ジャスティツナイツ奇襲
「さて……」
俺はジャスティツナイツの拠点であるという廃古屋まで来ている。
あまり敵は居ないようだ……まあ、ランティス達のおかげだがな。
しかし予想より少ないな……というかランティス達が戦っている場所とは反対の場所で戦闘音が聞こえるんだが……あ、勿論聴覚強化してるぞ。
村の住民が一斉蜂起したか?
いや、ただの村人共が騎士団相手にやり合えるはず無いな……強い冒険者でも雇ったか?
「ま、どっちにしろ俺の仕事が楽になるな」
俺はそう思い、さらに古屋に近付いて行く。
しかしその時、俺の頭上から巨大な火炎弾が降って来た。
「なっ!?」
俺は咄嗟に結界を張り、その火炎弾を防ぐ。
そして上を見ると……ワイバーンがこちらを睨みつけていた。
「ワイバーン……しかも上位種か、厄介な」
しかしこの程度は俺の敵ではないな……俺は奴に向けて巨大な光線を放つ。
「ギャオオオオ!?」
俺の放った光線は見事ワイバーンの体を貫き、奴が堕ちていく。
「フン、お前ごとき、俺に勝てると思っていたか?」
しかしまさか魔獣を使役しているとは……人間にしては珍しいな。
しかもこんな上位種を……どうやって使役してんだ?
魔物や魔獣を使役する方法はいくつかあるが、大きく分けると二つだ。
一つは何か物だったりで交渉して従わせる。
もう一つは洗脳の魔術で洗脳するかだ。こっちの方がよく使われるがな。
まあ一つ目に上げた物は知能ある奴にしか効果ないし。
しかし俺にとってはザコだがこんな上位のワイバーン……どこで見つけてきたんだ?
奴らがこのワイバーンの為に命を掛ける訳無いよな……?
因みにワイバーンには交渉は無意味だ。知能はあるが好戦的だからな……だから無理やり洗脳するしかない。
まあ良い、まずは人質救出が先だ。
俺はさらに古屋に近付くが……その近くに魔法部隊が居たので、身を隠して様子を窺う事にした。
「隊長、前衛を援護しますか?」
「いや待て、まだ命令は来ていない」
「しかし奴ら強いですよ」
「うむ……片方はグランティアナイツ、そしてもう片方が……」
俺はその時意外な言葉を隊長と呼ばれた人物から聞いた――――――勇者と。
てっきり俺は村の連中か雇った冒険者が人質を助けに向かったと思っていたが……まさか勇者だったとは。
「しかしなんであいつらこんな所に……?」
考えても出てこない……何故なら奴らの通ったルートを分析すると魔王城のある方角から逸れていくからだ。
魔王城の正確な位置は分からずとも方角は聞いているはず……だがそれを逸れて勇者共は移動してるわけだ……何が目的なんだ……?
「むっ……了解だ」
「隊長!?」
「指示が来た、総員、勇者を騙る者に天罰を与えるのだ!」
勇者を騙る者……か。だがあいつらの話しから特徴を聞いたから本物で間違いないはず……どうせ自分の正義しか信じないから勇者を偽物扱いしてるんだろ……本当に自己中、自分勝手なクズ共だ。
「おうおう、やってるなあ!」
俺はわざと奴らに聞こえる様に言う。
奴らは勿論それに気づき、俺の方を見る。
「な、何者だ!?」
「いつのまに!」
俺はこいつらに透明化も使って無いんだがな……それで気付けないってこいつら……大したことないな。
「おいお前ら、あっちに勇者が居るそうじゃないか」
「……だからなんだ!」
「まあそんな事はどうでもいい……俺が聞きたいのはこれだ」
俺は奴らの目の前に先ほど倒したワイバーンの死体を転送する。
「なっ……!」
「さあ答えろ、このワイバーンはどこから調達してきた?」
「我々が答えるとでも……」
「こいつを俺は一方的に倒せる力を持っている……答えないならお前らを殺す……」
俺は手の平を奴らに向け、脅迫する。
「一方的だと!?バカな……ボーギャン殿が見繕ってくれたワイバーンだぞ!?」
「何っ!?」
珍しく驚きの声を上げてしまった……だってそうだろ、ボーギャンって……なんであいつが関わってんだ!?
というかこいつも割りとあっさり口滑らしてんな……そっちにも驚きだわ。
「どういうことだ……?」
「ボーギャン殿が言ったのだ……魔王を倒すチャンスを与えて下さると!」
そうか……どうやらボーギャンはこいつらにも接触して一緒にクーデターを起こす気だったんだろうな……もうクーデター事態失敗に終わってるけど。
ちなみに偶にアルカイン王国に行って情報を聞いてはいるがやはり勇者だった俺の魔族の四天王入りは結構人間共の中で有名になりつつある……つまりこいつらはボーギャンが既に死んでいる事に気付いてるはず……。
「残念ながら魔王は……メイは倒せんぞ?」
「ふん、ボーギャン殿ももうこの世に居ないしな……しかしその時提供してくれたワイバーンはまだ使えるではないか!」
「ほう……つまり魔王は倒せずともボーギャンの置き土産を使って自分勝手したと」
「これは正義の為の戦いなのだ!」
歪んだ正義感……では無いな。こいつらは正義と言えば何をしても許されると思っているタイプの人間共だ。
こいつらはボーギャンすら裏切った事になる……というかクーデターが起こる事を知っていても多分来て無かったぞ、こいつら……。
少しだけボーギャンに同情する……あいつもクズだが自分勝手というよりも単純に欲望の塊だろう……魔王の座を欲しがり、魔族の為に戦うつもりだったんだろう……もしかしたらメイの父親が魔王だった時代にそんな事をしなかったのは彼なりに前魔王を尊敬してたからもしれない……部下からも慕われてたみたいだしな……ランティス以外の……まあ予想だし、あいつは下品な性格だったからありえないとも思っているがな。
「なるほど……で、そんな情報をベラベラと喋っていいのか?」
「何、冥土の土産に教えただけだ……ククク」
「プッ…ククク……ハハハハハハハハハハハ!」
俺はこいつらの行動につい大笑いしてしまった。
「何がおかしい……」
「いや、なんでお前らごときの存在が俺に勝てるのかと思って……プッ…」
「ええい!どうせハッタリだ!殺せ!」
うわぁ……身の程知らずってこういうことを言うんだよな……。
俺は能力を発動させ、周りにいた魔術師を大きな爆発で一瞬の内に消し飛ばす。
「なっ……!」
「ククク……お前、俺が誰だか分かってんのか?」
「……その服装……まさか!」
「なんだ、やっと気付いたのか……そう、俺は魔族軍四天王……ジョーカーだ」
俺は魔剣を呼び出しその切っ先を奴に向ける。
「ま、待て!情報を話せば攻撃しないと言っただろう?」
「は?ああ、脅した時のか……別に情報を話したからと言って見逃すとは言って無いが?」
そもそもこんなクズ、生かしておく訳が無いだろう?
「さあ、顕現せよ……暴食の魔剣!」
俺は魔剣をあの醜悪な怪物の口の様な外見に変える。
「た、助けてくれえ……!」
「ククク、死ぬが良い……こいつを喰らい尽せ!暴食の魔剣!」
「ヒッ……ヒギャアアアアアアアアアアッ!!」
俺の暴食の魔剣はこいつの体を見るも無惨に喰い荒らす……今は慣れてしまったが初見では絶対こう思うだろう……「残酷すぎる」と。
俺はここに居た魔法部隊がしっかり全滅したかを確かめる……よし、生き残りは居ないようだ。
さて……このまま人質を救出しても良いんだが……。
「……仕方ない、それに展開は面白そうだしな!」
俺は古屋の中ではなく、勇者たちが戦っているという戦場に向かって行った。
「やはり本物だ」
俺は少し離れた所から様子を窺う。
見た所多数の人間共とワイバーンに囲まれてる状況だな……つーかワイバーン一体だけじゃないのかよ……まあいくら居ようが俺にとっちゃザコ当然だが。
「よし……ここは派手な登場の仕方で行くか」
俺が今からする事……それは―――――――――勇者と協力してジャスティツナイツを潰す。面白い展開だろ?
手始めにワイバーンを俺の能力で消し飛ばし、空から奴らを見下して言う。
「何か面白い事になってんな?」