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王女は死神となりて  作者: 由岐
第4章 桜の国への誘い
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1.友達

 あれから半月が経った。

 ティエラは紅薔薇騎士団の寄宿舎で寝泊まりを続けている。

 毎日数人の女騎士達と訓練をしたり、剣技や魔法について雑談したりと、一年前とそれほど変わらない日々を過ごしていた。


 一つだけ大きく異なるのは、ティエラが寄宿舎の敷地から出ることを禁じられていることだった。

 理由は勿論、ティエラの身の安全を守る為だ。どうにかこうにか時間をやりくりし、少しでも顔を見せに来るロディオスとフェリヴィア。

 この半月、多忙な彼らの気遣いに対して、ティエラは感謝と同時に窮屈さを感じていた。

 嶺禅国王ダンギクの手段を選ばぬ報復の恐ろしさは、身を以て体感している。

 だからこそ、ロディオス達は今度こそティエラを護ろうと必死だった。それはティエラも理解している。

 しかし、彼女の内に燃え盛る復讐の炎がいつの日かダンギクを焼き尽くさんと襲い掛かろうとする時が来る。


「皆には悪いけれど、私は……」


 ──お兄様たちに逆らうことになっても、私を襲った死神と、あの男に復讐する……その決意は変わらない。絶対に……!


「何かあったの? ティエラ」

「……っ! ライラ、急に話しかけないで……びっくりしたじゃない」


 朝食後、小部屋が並ぶ二階にある廊下の窓から騎士達の訓練を眺めていると、ライラが声を掛けてきた。

 イリータ街に来た日から、ライラも特別に寄宿舎での滞在が許可されている。

 しかし、タダで泊まる訳にはいかないからと、彼女は宿代として騎士達に魔物に関する知識を教えることにしたのだ。

 驚かせるつもりはなかったの、と謝ったライラも、ティエラと同じ景色に目を向けた。


「何かね……ティエラが怖い顔してたから、声を掛けずにはいられなかったの」


 ライラの気遣いを感じさせる声色で、そう告げられた。

 それを聞いたティエラは、困ったような曖昧な笑みで返す。


「そんな風に見えていたかしら」

「うん……。多分、あの事に関係してるんじゃないの? まあ、その……暗くなったり、怒らない方が不思議だとは思うんだけど」


 ライラの言う「あの事」とは、ティエラの死神事件のことで間違いないだろう。ティエラの無事については、既にロディオスが一部の関係者にだけ明かしている。

 ティエラに近しい人物や、各騎士団長など国の主要人物しか詳細を知らない。それを唯一知っているであろう一般人が、ライラだ。

 ライラ自身も、ロディオス達からあの夜のことを詳しく説明された後、悩んでいた。

 初めて出来た心を許せる友人が、死神に殺されたはずの王女だった。

 しかも、彼女は秘密裏に動き出そうとしている。ライラの観察眼は、ティエラの些細な表情の変化などから、それを感じ取っていたのだ。


「……アナタ一人で、やり返すつもりなんでしょ」


 誰に何を、とは言わない。

 ティエラなら理解する。そう確信してライラは問い掛けていた。


「まさか」

「じゃあ、協力者のアテがあるってことね」


 思い切り図星を突かれたティエラは、隣でニヤリと笑うライラに小声で言う。


「……どうして、そう思ったの?」


 ライラはこれでもかと平坦な胸を張り、ティエラを見上げた。


「決まってるじゃない! わたしとティエラは、スラ友なんだからっ!」


 自信満々で、誇らしげにそう言った。ティエラがそれをぽかんとして見詰めていると、ライラが彼女の手を取った。

 身長差と同じく、ティエラより少しだけ小さいライラの手がティエラにはとても温かく感じられた。

 雪解けが春の訪れを告げるような、そんな暖かさに心が緩んでいく。


「わたしね、アナタとはまだほんの少ししか過ごせてないけど、ライムちゃんと同じくらい大切なスラ友だって思ってる。わたしだけ一方的に好意が桁違いでも良いの! だってティエラは……」


 二人の白い手に注がれていた視線が、絡み合う。ライラのアイスブルーの瞳に、ティエラが映る。


「……初めて出来た、わたしの友達だから!」

「ライラ……」


 思いの丈を明かしたライラの頬は、ほんのり朱に染まっている。

 そのまま見つめ合う中、沈黙を破ったのはティエラだった。


「ライラ……私以外に友達が居なかったの?」

「それ今言う!? そこ気になっちゃったの!?」

「あ、ごめんなさい……失礼なことを言ってしまったわね」

「いや、この流れでそういう反応が返って来るなんて想像してなかったっていうか……!」


 ──私、何かおかしなことを言ってしまったのかしら……

 ティエラは人付き合いが多い方だったが、ライラのように友人として対等に会話出来る相手は限られていた。

 白狼騎士達との会話と、友人との会話では話の内容も雰囲気も少し異なる。ティエラの真面目な性格も重なって、熱い友情や返答に関しての知識が足りていなかったのだ。

 項垂れて大きな溜息を吐いたライラは、気持ちを切り替えてティエラに向き直った。


「まあ良いわ……私の気持ちはちゃんと伝えたから! そういうワケで、わたしこれからちょっとフェリヴィアさんの所に行って来るわね」

「どういう訳で?」

「そのうちすぐわかるわよ。じゃ、また後でね!」

「ええ、また後で」



 

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