魔王城へ
「……碌なことしない気がするな、人間共は……」
俺も人間だがそんな事は棚に上げつつ、俺は本を見て、そんな感想が浮かんできた。
どうやら昔はこの世界に人間、魔族の他に、エルフ、妖精族、獣人が暮らしていたらしいが、アルカイン王国が誕生した約六百年前からエルフと妖精族、獣人が数を減らし、今じゃエルフと妖精族は絶滅、獣人は僅かにしか存在していないらしい。原因は自然災害と書かれてるが……なんで絶滅したかとか僅かな生き残りがいるとかわかるんだろうな?
どう考えても人間共が虐殺したに決っているな。そもそも、人間が他の種族を迫害していったとされる記述が全く無いのが逆に怪しい。記録に残さないようにしてるな。
そして約三百年前、人間は次の獲物を魔族に決めたようだが、中々上手くいかず、今も戦争してると……。
本当、バカなんじゃないか?この世界の人間は自分たちの種族と家畜が生きていれば他は邪魔でしか無いとか思ってるんじゃないか?
「全く……これなら魔族が世界を統治した方が遥かにマシな気がするな」
ちなみに、今俺が居る場所は傭兵の町、トルーパーズというところだ。
文字通り、傭兵が住まう町でさらに、近くに魔族軍の砦があるらしい。
俺はその砦に行き、魔王城まで案内させてもらおうかと思っている。すんなり行くとは思って無いがな。
話を付けるなら魔人だな。ちなみに魔族には種類があって、大きく分けると魔人、魔獣、魔物となる。
魔物は基本、人工的に作られたゴーレムやゾンビ、スケルトン等……少し毛色が違うのがインプなどの使い魔や、スライムが魔物に分類される。
魔獣はゴブリンやオーク、ドラゴンが代表として上げられる。
そして魔人は魔族で言う人間に位置する存在だ。高い知能と魔力を持っていて、魔族軍の中心的な役割を担ってるらしい。
姿はほぼ人間と同じだが、耳が少し尖ってる所、角が生えてる事、羽が生えてる事、瞳の色は赤だといったところが人間とは違うところだ。瞳の色は人間でも居そうだがな。
つまり、話が通じそうなのは魔人なのである。まあ、魔物や魔獣でも人語を解したり、喋れたりする個体は居るらしいがな。ちなみに魔物や魔獣は野生のものも世界各地に居る事になっている。スライム然り、ゴブリン然りだ。
「さて……あの砦にただ乗り込むには不安が残るな……そうだ」
俺は町の外に出て、砦の向かいまで行き、そこである能力を使った。
「ランティス様!近くで見たこと無い生き物が…!」
「詳しく教えてください」
部下の……ゴブリンらしいのが魔人に報告している。
ああ、もちろん俺は砦に透明化を使って侵入している。まあ、砦の近くにあんなものまで出しておいて気付かないはず無いが一応確認の為だ。
「パッと見はドラゴンに見えるのですが……見た事が無く……そして山よりも大きいのです」
「すぐ調査隊を……念の為、戦闘部隊も向かわせて下さい」
よし…計画通りだ。
俺がマジックイマジネーションを使い、砦の近くに巨大なドラゴンを作った……まあ、幻だがな。
実際に生命を創ることも出来るだろうが……かなりの集中力を必要とするからな。だが幻程度ならこの程度は楽だ。
そして俺の狙いは砦内の警備を出来る限り薄くすること……今のこの責任者らしい奴の命令で戦闘部隊のほとんどは俺の作ったドラゴンの幻へ向かうようだ。
そしてこの室内には責任者ただ一人になる。
「何も起こらなければいいですが……」
しかしこの魔人、責任者らしいのに随分と腰が低いというか……威厳が無いというか。
部下に敬語使ってたし、顔は……争いを好まなさそうな優男って感じだ。
まあ今はそれよりもさっさと行動に移すか。
「動くな」
「……っ!?」
俺は透明化を解き、後ろから剣を突き立て脅す。
「な…何者です?」
「人間だ…助けを呼ぼうにも、この中に戦力は殆ど残っていないだろ?」
「まさかあのドラゴン……」
「鋭いじゃないか……ただの幻だ」
「何が目的なんです?」
「簡単だ……俺を魔王の下まで案内しろ」
さあ……どう来る?
「…仕方ないですね……いいでしょう」
……?随分とあっさりだな。罠か?
「…俺に嘘は通じないぞ?」
一応、見抜く事も俺の能力で出来る……今のところ嘘は付いてないようだ。
本当にあっさり過ぎやしないか?
「いいでしょう……大まかな方角は伝えますし同行もします……移動はそちらの転移でよろしいですね?」
……もしかしてこいつ……俺が砦に来た時点で気付いてたのか?転移した時の魔力からその結論になったとするなら……意外と出来る奴なのか?
「……なんで転移が使えると分かった?」
「少し前、魔力の気配を感じたので……気のせいだとは思ってましたがいきなり現れる……転移で決まりでしょう」
「あと、あっさり魔王の下まで案内する気になったな」
「あなたを魔王様の下に送ったとして、四天王にすら勝てませんよ……むしろ四天王の方が今は強いですしね」
どうやら本当の目的まではばれて無い様だ。本当は魔王に話しつけて味方になるという普通に考えればアホみたいな事をしでかそうとしてるわけだが。
「……ちなみにお前は魔族軍内でどんな地位だ?ここの責任者という事はそれなりの地位だとは思うが……」
「その情報は必要なのですか?」
「いいから答えろ」
「……四天王の一人、ボーギャン様率いる部隊の第一部隊兼総隊長のランティスでございます」
本当に地位は高いようだな。確か魔族軍の四天王はそれぞれ部隊を持っていてその中でも第一部隊って言うのは俗に言う親衛隊的な扱いで他の部隊とは一線を画す実力派揃いだ。その隊長には部隊の総指揮、つまり…四天王の代わりを務められるほどの存在というわけだ。
「威厳無さそうだがな」
「よく言われます……ではそろそろ行きましょうか?あなたの魔法なら往復で数分でしょう」
こいつに案内されながら転移で進めば……往復?
「ちょっと待て、往復で数分ってどういう意味だ?」
「帰りは一瞬で砦に帰れるように魔法具を準備していますので」
そういう事か…というか抜かり無いな……かなり有能なんじゃないか?
「ああ…ならさっさと行くか」
俺はランティスの指した方角に向かい、転移をしながら移動していく。一応、俺が思ったものも一緒に飛ばせる。
「凄いですね…一緒に転移するのに触れて無くていいとは…それに、魔力の消費がものすごく少ないようですが?」
どんどん見抜いてくるな……別に俺の正体を明かしてもいいか?
「俺は勇者だからな」
「なるほど…つい先日召喚されたばかりと聞きましたがもう魔王に挑戦しに行くので?それに仲間はいないのですか?」
「どんどん質問してくるな……俺が勇者と知ったから、情報を出来るだけ集めたいのか?」
「……そうですが?」
「あっさり認めやがったな…意外に度胸あるんじゃないか?お前……まあその質問だが俺に仲間なんて居ない事と、別に魔王に挑戦しに行くわけでもないとだけ言っておく」
それを聞いた途端ランティスが驚いたように言った。
「っ!?何が目的なのです?」
やっと動揺してる所が見られたな。
「…魔王城が見えてきたな、後は俺一人で十分だ」
「質問に……!」
「自分で推理してみるんだな」
多分奴は今までの話を聞いて…俺が別の目的があって行動してる事には気づいてるはずだ。
焦ったのは多分、このままだと俺の思惑通りに事が進んでしまう事を懸念しての事だろう。だから言ってやる。
「安心しろ、魔族にとって不利になる事は無い……むしろ、その逆だ」
「それはどういう事です!?」
「俺が話すのはここまでだ、後は何が起きるか楽しみに待っているといい」
「待ちな……」
「じゃあな」
俺は転移して奴の目に前から姿を消した。
……会うのが楽しみだな、魔王よ!