小夜物語 small tales of long night 第16話 屍の宿 The house of the dead
むかーしのことじゃった。
秋田県の山奥に七郎太という若いマタギ猟師がおったそうな。
愛用の火縄銃を持って山深く入り
熊や鹿や猪を獲って生業にしていた。
ある冬晴れの日のこと、、
七郎太は愛用の銃を持って山へ入った。
ところがしばらくすると天候は急変して
山の中は吹雪となってしもうたのじゃ。
必死に道を捜して山を下りようとするのじゃったが
どうにもこうにも猛吹雪で一寸先も見えない。
そのうちに全く道を失いどこをどう歩いてるのかも全く分からないようになって
ひょいと足を取られてまっさかさまに谷ぞこへと転げ落ちてしもうた、
転げ落ちて半ば意識も失いかけて
やっと谷底に着地して
ふーっとあたりを見回すと目の前に藁ぶきの家がすっぽりと
雪に覆われてあった。
こんなところに家があったものか?といぶかりながらも、
やれありがたやと七郎太はその家の扉をどんどんと叩いた。
するとややあってぎーっと木の扉があいて
中から優に6尺はあろうかという屈強な大男が現れた。
「どうなされましたかな?」
「この吹雪で道に迷ってしまいました、猟師でございます。どうかお助け下さい」
大男は無言で、七郎太を招じ入れてくれたのだが、
家の中は囲炉裏が燃えてそりゃ暖かったそうな。
「どうぞ火にお当たりなさい。私は山から山へと移り住んでは、奥山で炭焼きをしているやまがつですが、
実は私はこれから急用があって
あるところへどうしても行かねばならないのです。
それで御泊めしたいのはやまやまなのですが、、
あなた一人きりになってしまうのが心配なのです。」
七郎太は今更この吹雪の中へ放り出されても困るので
「いいえ、、かまいません。よろしければ私一人でここに泊めてください。」
そういって必死に頼むと
「そうですか、、、。では一つだけお約束があります。
良いですか、絶対に囲炉裏の火を絶やしてはいけませんよ。
これだけは絶対に守ってくださいね」
大男はそういうと藁沓と藁がっぱと藁笠に身を包み
吹雪の外へと出て行ってしまったのでした。
一人残された七郎太は囲炉裏の火を絶やさぬように薪をくべていたのだが、、
さすがに話相手もなく、、今までの疲労がどっと湧いてきて、、、、
いつしかふかーい眠りに落ちていたのじゃった。
どれくらい経ったろうか、、
ふと寒さで七郎太が気がつくと、囲炉裏の火は消えかかっていて、、
もう、ほとんど、消えてしまっていた。
見ると奥の部屋から障子をあけて青白い顔をした白衣の女がスーッとこちらを見ているではないか。
それまで気が動転していて、気がつかなかったのじゃが
囲炉裏の間の奥にもう一つの部屋があったのじゃった。
ぞっとして身構えようとするのだが、、なんと、
まったく体が動かない。
その間にも、無気味な女はスーッとこちらに近づいてくる。
七郎太はお守りの観音菩薩の護摩札をしっかり握りしめ
「南無観世音菩薩、今度の後生助けたまえ」と必死に念ずる、、、。
すると青白い女は、きょろきょろとあたりを見回してしきりに手探りしている。
どうやら七郎太がどこにいるのか、見えないらしいのじゃ。
すると女は悔しそうに歯ぎしりして形相もすさまじく変化して
髪振り乱して、、七郎太を見つけようとしている。
でも見つからない。
七郎太は生きた気がしなかったが必死に
観音様の名号を唱え続ける。
そうこうするうちにやがて、、
扉の隙間から白々と雪ばれの夜明けの曙光が射してきて
それを見ると女は悔しそうにすーっと
奥の間に消えて行ったのじゃやった。
するとそれまで金縛りにあっていた七郎太の体もふーっと
動くようになりあわてて囲炉裏の埋み火を火箸で掻きたて
藁をくべて火吹きだけで吹きやっと火を燃え立たせることができたのじゃった。
やっと明るくなり人心地着いた七郎太。
その時扉を開けて例の大男が雪まみれになって帰ってきた。
大男は七郎太の話を聞くと
「そうでしたか、実はわたしの女房が昨日急病で亡くなりましてな。
それでやまがつの村までどうしても知らせに行かねばならんかったのです。
あなたを同行するのも弱ったあなたではムリですし、、
女房の死をを言うと、あなたと死体を二人だけで置いて行くことになり不安だったのですが、、
といってあなたを吹雪の中に放り出すわけにもいかず、、、しかたなく、
女房の死は伏せて、あなたを御泊めすることにしたわけですよ」
といって二人で隣の部屋に行ってみると
蒲団にはあの女がいまは静かに横たわっていた。
「おそらく、、吹雪の夜には、魔性の物の怪が死人の体に
乗り移って、悪さをするそうですが、、それを防ぐには
決して火を絶やさぬようにせよと私も古老から聞いておりましたよ。
それで、私は出かけるときに念を押して、あなたに決して火を絶やさぬようにとお願いしたわけです。」
「ですが、、あなたはうっかり火を絶やしてしまった。
でも、、あなたの信仰があなたを救ったのですね」
そういうと大男はがらりと扉をあけ放った。
すると雪晴れのまぶしい光がぎらぎらと
小屋の奥まで差し込んでくるのであった。
終り。
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