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風見幽香

どうも、投稿が遅れに遅れてしまって申し訳ございません!!!(土下座)


案は浮かんでいたものの、どうも上手く文を組み立てられず……結果、今までで一番の難産になってしまいました。

僕は、普段は構想を練って内容を洗練させつつ、調子が乗ってきた時に全てのエネルギーを使う勢いでガーーッと書く…という書き方をしているので、どうしても作業スピードにムラが出来てしまうんですよね…

今話の文章も、実のところ半分は今日書きましたからね。中々のハードワークでございました。


とまぁ、そんな努力(自業自得)の結晶です。どうか楽しんでお読み頂けますように。

幻想郷に、夏がやってきた。


夏と言えば…恐らく、人によって思い浮かべるものは違うだろう。

例えば、特有の強い日差し。

例えば、炎天下の下、寄せて返す波音。

例えば……そう、夏の第二の風物詩『夏風邪』。



幻想郷の文明は、外の世界と比べて大幅に遅れている。

具体的にどの位かという値は出せないが、こと生活水準においては江戸時代後期辺りでストップしている筈だ。

突然だがこの時代は、病気に対する考え方が今とはまるで違う。

オランダ等諸外国より流れてきた知識こそあったものの、それを根本から理解できている医者はごく少数だった。それに、手書きによる写本だとミスも多い。

その為、患者を診る事のできる医者はいても、患者を治療する事ができる医者の絶対数は相当に少なかったのだ。

その為、ただの風邪をこじらせた末にあっさりと死んでしまう、などという事も珍しくは無かったそうである。


それに、医療技術の発展を妨げていたものがもう一つ……民間療法が、蔓延り過ぎていたのだ。

生姜湯や卵酒などが、それの代表的な例だろう。効果は確かに有りこそすれ、それらはどれも確実なものでは無い。

『この程度なら、医者に頼るまでもない。卵酒飲んで寝てれば治る。』

風邪を引いた時の、作者の祖母の口癖である。

実際それで早く治りはするのだが、毎回毎回熱に浮かされて唸っている祖母を見ては「解熱剤飲めよ…」と思った事も一度や二度では無い。


技術が進歩して、民間療法というものが都市伝説になりつつある現代ですらこうなのだ。それが本格的な治療法として説得力を持っていた江戸時代では……想像するまでも無いだろう。


今回は、そんな不確かな情報に踊らされている少年と、その少年に振り回される少女の話。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「………………」

一面に咲いた向日葵の中を、一人の少年が歩いていた。

齢はやっと十を越した程度……子供と呼んでも、何ら差し支えないだろう。

では何故、妖怪が出ると有名な、人里近くでも指折りの危険地帯であるここへ彼が足を踏み入れるに至ったのか?

理由は単純。近所の子供から、母親の病気を治す為の薬草がここに生えていると言われたのだ。

それは、子供特有の悪意無き(もしかするとあったかは分からないが)嘘だったのかも知れない。


だが、恐らくそれを教えた子供は知らなかった。

向日葵畑に入ってはいけないと大人達が口を酸っぱくして言う、その本当の理由を。




(……どこ…?)

ただひたすらに、目的の薬草を求めて徘徊する少年。

そして遂に、彼の頭上に一つの影が差した。


「……貴方の親は、人の庭には勝手に入って良いものだと教えたのかしら?」


声が上から聞こえてきた事に驚いた少年は、慌てて上を向く……だがそこには燦然と輝く太陽があるだけで、誰も、何もありはしなかった。


「だとしたら、それは問題ね。人里の教育方針の改善を求めなくっちゃあ。」


天を見上げながら(ほう)けていた少年の、今度は背後から声が聞こえる。

今度こそ見逃すまいと、彼は痺れた目を押して後ろを向いた。

そして。

そこにいたのは、日傘を差して鋭い笑みを浮かべる、一人の美女。大自然の色を濃く映した様な、ウェーブのかかった翠の髪が風に揺られ、そのシミ一つ無い頬をくすぐっている。

顔立ちから推測できる年齢はまだ少女とも言えるものだったが、その服装…そして何より、身に纏う雰囲気が常人のそれでは無い。

少年は、理性よりも早くその本能で察した。

これは、人間が敵う相手では無いと。無力な自分は、この存在を前に平伏して許しを乞うしか無いのだと。


そして少年は、蛇に睨まれた蛙の如く身動きを取る事すら許されず…そのまま、半々刻程の時が過ぎた。

次に何が起こるかわからない状況というものは、人間の心にかなりのストレスを与える原因となり得る。

そして、今まさにその状況の真っ只中にいる少年の精神は、早くも限界を迎えようとしていた。


「出て行きなさい。」


唐突に、女性が口を開く。

まともに顔を合わせてから初めての台詞が立ち退き勧告とは、また斬新な挨拶もあったものである。

「え、っと……?」

当然と言えば当然だが、現状を理解し切れない少年。

「もう一度言ってあげましょうか?ここから、出て行きなさいな。」

女性のその台詞で、はっと正気に戻った少年。

「そ、そういう訳にはいかないんです!」

「……へぇ、それは何故かしら?他人の庭を土足で荒らしておいて、随分な言い草じゃない。

せめて理由だけは、まぁ、聞いてあげましょう。」




そうして少年は、全ての事情をその女性に話した。

その女性…四季のフラワーマスターこと風見幽香の本性を少しでも知る者なら、そんな真似は間違ってもしなかっただろう。しかし、何を間違ったかこの少年、彼女の事を『怖いけど綺麗なお姉さん(妖怪だけど)』程度にしか見ていなかった。

勿論そこは天下のフラワーマスター、少年のそんな心は全てお見通しである。その男の(さが)とも呼ぶべき過ちをどんな風にいじり倒してやろうかと、先程まではそんな風に考えていたのだ。

が。


(……ふむ…困ったわね……)


向日葵畑にある植物の全てを、彼女は熟知している。それは薬草においても例外では無い。そして薬草の効能を知るという事は、それが効く病気についても知っているという事。

だからこそ幽香は、少年の母親が患う病の正体を、直ぐに推察する事が出来た。

(よりにもよって労咳とは…お気の毒としか言いようが無いわね。)

労咳。今で言う、肺結核の事である。

現代に至って抗生物質が開発された結核は、そこまで重い病として知られている訳では無い。

だが特効薬の無い時代では、結核は致死率の高い恐ろしい…正に不治の病として、人々の心に恐怖を植え付けていたのである。


暫しの思案。

そして幽香は小さく溜息を吐いて、

「……はぁ、わかったわ。」

と、肩を竦めて言った。

「その病気なら、これから渡す草を粉状に擦り砕いた物を一日に二度、火で炙って吸わせなさい。一月もすれば治る筈よ。」

「……………!あ、ありがとう御座います!」

腰が折れるのでは無いか、という程の勢いで頭を下げる少年。

幽香はその姿を見て、とうの昔に消えた筈のある感情がふつふつと芽生えて来るのを感じた。

彼女は小さく苦笑して、

「じゃあ、少し待っていなさいな。薬を取って来てあげるわ。」

「はい…!」

今度は凄まじい勢いで頷く少年。

……外見の割には行動に幼さが見え隠れする少年だな、と幽香は思った。

いや、探していた薬草が思わぬ形で手に入ったのだ、この位はしゃいで当然なのかも知れないが。


「あ、そうそう。」

「え?」

「私の名前は風見幽香……忘れては駄目よ、もう二度と会わないと思うけれど。」


そう言い残し、幽香は家への道を、少年に背を向けて歩き出した。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「んー………?」

どこにしまったか…と箪笥の中を漁りながら、幽香は先程の自分の台詞について、考えていた。


『もう二度と会わないと思うけれど。』


何故あの時、自分はあんな事を言ってしまったのか…思考を巡らせれば巡らせる程、彼女の脳内は泥沼化して行く。

そもそも人間とまともに会話する事さえ久しぶりなのだ、思った通りに話せなくて当然……と言いたいところだが、生憎と本人はそう思っていなかった。

(……あんな子供相手に、何を動揺する事があるの。私は天下の妖怪、風見幽香よ?)

ぱしっ!幽香は頬を一つ叩いて自分に気合を入れ、そして再び箪笥漁りに精を出すのであった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「あら、こんな所にあったのね。」

約五分の捜索の末に今、彼女の手に握られるに至った、一つの巾着。

臙脂色に染め上げられたその中に、薬草が入っている。

(少し古いけど、大丈夫よね。じゃあこれを渡して…それで、あの子とはこれっきり。)

幽香はあえて自分に言い聞かせる様に、心の中で呟いた。そしてその思考が自分でもおかしかったのか、小さく苦笑いを浮かべる。

ぶんぶんと頭を振って邪念を打ち消し、さて届けてやろうかと立ち上がった…その時。


ぞわっ


総毛立った。

先程少年と別れた地点……そこから、植物達の悲鳴が聞こえて来る。

「……………ッッ!」

巾着袋を素早くポケットにしまい込み、全速力で空を駆け、その場に向かう幽香。

先程まで何を考えていたのかなど、もう頭には残っていなかった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「何を…しているッ!!!」

「ひっ……!?」


幽香が慌てて向かった先。そこには案の定、例の少年がいた。

「……お姉、さん?」

「御託は良いわ。とりあえず、ここで何をしていたのか…教えてくれる?」

怒髪天を衝くとは、正にこの幽香を言い表す為に存在する言葉なのでは無かろうか。

燃える瞳で、黙って少年を睨み付ける幽香。だだ漏れの妖気に、少年の顔がみるみる青褪めて行く。

「こ、この、花を……お姉さん…幽香さんに、っ……」

少年の手には、冠の形に編まれた花があった。幽香がいなかった短時間の内に仕上げたにしては、かなり良い出来栄えである。

もしかすると、普段からあまり元気に駆け回る様な性格では無いのかもしれない。

「…………………………」

「幽香、さん……?」

黙り込む幽香を見て、更に震え出す少年。


「……………………はぁ。」


「え…?」

「この花、頂戴するわ。……消えなさい。」

幽香は仏頂面を隠そうともせず、ぶっきらぼうに少年の手から花を奪い取る。その身体からは未だに怒気が滲み出ていたが、それが少年に向けられたものだけで無い事は、彼自身も薄々気付いていた。

「い、いえ…こちらこそ、すみませんでした。」

ぺこりと頭を下げる少年。

それを見た幽香は、未だに震えている彼の頭を小さく撫でた。

「あなた…何を謝っているのか、自分でわかっているの?」

「……………」

「そうでないのなら、無闇に自分の価値を下げる様な真似はしない事よ。」

「……はい、幽香さん!」

幽香が手を退けると、少年は素早く頭を上げ、今度は一転してきらきらとした目で彼女を見つめてきた。

(こ、これはっ………まさか!?)

顰めた眉で誤魔化しつつも、幽香は内心で滝のように冷や汗を流していた。


恐らくこの少年は、今までそれほどいい暮らしをして来なかったのだろう。

それは初対面でのおどおどした態度からも推察できたし、何よりも妻の大事に夫が……この少年の父親が動かないのはおかしい。既に他界しているか、もしかすると逃げてしまったのかもしれない。

つまり、である。

不幸な生い立ちの少年が、母親の病気に効く薬を探しに危険地帯までやってくる。そしてそこに現れ、颯爽と薬を渡す謎の美(少)女。

(ちょっと違うけれど、刷り込み発生……ってとこかしら)

刷り込みとは、生まれたばかりの雛の、『最初に見たものを親と認識する』という習性から作られた言葉である。

幽香の額に浮かんだ皺が、ますます深くなった。

人間と妖怪が一緒にいて良い結果になった例など、聞いたことが無い。捕食者と被捕食者の間には、それほどまでに深い溝が刻まれているのだ。


「……もう、あなたと会う事は無いわ。それだけを持って、さっさと消えなさい。」

最早、少年を追い払うことに躊躇いは無かった。

このままここに居られても、困るのはこの少年なのだから。

「人は、人の中で暮らすのが一番なのよ。」


「………………はい。さようなら、幽香さん。」

少年は、最後まで彼女の方をちらちらと振り返りながら、人里へと帰っていった。


……彼女は、気付いていない。

未練がましい仕草を見せる少年を疎ましく思いつつも、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた、そんな自分の心に。




〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜




あれから、もう幾年(いくとせ)もの時間が過ぎた。


あの少年が今どうしているのかは、私の知るところでは無い。興味が湧かないでもなかったが、どれにしろ妖怪である自分が出て行った所で、彼に迷惑をかけてしまうだけである。

だから……もう、いいのだ。

あれだけ名残惜しそうに去って行った彼が、再び顔を見せる事は終ぞ無かった。その事実が、全てを物語っている。

母親の病気も無事に治って、恐らくだが生活に潤いも出てきた事だろう。今頃は嫁の一人でも娶って、元気にやっているに違いない。

…………………。


この胸の中にある感情は、決して…決して、嫉妬などでは無い筈だ。


何よりそんな感情を抱く理由が無いし、そもそも私はあの少年を『そういう目』でなど見ていなかった……まあ当時の彼は幼かったし、当然ではあるが。

それなのに…何なのだろう、このもやもやとした気分は。


「…………………」


何だか、こんな事を考えている自分が、ひどくつまらない妖怪に思えた。



そういえば最近、また興味深い人間が現れた。あのスキマ妖怪のお気に入りらしい、紅白の巫女服を着た少女。

一度話してみたものの…性格は、あの少年とはまさに真逆。傲岸不遜、自分勝手を地で行く、まさに嵐の様な少女だった。


だが、何だろう。私は彼女に、あの少年に似た何かを感じた気がするのだ。

他の人間の様に妙な距離を取って来ず、常に全力でぶつかってくる、その力強さ。ひ弱な少年だろうと、見た目は華奢な少女だろうと、その本質は変わらないのかもしれない。

……そう思うと、あの少女を見定めた八雲の目は、確かに曇ってはいなかったのだろう。

『度々来る』と言っていたし、今度は茶菓子でも用意しておいてやろうではないか。


それに、あの少女の事を思い出して、ふと思った事がある。


きっと…私はあの少年に、もう一度は会わない方が良いのだ。

人間は、いつまでも少年のままでは、いられないのだから。




夏の終わりを告げる爽やかな風が、私の前髪を僅かに揺らし、通り過ぎていった。

霊夢「どうも、久しぶりの出番でございます。」

魔理沙「ほんと久しぶりだぜー……まぁキャラがキャラだし、気持ちはわからんでも無いが。」

霊「それでも、自分で決めたテーマでしょう?書ききって当然よ、当然。」

魔「毎度の如く辛辣だねぇ…だがそれが良い!」

霊「何か言った?」

魔「い、いえ…何も。」


魔「とりあえず、そんな事ぁどうでもいいんだよ!さっさと次回予告始めようぜ?」

霊「そっちから振ってきた癖に…まぁ良いけど。じゃあ、毎度お馴染みの……どぅるるるるる」

魔「え、私が言うのか!?」

霊「るるるるるる……」

魔「よぉし…じゃぁぁぁあぁああぁあんッッ!!!」

霊「きゃあッ!?」

魔「むふー(達成感溢れる笑み)」

霊「五月蝿いのよ、子供かあんたは!」

魔「良いじゃないかよー、ちょっと霊夢の驚いた顔が見たかっただけなんだよー。」

霊「はぁ…ま、良いけど。とにかく、次話のメインキャラクターは……」

魔「どれどれ…なに、『西行寺幽々子』だぁ?まぁた随分とチャレンジャーだな……」

霊「うわ、幽香の次は幽々子?頑張るわねー……次は紫とかかしら。」

魔「あながち否定し切れないな……ま、作者が何考えてるのかはわからんけど、今回は素直に応援してやろうぜ。」

霊「そうね。何だかんだ言って、今話もちゃんと書ききってることだし。」

魔「よし、それじゃあ…」


霊&魔「「ありがとうございました、次話をお楽しみに!」」

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