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用務員の男

 今日はシレン獣を狩る通常任務の他に命令された、件の高校潜入という継続任務の初日に当たる。

 組織で一通りの教育を受けてはいるが、学校に通うのは初めてだ。うまく一般人を装えるだろうか。

 ……いや、心配する必要はない。正体が露見したところで信じる者など居はしまい。

 それに非常時には記憶操作も認められる。例の瓶に詰まっている光は、放った場合記憶を奪う光となる。記憶を本来縛鎖空間があった別の世界へ連れて行くのだ。

 無闇に使うわけにはいかないが、なにぶん初めての潜入任務だ。最悪の事態に備えておく必要があるだろう。

 ……失敗の事ばかり考えるとは……

 柄にもなく緊張しているようだ。

 情けない。

 こんなことに意識を割いている暇があるのならば、早く潜入先の間藤高校に向かった方が良いだろう。

 荷物は既に準備している。制服にも着替えた。

 後はこのアパートから高校へ移動するのみ。

 学校までは少々遠い。全力で走れれば何の問題もないが、それで登校していては余りに不自然。登校している姿をまるで見られないのも不自然だ。だが、今までいわゆる普通の生活というものをしたことがない。どの程度の速さで歩けば、普通の高校生の登校時間となるのか……。

 ……いかん。どうにも妙なことばかり考えてしまう。

 どうしたというのだ。

 くっ、とにかく学校に向かうだけだ。

 

「……しまった」

 私としたことが、いつものように疾走してしまう気持ちを抑えようと気にしすぎるあまり、移動に時間をかけすぎてしまった。これでは朝礼に間に合わない。

 急ぐしかあるまい。登校初日に遅刻では不恰好だ。

 先程が遅すぎたのだから、その意識のずれを考えれば多少急ぐくらいで丁度良いはずだ。

「よし」

 足に力を込め、踏み出す。

 と――

 勢いがつきすぎた。これでは跳躍だ。

 もしあの正面の角から人が飛び出してきたらぶつかってしまう!

 空中では制動のしようがない。誰も出てこないことを祈るのみ……

 だが、幸いにして角から誰かが飛び出してくることはなかった。

「ふぅ……全く、今日の私はどうかしているな……」

 

 学校へは何とか間に合った。

 担任教師によってクラスメートに紹介されたのだが……圧巻だった。話には聞いていたが学校とは本当に同年代の者たちが集まる所なのだな。これほどたくさんの同年代の者と会ったことはない。

 組織にも同じ位の年の者はいるが、会うことも希だし、数も多くない。

 自己紹介をと言われたが、名前以外に何か言うべき事があるのだろうか。それなら担任教師が紹介したはずだ。

 言うこともないのでどうしたらよいか惑っていると、特技などを言えばよいと教員から助言された。

 そこで

「外れた関節を自分で治すこと」

 と言ったのだが、みなをあ然とさせてしまった。何かおかしかったのだろうか。それとも誰しも出来ることで特技とは言えないということだろうか。

それで紹介は終わり、指示された席に着く。

 隣の席が空いている。どうやら遅刻のようだ。

 椅子に綺堂晶という名前のシールが貼られてある。

 結局その綺堂とやらは、一時間目の途中にびしょ濡れの姿で現れ、体操服に着替えるよう命じられ、出て行った。

 一体何であんな格好で現れたのだ? わからん……。

 着替えるだけなのですぐに戻ってきた。気にならないわけではないが、それより授業だ。

 英語の授業なのだが、英語は組織で習っている。

 既に習得していることを説明されているということを差し引いても、どうにも理解できない。内容がではなく、システムがだ。

 マニュアルに沿う形なのがわかるのだが、効率が悪すぎる。これでは何が教えたいのかわからない。生徒に何を習得させたいのだ? 文法なのか? 日常会話なのか?

 どうにも納得がいかない。

 文句を言おうと立ち上がり、二言三言喋った所で若い男が教室に入ってきた。

「はいは~い、ストップ。どうも~、先生すいませんね」

 何だこいつは。

 いくら私でも授業中に男が乱入してくるのが異常だということくらいわかる。

 そいつに素性を問うと、どうやら用務員のようだった。

 そして、私に挑戦的な態度を取ってきた。

 挑発のつもりか……面白い……ならば受けて立ってやる!

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