勇者召喚
無謀にももうひとつの作品を書いてしまった……。
がんばってもう一つの作品と並行していきたいと思います。
「……ッチ!」
俺は舌打ちをする。
なぜならあいつが俺を屋上に呼び出してるからだ。
普通は無視すればいいがそうすると明日から露骨な嫌がらせを受けそうな気がしたので仕方なく向かうことにした。
俺は一条和馬。高校三年生の受験生だ。
しかし、あいつにも困ったものだ。もう受験生だと言うのに俺を苛めるのを一向にやめる気配は無い。
「お、来たね……和馬君」
「お望み通りな……天道」
屋上では天道彰人とその腰巾着である、新井亮が待っていた。
そしてこの天道こそ俺が殺したいとも思えるほどムカつく相手だ。
「来てくれるなんて…嬉しいねえ」
「べつにそいつもお前の本性知ってるはずなんだからその口調じゃなくてもいいだろ?」
「……そうかよ、ならなんでてめえを呼んだか……分かるよなぁ?」
この男……俺とこの腰巾着以外の人には人当たりのいい好青年を演じている。その為、俺が苛められてると教師に行っても信じてもらえない可能性がある。
俺も大人しく授業を真面目に聞いてる方な為、こいつ同様、教師からは優等生と見られているから逆にこいつも俺に何かされたと言っても信じてはもらえないだろう。
だからこの男はこうやって隠れて苛めを行うのだ。
そして今こいつが俺を呼んだ理由だが……心当たりがある。
「それはお前の自業自得だろう」
「あ?何言ってんだ?」
今日はこの男が全治一ヶ月の怪我から治って学校に来た最初の日だったな。
あれは一ヶ月前、学校の階段で起きたことだ。
「おらあっ!」
「……っ!」
俺は後ろからあの男の声が聞こえてきたので咄嗟に今居る位置から離れた。その直後だろう。
「おわああああ!?」
奴はそのまま階段を転がり落ち、大怪我を負った……間抜けな話だ。
大方、俺を突き飛ばそうとしたんだろう。まあ確かにヤバかった。少し反応が遅れていたら俺が怪我してたからな。
そしてその時の復讐とかそんなんだろう。
「オレの気が済むまで殴らせろや……!」
本当に受験生って自覚あるのか?というかここまで露骨に分かりやすい行動に出るとは……。
「おらあ!」
天道が俺に殴りかかって来るが俺も当たるわけにはいかないので回避してく。
「てめえ!避けるんじゃねえ!」
「うるさいな…いっそここから落とせば大人しくなるか?」
俺もこいつには心底ムカついているからか自然と挑発染みた言動をとってしまう。
「この野郎っ!」
こいつが俺に踏み込んだ時だっただろうか。不意に屋上の扉が開き、中から一人の女性が出て来る。
「おっと…何か用かな?彩香さん」
彼女は確か西園寺彩香。俺やこいつらと同じクラスの人だ。
普段から周りを冷めた目で見つめていて少し怖い感じがする。
しかしこいつ……さっきまでのが嘘の様に好青年になりやがって。
「…別に、誰にも言うつもりは無いから好きにして」
「……そうかい、じゃあ和馬君…続きを始めようかぁ!」
彩香さんが言わないと分かった途端素になりやがった。
というか疑わないのかよ……ああそうか。教師や周りからは好青年と思われるから言っても信じないのか。
「いい加減に殴られろやぁっ!」
「ったく……本当にここから突き落としたくなるな!」
いい加減頭に来たので反撃しようと俺も踏み出す……その時だった。
「何だ……?」
不意に足元が光り輝いたと思ったら、地面に幾何学的な模様が浮かび上がってきた。ていうよりファンタジーものでも良く見かける魔法陣だな。
「これは……?」
どうやら俺だけでなくここに居る他の三人も見えてるらしい。
「!……」
彩香さんは一瞬目を見開いたがすぐに元の表情に戻った。すごい冷静だな。いや俺もか。
天道も落ち着いて……なんかニヤついてるな。
「おい……何が起こってるんだ!?」
唯一驚いてるのはこの亮と言う男だけだ。
しかしなんで天道はニヤついてるんだ?いや、本当は分かってるのかもしれない。
これから何が起こるかという事を……。
「……っ!」
魔法陣が光り輝き、思わず目を瞑ってしまう。
次に目を開けた時……そこは薄暗い部屋だった。足元には未だに例の魔法陣があるが。
「こ…ここは?」
亮は何が起こったか全く理解してないようだ。
彩香さんは分からないが……恐らく俺と天道は予想がついている。
「おお…成功だ」
目の前に居た数人のローブを着た人達の一人が喋る。
「何が成功なんです?」
一応初対面には好青年の方を演じているな。というかさっきから顔がニヤついてるぞ。分かってるだろ。
「勇者召喚で御座います」
さも当然のように応える。……ほらな。
俺はこういうファンタジーものが嫌いではない。それは不服だが天道にも言える。
「ささ、まずは王に会って頂きたい」
「構いませんよ、行こうか」
おいお前、何リーダー面してるんだと突っ込みたくなったが我慢し、玉座へ案内させられた。
「ほう、彼らが今回の勇者であるか……」
王様……なのか?着てる服が黒に近い青色でなんか禍々しい感じがするな。
まあいい、今はそれより「今回の」に引っかかった。
つまり今までも定期的に勇者の召喚が行われてたということになる。
「今回は大成功で御座います、何せ、四人も召喚されたのですから」
大臣の男が王様に耳打ちするように言う。つまり基本は四人も召喚されないのだろう。一体何人ぐらいだろうな。
「では普段はどれくらいで……?」
天道も気になったのか質問する。
「普段は良くて二人、三人以上は滅多にありません……もちろん四人の召喚も過去には例はありますしそれ以上もあります、それでもやはり四人も召喚されるのは極めて稀で御座います」
ローブを着た男……多分召喚士であろう男が説明する。
「オホン、ではそろそろ本題に入っても宜しいかな?」
王様が軽く咳払いし、話を進める。
「もしかして魔王を倒してほしい……ということですか?」
「…そなた等も知っているのか」
「ていうことは昔召喚された勇者も同じように当ててきたのですね」
「うむ、そなた等には魔王を討伐すること…そして魔族を出来る限り少なくしてほしい」
王様の話をまとめると、人間と魔族の争いは約三百年前から始まり、戦況は拮抗した状態が続いたらしい。
そこで、切り札を…というところで目を付けたのが異世界からの勇者召喚。
どうやら勇者はこの世界と異なる理の存在であるからか、基本身体能力とかがこの世界の人達に比べ、遥かに優秀でその上特別な能力まで使えるらしい。
「では聞きたいのですが今までの勇者は魔王に敗れて……?」
たしかに…今回のと言ってる辺り、過去の勇者は生きてはいないだろう。
「たしかに勇者はこの世にはいない……だが相打ちながらも過去の魔王たちは勇者に倒されておる」
「それはどういう……?」
「どうやら魔族は魔王が倒されようともその血族や他に力あるものが魔王の座を引き継いでおるのだ」
「それじゃおれたちも死ぬんじゃねえか!」
やっと喋ったか……たしか亮だっけ?もう腰巾着でいいや。
「それについては問題ないかもしれぬ」
ん?なんか王様がかなり自信ありげに言ってくる。
「なぜなら魔族も人員不足なのか今回の魔王は側近の四天王にすら劣る小娘と聞いておる、魔族自体の数も少なくなっておるだろうし……今回が最後の戦いになるかもしれぬな」
いったいどこからその情報は仕入れて来るんだろうな。しかし、なら大丈夫そうか……。
いや…俺はこいつと一緒に旅なんぞしたくないな。
というかさっきからあいつ俺の方見てキモい笑みを浮かべてんな。
多分、道中の魔物とかから逃げる際俺を見捨てる気満々なんだろうな。本当にこいつには殺意が湧く。
「詳しくは明日話そう、今日はゆっくり休むと良い」
王様はそう言って、俺たちを部屋に案内させる。
こっちも細かい事は明日、考えるか……。