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王女は死神となりて  作者: 由岐
第4章 桜の国への誘い
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4.百花繚乱の王

 ようやくリリシャが泣き止んだ頃、ティエラをここへ呼び寄せたフェリヴィアが口を開いた。


「今日ティエラを双子達に会わせたのは、あなたの手紙だけでは二人が心から安心出来ないだろうということもあったからなのだけれど……もう一つ理由があるの」


 重要な話が始まると察知した双子達は、さっきまでの再会ムードから気持ちを切り替えた。

 すぐさまティエラから離れ、適度な距離を置いて姿勢を正すリリシャ。その瞳には、まだ涙が滲んでいた。


「それが、例の件──ティエラを桜樹国へ養子に行かせる話よ」


 書類や資料が積まれた大きな机に両肘を付き、手を組んだロディオスの表情は険しい。

 そんな彼の優秀な騎士であるフェリヴィアも、今はロディオスの隣に立ち、いつもの穏やかな笑顔を仕舞い込んでいる。その表情は真剣そのものだった。

 ティエラとライラは、机を挟んだ向かい側に横並びに立ち、その更に後ろにマリシャとリリシャが控えている。


「お前を桜樹へと送り出す日程が決まった」


 幼馴染みとの再会の喜びから一変、ロディオスの一言で空気がピンと張り詰めるのをティエラは感じた。


「以前、桜樹の国王がやって来たのを憶えているか?」

「はい。確かあの時、私が高熱を出して寝込んでしまって、まともにご挨拶すら出来ませんでしたが……」


 現桜樹王は、ロディオスと同い年でありながら、急逝した前国王に代わり国を治めている若い男である。

 前国王がハヴィダット大陸に伝わる美術品や建造物の数々を見物しようと、まだ幼かった現桜樹王を連れ王都アディールへとやって来たのが十年前。

 あらゆるものの美しさに重きを置く桜樹国の王家としては、そういった他国への訪問は特に珍しくはなかった。


 王城に飾られた高価なガラス細工や、高名な画家によって描かれた肖像画、風景画など、あらゆる美術品を鑑賞してもらった。

 その後開かれた歓迎の晩餐会には、ティエラも出席する予定だったのだが、ティエラはその前日から熱を出していたのだ。

 原因は、剣術の鍛錬のやりすぎによる、過労から来る体調不良だった。

 回復魔法、または治癒魔法というものは、傷や病を治したり軽減することは出来ても、肉体や精神の疲労までもを回復させるのは難しい。

 更に、それを聞いた前桜樹王から「幼い姫君に無理をさせたくはない」と告げられたこともあり、ティエラはその夜を自室で過ごすことになったのだ。


 翌朝ティエラが目覚めると、桜樹王と王子はもう城を去った後だった。二人は美しいものを求め、次なる場所へと向かってしまった。

 一度も顔を合わせることが出来なかったが、ロディオスは桜樹の王子と文通をするようになるまで距離を縮めていたらしく、その関係は今も続いている。

 ──現桜樹王……桜川(さくらがわ)蘭樹(らんじゅ)陛下……

 ティエラは無意識に自身の髪飾りに触れた。

 白い花を模したその髪飾りは、後日ティエラに贈られた蘭樹からの見舞いの品だった。あれから十年経った今でも、穢れなき純白の花弁はあの頃のままだ。


「彼の国ならば、お前を快く受け入れてくれるだろう──そう思い、蘭樹へと書簡を届けさせたのが半月前。その返答がここにある」


 ロディオスはティエラに書簡を手渡した。


「読んでみろ」


 頷いて、ティエラは静かにそれに目を通した。

 美しさを重視する国だからか、蘭樹の書く文字はとても綺麗だった。

 こちらの大陸のような羽根ペンではなく、ヤマト大陸特有の筆で書かれていた。蘭樹は博学なのか、レデュエータ王国で広く使われる文字が横書きで並んでいる。

 それに驚いたのも束の間、内容を理解したティエラはより驚愕した。


「何て書いてあるの?」


 隣のライラが訊ねた。


「どうやら、私を養子に迎え入れる家を決めて下さったようなのだけれど……」

「それで?」

「その……私の為に、盛大な宴を催して下さるそうなの」

「うん……? あんまり嬉しそうじゃないけど、何か不安なことでもあるのかしら?」


 ティエラの視線の先に書かれた文字こそが、彼女の眉間に深い皺を寄せ、眉を下げさせる原因だった。


「問題なのが最後のところ。私を受け入れる交換条件として……」


 交換条件と聞いて、他の全員の表情が固くなる。

 既に書簡を読んでいるロディオスも、ティエラのように眉間に皺を寄せ目を瞑って、言葉の続きを待っていた。

 フェリヴィアは女の勘が働いて、嫌な汗が頬を伝う。

 ライラはごくりと唾を飲み込んで、問うた。


「交換条件として……?」


 胸一杯に空気を吸い込んで、ゆっくりと息を吐くティエラ。


「──私を蘭樹陛下の正室候補とすることを申し出る、と……」



 

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