表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女は死神となりて  作者: 由岐
第3章 氷結の薔薇と烈火の琥珀
14/45

5.運命の糸

 フェリヴィアの発言にティエラは絶句した。


「王国内では常にダンギクの手の者が目を光らせているわ。レデュエータの弱点や、秘密を探る為にね。このままでは貴女のことが知られてしまうのも時間の問題……そう判断したロディオス様は、貴女を養子に出すことにしたのよ」


 ──訳が……わからない……

 苦悶の表情を浮かべ戸惑うティエラを気遣いながら、フェリヴィアは続ける。


「戦争で家族を失い、心に傷を負った貴族騎士の少女──という設定で、貴女には桜樹国(おうじゅのくに)のとある貴族の養子になってもらうわ」

「……え?」


 桜樹国といえば、一年中薄いピンク色の花を咲かせる桜の樹で有名なヤマト大陸の西にある、それなりに栄えた国だ。

 嶺禅国とはかなり距離もあり、国交も無い。そんな国ならば、ティエラも安全に暮らせるだろうとのことだった。


「身の安全の為に貴女にはヤマトで別の名前を名乗ってもらうことになるのだけれど、それについては……」

「ま、待ってフェリヴィア!」


 ローテーブルに身を乗り出し、ティエラは声を荒げた。


「私に亡命しろと言っているの!?」

「そうとも言うわね。でも安心して! 貴女一人では見知らぬ土地で心細いでしょうから、貴女の幼馴染の双子を連れて行きなさい。本当はあたしも一緒に行ってあげたいのだけれど……。副団長になってしまったものだから、そんなことをしていたらこの街が大変なことになってしまうの」

「そ、そんな……そんなことって……」

「大丈夫よ。この戦争が終わったらすぐに貴女を迎えに行くわ。ちょっと……いいえ、かなり寂しいけれど、もし向こうの国にずっと居たいと思ったら、そのまま桜樹で暮らし続けても良いのよ?」


 その言葉通り寂しげに笑いながら、フェリヴィアは言った。

 そして想像を遥かに超える提案に、ティエラは頭を抱えていた。

 ──お兄様もフェリヴィアも、発想が飛び抜けておかしな方向に……!


 しかし、ティエラは考えた。

 ──……待って。これからヤマト大陸に向かえるのなら、マリシャとリリシャの協力を得られれば、ダンギクへの復讐が思いの外スムーズに実行に移せるんじゃ……?

 携帯したポーションなどが詰まった皮袋の中から、乳白色の石を取り出した。花園で出会った男から託された石だ。

 ──あの人との約束を果たす為にも、私の目的を果たす為にも……比較的安全な所で準備を進めるというのも、案外悪くないかもしれないわ。


「あら……? 綺麗な石ね。魔石かしら?」


 手に乗せた石を見て、フェリヴィアが興味深げに覗き込んだ。

 魔石とは、大地や精霊、そして人間など、あらゆるものが持つ魔力が結晶化した石のことである。

 強い魔力が集まる聖域などに発生しやすく、魔力のコントロールに長けた者なら、無理のない範囲なら自力で作り出すことも可能だ。そういった魔石はアクセサリーや武器にも用いられ、魔石に宿る魔力を利用して様々な効果を発揮する道具に加工されている。


 例えば、マリシャのピアス。あのピアスに使われた赤い魔石は、彼女のものだ。

 道具を使用する本人が作った魔石は、当然の事ながら使用者との相性が良い。よって、マリシャのピアスの力で、彼女自身の魔力感知能力がぐっと向上したのだ。

 魔石の魔力は、減りすぎると石自体にヒビが入ってくる。それを目安に使用者が新たに魔力を注入すれば、魔力が魔石に馴染み、長持ちさせることが出来る。

 ティエラも魔石を使った指輪を着けているが、これはそれほど強力なものではなかった。


「貴女が作ったものじゃないわね。どこでこの石を?」

「ライラに会う前、ある人に貰ったの。私の目的の為に彼が力を与えてくれたのよ」

「彼って……! まさかティエラ、どこの馬の骨とも知れない男の人からこんな贈り物を!?」

「落ち着いてフェリヴィア! 彼は悪い人には見えなかった! あの人は……とても、孤独な人だった」


 フェリヴィアを宥め、手の中の石をそっと両手で包み込む。

 ティエラの脳裏には、あの花園でたった一人、胸の内に深い悲しみと喪失感を抱えた男の笑顔が浮かんでいた。


「彼は、何か大切なものを失ってしまったと言っていたわ。私に力を与える代わりに、彼の半分を見付けると……そう約束したのよ」

「半分を……? どういうことなのかしら」

「それが何を意味するのか、私にはまだわからない。でも、私がこうしてフェリヴィアたちのもとへ帰って来られたのは、きっとあの人のお陰なのだと思うの」


 ──私の復讐と、あの人の『半分』を探すこと……


「……運命の糸は、思わぬところで繋がっているものよ。貴女がそう感じたのなら、あたしはもう何も言わないわ」

「フェリヴィア……!」

「信じなさい、貴女の心を。貴女の心が認めた、彼のことを」


 愛するティエラが信じた全てのものを、フェリヴィアは信じる。

 ティエラは、自身に全幅の信頼を寄せるフェリヴィアの言葉に励まされた。

 ──これは、私だけの運命ではないのだわ。

 ティエラの死がもたらした、大きな争いと死の渦。

 ティエラの帰還によって救われた人々の心。

──私は……姫騎士ティエラは、多くの人々の運命を背負って生きている。私がこの手で、終わらせる……!

 そして、少女に託された希望──彼女の歩む未来が、世界に大きな変化を生み出すことになる。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ