魔王の罰
「……早く来すぎたな……」
翌日、待ち合わせの場所に時間よりかなり早く来てしまったため、俺は結構寒い中、魔王を待つハメになった。
「……待たせたわね」
「どうしました?機嫌が悪く見えますが……」
「なっ、何でも無いわよ!アンタの方が先に来てるからって……別に悔しくなんてないんだからねっ!」
ツンデレ乙、だが彼女より遅く来たら来たで文句を言われる……それに比べたらマシだろう。
「で、要件はなんです?」
「そうね……今日一日、アタシの言う事何でも聞きなさい!」
「……可能な限りで」
やっぱそう来るか……。というかデートだろ……突っ込んだら殺されるから言わないけどさ。
「まずは……城下町の被害状況を確認しに行くわよ」
「わかりました」
俺と一緒にする必要があります?それ。と言いたくなるが我慢我慢……。
というわけで俺たちは城下町へ出掛ける事になった。
「あ、噂の人間じゃねーかー」
「人間じゃねーかー」
何だこの生意気なガキ共は……?
「あ、魔王様と一緒だー」
「一緒だー」
「この子たちは城下町に住んでる子供たちよ」
魔族の子供たちは魔王に良く懐いてるようだ。
ここだけ見ると……ここが魔族の支配する地域じゃなく平和な一国家に見えるから不思議だ。
周りを見れば昨日の戦闘で建物に結構な被害が……そういや一番壊したのって俺じゃ……いや、そうだとしても反乱軍のせいにしておこう。うん。
もし反乱軍のせいにも出来なかったら魔剣のせいにしよう。うん。
「魔王様デート?」
「デート?」
こいつら……そんな事言ったら魔王が大変な事になるぞ。
「な、な、な……」
現に顔を凄い赤らめて小刻みに震えてる。なんか可愛いぞそれ。
「羨ましいか?」
「ちょっ!ジョーカー!?アンタ何を……」
「人間のくせに凄いなー」
「凄いなー」
「元、人間な」
今の俺の体は魔剣のおかげで魔族化してるからな。瞳は赤色に染まっている。
「さ、さっさと行くわよっ!ジョーカー」
「はいはい……で、今度はどこに行くんです?」
「朝早くだったから朝食食べて無いでしょう?」
「……わかりました」
これは俺が奢るのか?そういや魔族って人間の通貨使えるのか?
そうしてるうちにとある飲食店までやって来た。
「ここ、すっごく美味しいって話よ」
「そうですか」
……魔王は目的を見失っては無いだろうか……いや、デートが目的ならそれでいいが……肝心の罰を忘れて無いか?まあ、忘れてた方が断然良いけど。
「さあ、アタシの奢りよ」
完全に忘れてますねこれは。ならいい。
というかここは本職パン屋のようだ。お持ち帰りも可能なようだが。
あまり迷惑にならないよう安めのもので……。
「これは……」
「ありがとうございます、暫くしたらお持ちします」
……やってしもうた………。
「ジョーカー?」
「…はい……?」
「良い所に目をつけたわね、まさか赤竜のステーキサンドだなんて、最高級の食材じゃない……それにスープもかなり良いものを頼んだみたいだし……」
「すみません…余計な出費を……」
「いいのよ、食べたかったんでしょう?」
「……はい」
ファンタジーでもよく出るレッドドラゴン……そのステーキだぞ!?食べてみたく無いわけ無いだろう?
そしてスープは、野菜スープだが食材が全て高級モノ!見た目的には所謂クラムチャウダーだな。
二つとも値段がバカ高いです。
しかし許してくれるとは……このジョーカー、一生魔王様について行きます……とまでいかないが意外に良い奴だな……。
少しして、料理が出された……美味そうだ。この前みたいに毒は……入って無いよな?
……大丈夫なようだ。
「では、頂きます」
「礼儀正しいのね」
「そうですか?ああ、俺の元居た世界ではこういう挨拶は常識みたいなものですから」
「ふーん」
何気に魔王も俺と同じで一番高いものを頼んでいる。魔王だし金には困らないだろうが。
まあ、高いって言っても高級料理屋じゃないし、そういう店に比べたら遥かに安いらしい。
「そういえばアンタの世界ってどういうとこだったの?」
「……聞きたいですか?」
「言いたくないなら別にいいわ、少し、気になっただけだから……」
まあ、話したくない事も沢山あるがある程度までなら話してもいいだろう。
「俺は、元の世界で…苛めを受けてたのですよ」
「……そんなこと話しちゃって大丈夫なの?」
「問題ありませんよ、俺は無視してましたし」
「すごい精神力ね……」
「いえいえ、結局頭に来て少し挑発染みた言動もしてましたしね……まあ、話はこれからです」
「え?」
「俺を元の世界で苛めていた天道とかいう男……奴は俺と一緒に勇者としてこの世界に召喚されています」
「……今回の勇者召喚は四人と聞いているわ」
「ええ、全員知人ですよ……しかし天道……あいつだけは憎いですね……今度会ったら殺して上げますよ……ククク……」
あ、やべっ……魔王が思い切り引いてるよ……ここは話題を変えなければ……。
「ま、魔王様はなぜ魔王という立場に?」
「……先代魔王がアタシの父親だったからよ」
わーお、地雷踏んじゃった?なんか空回りしてるな……落ち着かんと……。
「アタシは魔王としてしっかりと務められるか不安なのよ……現に部下から嫌われてるようだし……」
クッ……沈んでいく(魔王のテンションが)。ああ、見てて可哀想に……な、何か手は……。
そうだ。
「魔王様が不安に思う事なんてありませんよ」
「え?」
「メビウスから聞きました、貴方の力は素晴らしいものです」
今の魔王……戦闘力は四天王に劣ると言われてるが……あくまで劣っているのは戦闘力だけだ。
この魔王メイラスは歴代魔王の中でも屈指の魔力量を誇っている。
例えば魔法を無効化する結界。
魔族の最高位魔術師が張ろうとしてもせいぜい自分の周囲数十cm程度が限界と言われている。
しかしこの魔王はどうだろうか。ボーギャンとの一騎打ちの際、魔王が張った結界はこれだがかなりの広さだった。
さらにはクーデターの時、彼女は魔王城全域にその結界を張ったのだ……しかもそれを当たり前の様にやっているんだ……かなり凄い部類に入るぞ。
ちなみに俺のマジックイマジネーションでも彼女の結界は破れない。魔法を無効化するらしいからな。
結界がいきなり壊れるイメージをしても何も反応しないし無効化を解くように……も無駄だ。
さらには魔法を無効化する結界を作る事も俺には出来ない。どうやらマジックイマジネーションは魔法に干渉するような魔法は作れないらしい。
マジックイマジネーションの数少ない弱点の一つだな。
「だから、自信を持って下さい」
「ジョーカー……フッ、そうね」
「自信満々の魔王様の方が元気があって可愛らしいです」
「ええ!?ジョーカー、いきなりなんて事を……」
すごい顔が赤くなってる。可愛い可愛い。
「そ、そろそろ町の散策の続きよ!」
「はい」
俺たちは店を後にし、町へ出た。
「ねえジョーカー、これ可愛くない?」
そう言って雑貨屋でぬいぐるみを抱きあげる魔王。
可愛いぞ、魔王が。というか完全にデートになっているぞこれ。
「部屋で抱いて寝るんですか?」
「そうよ、子供っぽいとでも思ったかしら?」
「いえ、可愛らしいですよ」
「~~~っ!」
その恥ずかしがっている仕草が反則的なまでに可愛いんだよ……。
その後も、魔王と色々と見て回り、夕方になった。
「今日は御苦労だったわね、ジョーカー」
何が?ただ貴方と一緒に楽しんでただけですが?と言いたい。本当にただのデートじゃないか。
「ねえジョーカー」
「なんですか?」
「その……本当の名前……教えてくれる?」
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね……俺の本名は一条和馬です」
「カズマ……そう、カズマね」
彼女はひとしきり頷いた後、俺に向かって言った。
「その…特別にアタシの事をメイって呼ぶ事を許してあげるわ!」
「なぜで……」
「敬語もいいわ」
メビウスと同じ待遇なんだが……それでいいのか?
「……分かった、メイ……これでいいか?」
「……うん、これからよろしく頼むわ、カズマ」
「ああ、メイ、公の場ではジョーカーって呼んでくれないか?」
「それはどうして?」
「なんとなく……俺も公の場では魔王様と呼び、敬語で話す……これでいいか?」
「じゃあプライベートな時は今のように?」
「ああ」
「……分かったわ、ではまた明日」
「ああ、またな……メイ」
「うん……カズマ」
魔王……いや、メイとの距離が縮まったような気がした……そんな一日だった。




