ。お前達の働きにも、これまで以上に期待している。私の大切な妹を、どうか無事送り届けてやってくれ」

「はいっ! お任せください、ロディオスさま!」

「此度こそ、必ずややり遂げてご覧にいれましょう」

「じゃあ、早速準備してこなくっちゃ!」


 にやりと笑うライムと、片手でティエラの手を引くライラ。

 ──ああ……


「行きましょ、ティエラ!」


 ──他人との繋がりが、こんなにも心地良く感じるなんて。

 それと同時に、この絆を脅かす存在がティエラの脳裏を(よぎ)る。

 ──そうよ。ライラもお兄様も、マリシャたちだって……私の、あの男への復讐は、こんなにも大切な皆の未来を守る為の戦いでもある。


「……ええ、ライラ!」


 ──だから私は、絶対に、負けられない。



 

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