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死神バルフレア

 一時間目の後の休み時間には用務員の姿を見つけることは出来なかった。

そのせいで二時間目の間に、やり場のない怒りが増幅していった。

 そして昼休み。用務員を探す途中に寄った武道場で半ば強引に借りてきた竹刀を両手に、校舎を探し回る。

 大抵の所は探し終わった。残るは屋上か、後はその……男子トイレとか……。

 ええい! 屋上だ!

 階段を駆け上がり、ドアを開けると――

「用務員!」

 居た! こちらに背を向け、フェンスから外を眺めている男、奴だ。

 呼びかけたのに、こちらに顔を向けただけだ。甞めおって……!

「私はこんな屈辱受けたのは初めてだ!」

 竹刀を突きつける。

「勝負しろ!」

 用務員の方にも竹刀を投げる。

 奴にプライドがあるのならば、勝負を受けるはずだ。

 しかし……

「やなこった」

 拾おうともしない。ふざけおって……!

「この臆病者が!」

 叫ぶ。

 だが、用務員は身じろぎもしない。どこか余裕のある様子でこちらに向き直る。

「いい加減にしろお子ちゃまが。ちょっと人より優れてるってだけでもう天狗か」

 天狗だと……!

「だいたいお前みてえな奴は、周りの事なんか考えずに、自分が一番正しいと思って周りを巻き込むんだ」

 言い切りおったな……! こいつは許さん!

「いい疫病神……」

 と――

用務員は言い終わらぬ内に、突然こちらに向かって飛び掛ってきた。

 騙し討ちとは卑怯な……そう思った次の瞬間、

「!?」

 何だあれは。

 用務員がつい先程までいた場所に巨大な鎌が突き立っている。

 奴が出したのか?

 ……違う。大鎌を握っている者が居る。

『馬鹿な!?』

 その大鎌を持つ、死神の如き外套を纏った女も驚いている。

 私も何が何だかわからない。

 ただ、この女からとてつもなく強力な縛力を感じる……! それも討練師とは異質な、背筋を駆け上がる悪寒にも似た縛力。これでは倍雀級どころではない……!

 まさか……まさかこの女は……

「こらぁ六角! 何ぼさっとしてやがる! チャンスだろうが!」

「……はっ!?」

 用務員の一喝で目が覚める。

 考えている場合ではない。

 あの女は間違いなくシレン衆。

ならば倒すまで!

「我が傍らに在りしは霊なる剣! 来たれ! 中窪霊戮錬刀!」

 愛刀を召喚。床に突き刺さった大鎌が抜けず、まごまごしている女目掛け疾走する。

『くそっ!』

「天裂く雷、見えざる銀嶺、降り注ぐ流星――断て! 中窪霊戮錬刀!」

 雷の力を解放。刀身がうっすらと蛍火色に輝き、刃の周囲にぱちぱちと静電気が弾ける。

 同時に加速。一気に相手の懐に飛び込む。

 相手が大鎌を抜き、構えなおしたが、遅い!

 こちらの突きが相手の胸を貫く。

『かふっ!?』

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 そのまま斬り上げ、相手の胸から肩にかけて斬り裂く。

『ぐああああああああっ!』

 絶叫が響く。致命傷だ。

『バカな……。朽狗級たるこの死神バルフレアが……敗れるなど……っ』

「朽狗!?」

 馬鹿な! 有り得ない!

 朽狗級と言えば、シレン衆の幹部。階位では上から二番目に当たり、わずか八人しか存在しない超然たる力を持った魔人たちだぞ! 

それにバルフレアといえば、幾多の上級討練師を葬ってきたまさに死神の如き存在だ。こんなところに何故現れた……?

「なんでそんなクラスがこんなところに来ているのだ! 目的を言え!」

『そ……そうか……そんな事もわからん末端討練師に負けたというのか……』

 私の問いにバルフレアは答えず、口の端を上げて笑みを浮かべる。

『死神も落ちたものだ……くは……くははは……っ』

「答えろ! なんで貴様はここに……」

『くははははははははははははははっ!』

 バルフレアは血を吐きながらも、高らかに哄笑する。

 そして、その体から紫の炎が噴き出した。

縛力で己に炎を召喚したのか。自爆する気か!?

「くっ!」

 慌てて飛びのく。

 しかし、炎はただバルフレアの身を焼くだけでこちらに向かってくるということはなかった。

『はははははははははははははははははは…………』

 バルフレアの哄笑。

 それは、燃え尽き、消滅するまで続いた。

 ……勝った……のか?

 下級討練師の私が? 朽狗級の、バルフレアをか?

 奇跡以外の何だというのだ……。

「終わったな」

用務員が手を差し出して来る。

「ああ」

 反射的に、その手を握る。

 固い握手――

「……って何握手しているのだ!」

 その手を払う。本当に何を握手しているのだ!

 あまりに自然に手を差し出されたので、つい掴んでしまったが、よく考えれば戦友でもなんでもない。そもそもこいつは一体何だ。

「大体貴様何者なのだ! クチク級の攻撃をかわすわ、先ほどは私の名前を呼んでいたな? 何なのだ!」

「知りたいか?」

 もったいぶる用務員。

「良いから言え!」

「そんなに知りたきゃ四六時中監視すりゃいい。俺ん家に住んでもかまわんぜ?」

「は?」

 言っている意味がわからない。

 俺の家に住め? 性質の悪いプロポーズではあるまいし何を言っているのだ?

 ……しかし、こいつは明らかに何かを知っている。

 私の名前を知っていただけでなく、バルフレアの出現まで読んでいた節がある。常人からすれば瞬間移動に等しいバルフレアの攻撃をかわすなど、本来有り得ない。

 そうだ。常人のはずだ。

 こいつからは一切縛力を感じない。片鱗もだ。

 ならば、だからこそ不可解だ。何故……。

 くっ、こいつの言う通りにしなくてはならないというのは癪だが……確かに四六時中でも監視して調べなければならないか。

 或いは、それが私がこの高校に派遣された理由かもしれん。

「さて、どうするね。お嬢さん?」

「くぅ……不本意だが……仕方あるまい……」

 私は、自分でもはっきりと分かるほど、苦虫を噛み潰したような声で言った。

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